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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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戦後処理は気が重い

「血を好み、強い能力をもち、片腕をかばいたがる。当たりをつけてみて正解やったわ」


 氷雨ひさめがようやくよろよろと上体を起こす。和泉いずみが切ったと思った氷雨の右腕はそこにはなく、ただ大きく切り裂かれた義手があった。義手と言っても人間の手とはほど遠い、燃料タンクに似た無骨な容器であったが。


「やっぱり斬られた腕はくっつかんかったか。代わりにそこを武器にするとは流石やな」


 和泉がわざとのらりくらりと言う。背後からヘリのたてるプロペラ音がした。今まで息を殺して勝負の行く末を見守っていた味方の部隊が、氷雨にとどめをさそうと集まってきている。


「……此度こたびは退きます。いずれ、再び」


 氷雨は素早く状況を理解した。それ以上和泉と会話をすることなく、背を向ける。次の瞬間、もう彼の姿はどこにもなかった。


「おう」


 もう誰も聞いていないのに、和泉はぽつりとつぶやいた。ようやく全身の力が抜け、和泉はしゃがみこむ。


 和泉の目に、大阪市内のそこここからあがる煙が見えた。激しく揺れていた黒煙も、しだいに薄く小さくなり、そして消えていった。煙の数が徐々に減っていくのを確認した和泉は、地上に向かって降りていった。




☆☆☆




御神楽みかぐら二尉が勝った」

「終わった、のか?」


 和泉の勝利が確定した瞬間、モニタールームの陸曹たちがつぶやく。歓声というにはあまりに野太い、うめき声が室内に満ちた。


「――まだ市内の小型種が残っているが、とりあえず山は越えた。敵は撤退しようとしている。よって現刻をもって警戒態勢のレベルを一段階引き下げる。大阪所基地の防衛は、見事に成功だ。諸君、おめでとう」


 あおいが言い終わると、ようやく室内に明るい声が響き渡った。全力をつくした兵たちがそこここで握手をしたり、肩をたたきあったりして互いの労をねぎらっている。大和に至ってはごつい陸曹たちから胴上げされていた。


 その中で、葵は一人ひっそりとため息をついていた。葵の頼んだ仕事を終えて戻ってきた怜香れいかが、慰めるように葵の肩をたたく。


「……どうしたの」


 ひびきが通信をつないできた。葵はマイクの前の椅子に腰掛ける。


「いや、何でもない。東京の防衛庁へつないでくれ」

「……ああ、かなめ姉さんね」


 事情を理解した響が、あっという間に画面から消える。画面が暗転してから数秒後、しかめっつらのヴァンダービルト中将と、その横でにやにやしている要の姿がうつった。


「よう、勝ったみたいだな」

「おかげさまで。……無傷とはいきませんでしたが」


 そこまで言ってから、葵は怜香がとってきたデータを東京に転送する。


「これは……」


 中将が転送された画像を見る。何か言いかけて、口をつぐんだ。言いたいことはあるが、すぐに思ったことを口にする性格ではないのだろう。


 葵が送ったデータには、中将が貸してくれたヘリの無残な姿が映っていた。飛行不可能なほど破壊されてはいなかったが、落ち着いた濃緑の機体のあらゆるところに、ひっかき傷や細かい亀裂が入っている。操縦席の横に描かれた星マークも、攻撃を受けてずたずたになっていた。


 この傷はいつできたか。大阪へ侵入するときに、小型の飛行種たちの中をつっきってきた時にできた傷だ。作戦上必要だったとはいえ、とてもではないが、無傷で返したとはいえない状態だ。


 葵も中将にどう言ったものかと悩んだが、怜香に一言「素直に謝るしかないよ」と言われて、それもそうだと思った。なので、葵には珍しく今回は理論武装をしていない。


「できるだけ敵が集中していないエリアを飛んだのですが、無傷とはいかなかった。数日中に見積もりをそちらへお送りします」


 中将が「ふむ」と唸って、分厚い手を顎に当てた。日本の幕僚たちの方が、はらはらした顔でことの次第を見守っている。


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