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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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話は宙に消えて行く

 今回はつくづく洞窟ずくめだな、とあおいは言った。最初に宝物庫、次に避難場所、最後に加藤奪回。


 初めの二つは周囲に木々があり、自然の中に溶け込んでいた。そのおかげで一種の神社のような荘厳さがあったが、今回は荒っぽく削られた斜面に位置しており、空しい感じしかない。


 葵たちは身を隠せる茂みの端まで匍匐前進で移動し、そこで様子をうかがった。鼻のきく雷獣対策で全身に消臭剤をふりかけてはいるものの、万が一に備えて風上に腰を落ち着ける。他の部隊も離れた地点に待機して、交渉の結果が出るのをじっと待っていた。


 さらに未知の敵がいた場合を想定し、一網打尽にならぬよう後方にも応援部隊が詰めている。最初からこのくらいの布陣にすればよかったのだ、と葵は上層部の対応を苦々しく思っていた。


 待機に飽きたのか、横の大和やまとがどうでもいい愚痴をこぼす。


「木がのうて、えらい殺風景やなあ」

加陽山かやさんは昔、観光地でしたからね。人の手が入ってる箇所も多いんですよ。ここも、途中まで手をつけて放置されたんじゃないでしょうか」


 傍らの隊員が反応し、小声でささやいた。確かに、洞窟付近には錆びついたドラム缶や猫車がいくつも放置されている。


 茂る木々がないので、洞窟をとり囲む天狗たちの姿をはっきり確認することができる。皆、鋭い目つきで弓を片手に徘徊している。雷獣たちはその下で低いうなり声をあげながら、時折洞窟に首をつっこんで匂いを嗅いでいた。


 全部隊の準備が完了し、分隊長からゴーサインが出た。交渉役の隊員が拡声器を手に、息を吸いこむ。


「て、てんぎゅぞくの皆さん」


 いきなり噛んだ。


 若い隊員は拡声器を静かに下ろし、うさぎのように小刻みに震えている。周りに背中をどやされて、彼はやっと機械を口元に戻した。


「天狗族の皆さん、雷獣族の皆さん。同胞が多大なるご迷惑をおかけしたことをまずお詫びします」


 今度はなめらかに声が出た。正確に言うなら、先に『迷惑をかけた』のは侵入犯の妖怪側だ。が、今回は人間にも加藤の強奪という弱みがあるため、まず下手に出たのだ。


 天狗族、雷獣族ともにこちらをじろりと見た。とりあえずいきなり撃ってくる様子はない。


「彼らが洞窟の中にいることはわかっています。さらに、あなた達の大事な財産もそこにある。私たちはそれを、お返ししたいと思っています。中の男たちが何を言ったとしても、それは軍部としての正式な決定ではない」


 葵は糸を繰りながら、ことの成り行きをじっと見守っていた。


「ここは人の領地。ゆえに、貴方がたには退去願わなければならない。ですが、我々は私欲による強奪は決して許さない。違反者には、人の手で適切な罰を与えます」


 妖怪たちはなおも動かない。時折首を傾けて、仲間と話し合うようなそぶりを見せる。


「しばし、洞窟から離れていただけませんか」


 ようやく全部言い切り、拡声器を下ろした隊員が大きく息をつく。葵や他の上官が褒めると、彼はようやく笑顔を見せた。


「さあ、どう出てくるか」


 大和が小刻みに体を動かした。他の隊員たちも気が急くせいか、自然と前のめりになっている。


 まず雷獣たちが後ろに退いた。意外な展開に人間たちは拳を握る。


 雷獣たちは立ち去りまではせず、傍らで犬のように座り込んでいる。それを見た天狗たちも、上空に昇っていく。


 開いたその道を、数名の若い女たちが歩いてくる。どこにいたのか、と葵は顔をしかめたが、どうやら横道から出てきたらしい。


 みな細身だが胸は大きく、わざとそれを出すようにはだけた着物をまとっている。男所帯の悲しさで、結構な数の隊員がにやりと笑みを浮かべる。


「まずい」


 しかし、葵だけが違う反応をした。


「全員、声を出して笑え!」


 葵には珍しく大きな声を出す。そばにいた隊員たちは怪訝な顔をしたが、剣幕に負けて指示に従った。わはは、あははとさして面白くなさそうではあったが、一応笑い声が響きわたる。


「おい、貴様の小隊は何をやっている!」

「声を出すな! わざわざ隠れ場所を教えてどうするつもりだ」


 しかし、この指示は突拍子もなさ過ぎて、従わなかったものも多かった。無線で次々と苦情が入る。


(ああ、思った以上に戦力が減ったな)


 葵は頭の中で算盤をたたいた。その時、今度は女たちがげらげらと笑いだす。


 それは楚々としたたたずまいからは予想もできないほど、大きく下品な声だった。彼女たちの口元が吊り上がっており、白く尖った牙がのぞいている。


 彼女らのかしましさとは反対に、葵の通信機から聞こえていた文句が、ぴたりと止んだ。


「あ、あれ見てください……」


 若手隊員が、葵の肩をたたきながら前方を指差す。その手は小刻みに震えていた。葵が素直に指の差す方を見ると、女たちの口の中が、潰れた柘榴ざくろのように赤く染まっていた。


「ど、どうなってるんだ」


 部隊に動揺が走った。葵は素早く後方に移動する。糸を繰り、笑い続ける標的に向かって飛ばした。


 音もなく忍び寄った糸は素早く女たちをまとめて縛り上げ、地に転がす。葵は隊員たちを一喝した。


「交戦開始だ! 奴らはこちらとの交渉を拒否したぞ!」

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