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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
236/675

真面目は部下を殺す性(サガ)

「ほう」

「後ろから……?」

「何か理由があるんですね、わかりました」


氷上ひかみが真っ先にうなずき、一気に降下した。少し遅れて、瀬島せじま桜井さくらいが彼の後を追う。ここにいる妖怪たちの視線は全て和泉いずみたちに向いていた。三人はやすやすと敵の死角に入り込み、そこから攻撃を開始する。


「ケルピー!」


 瀬島がまず動いた。全身に水流をまとった青い馬が、彼の声に答えて戦場を駆ける。容赦なく放たれた水柱が、正面にばかり目を向けていた妖怪たちの足を直撃した。


 今までは明らかに妖怪たちのほうが冷静だった。しかし上から急に襲われたことで、部隊内の意志疎通がうまくいかなくなる。あっちへ逃げこっちへ逃げしているうちに、味方にぶつかってひっくり返る個体が後をたたなかった。


「では遠慮なく。ヘスティア!」


 ひっくり返った妖怪たちが立ち直る前に、ヘスティアの火炎が彼らを襲った。たちまち敵の数が減り始める。


「老人に楽をさせてくださいますね、お二人とも」


 逃げ出そうとした妖怪たちは、あっという間に氷上の鷹たちの餌食になった。順調な様子を見て葵は胸をなで下ろす。三人の活躍で後方の敵が減り出すと、妖怪たちの動きに明らかな変化が現れた。なぜか最重要であるはずの和泉の相手をすっぽかし、ぞろぞろと後方へ移動しようとする。


「なに?」

「和泉さん、これって」


 妖怪たちの動きがさすがにおかしいと気づいた和泉が、くるりと振り向いた。怜香れいかも一緒に後方を確認する。


「あ、あおい?」

「東京はどないしたんや」


 和泉と怜香がようやく葵に気づいた。こんな時まで真面目に東京のことを心配しているのが、和泉らしい。彼は平時であれば、あるいは戦闘員としてならさぞかし気の回る、いい働きをすることだろう。


「今は非常事態です。御神楽みかぐら二尉、一緒に大阪に戻ってください。ここは三千院家と尼崎基地の応援でなんとかなります」


 葵は背後から襲いかかってきた妖怪をアリアドネの糸で容赦なく縛り上げながら、和泉の腕をつかんだ。和泉も一瞬顔をしかめたものの、すぐに気を取り直す。


「わかった。応援がくるならここでやることはない。基地に戻って指揮をとるわ」

「いえ、あなたには行っていただくところがあります。正直あなたが指揮官だと、兵たちは命がいくらあっても足りません」


 葵のあまりにも遠慮のないもの言いに、怜香が目を白黒させた。和泉の補佐官たちが、あからさまな敵意を葵に向けてくる。


「……たいそうな言われようやな。なんとしても基地に戻りたくなってきたわ」

「あなたはそう言われてもおかしくないことをしています。基地にはお戻りにならず、まっすぐ海の方へお進みいただくことをおすすめします」


 この状況でも葵は涼しい顔をしている。和泉が拳を握った。妖怪たちは減り続けているのに、今度は三千院さんぜんいんと御神楽の部下たちがにらみあいを始めてしまった。ようやく沈黙を破り、和泉が話し出す。


「なぜそう言いきれる」

「この後におよんで、御神楽二尉は敵の本当の狙いすら読めていないようなので、そう申し上げました」


 葵が言い放つ。和泉がはっと息を飲んだ。


「自分の目で見て、考えてみてください。この妖怪たちの不自然な動きはなんだったのか、と。馬鹿でない相手が、常識に外れたことをした場合。それには必ず裏があります」


 葵は妖怪たちの死体を指差した。彼らは明らかに、和泉たちの後ろに折り重なるようにして倒れている。本来なら、助けを呼びに行こうとする和泉を妨害するため、前につめていなければおかしい。


「……まさか」


 和泉もバカではない。冷静になるとすぐに気がつき、わなわなと震えだした。


「そうです、敵の狙いはあくまで御神楽二尉、あなただった。あなたがのこのこ出て来て、ここでおとなしくしていてさえくれれば敵は安心して大阪を落とせる。だから前より後ろの敵の方が数が多かった。そういうわけなので、さっさと戻りましょう」


 葵はそう言いながら、遠慮なく和泉の手をぐいぐい引っ張る。おい、と御神楽の兵が葵に声をかけた。


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