海を越えたデバイス
すでに両親が席についているのを見た葵は、案内役の隊員に礼を言ってからそちらに近づいていく。
「おお、来た来た」
両親より先に、要がめざとく足音を聞き付けて振りかえる。
「ジョーンズ准将、紹介するわ。うちの弟」
「初めまして。中将やサンダーボルトからあなたの話は聞いています」
要の前に座っていたガッチリした黒人男性が、立ち上がって葵に握手を求めてくる。葵はそれに応じてから、彼と並んで座った。葵はヴァンダーボルト中将に礼を言いたかったが、そちらは違うテーブルで何やら書類とにらめっこしていた。今はやめておいたほうがよさそうだ。
「この前の冬の作戦では、お世話になりました」
「いえ、お互い様ですよ。中将はあの後、ずいぶん楽しそうでしたから」
ジョーンズ准将はにこにこと人のよさそうな笑みを浮かべた。
「そうだといいんですけど。姉共々迷惑をかけていますから」
「いえ、我々はサンダーボルトに多大な借りがあるのですよ」
白い歯を見せながら准将は言う。本当だろうかと葵はちらりと要を見た。相変わらず、姉はあははと笑いながら回りのアメリカ兵と自衛官に平等にからんでいる。絡まれた方は苦笑いで切り抜けているが、どう見ても迷惑しかかけそうにない。
「はあ、そうですか」
どう答えたものかと迷った葵は、結局答えをはぐらかした。その間に、中将と自衛隊の幕僚が席についていく。会場が暗くなり、会議が始まった。
「この度は両国を代表して集まっていただきありがとうございます。明日より本格的な市街地での銃撃を想定した射撃演習、陣地作りの演習、砲撃演習にかかります。本日の会議は最近技術の発展著しいデバイス研究の進行について、両軍の知識を交換するものであります」
自衛隊の幕僚が話し終わると、中将がすっと前に進み出た。その横には、二人の若い兵士が不動の姿勢で直立している。
「では、アメリカ海兵隊の発表にうつらせていただきます。リアム、マリアナ、前へ」
中将にうながされ、若い兵士たちが段上へ進み出た。その後から、もう一人小柄な兵士が出てきてマイクを握る。
「十年前から試験的に導入が進められていたデバイスですが、ここにきてようやく安定した発育、培養が可能となりました。今年中には大規模な運営演習が可能となるでしょう」
アメリカ軍の予算と施設をもってすれば、十年で日本を追い越すことも可能だろう。そのうちこちらが教わる立場になるかもしれない、と葵は内心思った。
「ただし、デバイス適用者の育成はまだ道半ばといったところでしょうか。各小隊に配置するまでには至っておりません。ですが、日本のAクラスの能力者に匹敵する二人が育っております。皆さんの安全を確保した上で、今日はその成果をお目にかけたいと思います」
室内がざわついた。やけに広い会議室だと思っていたが、なるほどそういうことかと誰かがささやく。それでも念のためということで、兵士たちから数メートル離された場所で一同はデモを見学することになった。ご丁寧に、会場に防護用のシートまでぴっちり張っている。一体何をする気やら、と葵は腕を組んだ。
「さあ、君のお気に召すかね」
いつの間にか葵の隣にきていたヴァンダービルト中将がにこにこしながら言う。
「どうでしょう」
葵ははぐらかした。若い兵士二人のうち、男の方は中将に瓜二つだ。おそらく息子だろう。だからといって、葵は買いかぶりも過小評価もしたくない。気づかないふりをしていた方が、今は都合が良かった。
室内の電気が落とされた。まず男の方が大きく息を吸う。ばちり、と男の回りを白い光が包み込んだ。
「アキレウス!」




