妖怪たちの意地
「どうや! うちのアヌビスの方が、よっぽど賢くて強いんやで!」
新たに参戦した短髪の少女が大声で怒鳴っている。小柄な体をしているくせに、こいつの声は嫌になるほど大きい。
彼女は両手に扇を持ち、ここが舞台であるかのように大きく足を広げていた。少女の扇は特殊なものらしく、扇の先に長い布がついている。彼女がこれ見よがしに踊って見せる度に、体と一緒に布が大きくはためいた。
めったなことでは動じない犬たちが、布にくるまれただけで苦しげな声をあげている。スキュラは大事をとって、犬たちをひっこめた。
「少しはやるね」
「少しはあ?」
少女が二人とも、不満そうに首をかしげた。全く、その自信はどこからわいてくるのだろう。スキュラは少女たちが不思議そうにしている隙を見逃さず、首を狙って二体ずつ犬たちを解き放った。
「させるかいな!」
放った犬たちを、全て短髪の少女が布で受け止める。
「みかげ、また腕を上げましたわね」
絹子が嬉しそうに、前に立つ少女の名を呼ぶ。誇らしげな顔になるみかげとやらが憎らしくて、スキュラは嫌みをはいた。
「あらあら、弱いわりには必死だこと」
「当たり前やろ!」
「私たちにとって、ここが故郷であり、守るべき場所ですから。それとも、あなたにはわからないのかしら」
絹子の周りから、またバラの蔓が伸びる。どさくさに紛れて絹子の首を取ろうとしていた妖怪が、頭部を締め付けられて絶叫をあげる。駆けつけたほかのデバイス使いが、顔色一つ変えずにそいつの首を切り取っていった。
「助けもしませんのね」
絹子がスキュラをにらみつけた。
「愛だの友情だの信義だの、くだらないねえ。そんなもの、どっかの誰かの歪んだ感情ひとつでぶっ飛んじまうもんさ」
スキュラがつぶやく。自分とて、かつては美しい人間だった。求婚も多かったが、彼女が興味を持てる男はいなかった。それよりも生まれ故郷の海を愛し、一生をここで暮らしたいと願ってやまない、ただの乙女だった。それが、今や立派な化け物だ。
「いやに実感がこもってますわね」
「……昔の話さ。今さら戻りたいとも、戻れるとも思っちゃいない。が、無性に腹が立つのさ。あんたみたいに、自分の若さと美しさが永遠に続くと思ってる女をみると」
無限に続くと信じていた日常は、ただの一瞬で終わりを告げる。あのとき、気に入りの小さな入り江であげた絶叫。あれと同じ声を、必ず目の前の少女たちにもあげさせてみせるとスキュラは決めた。
「あんたは楽には殺さない。あたしとおそろいの、素敵な犬たちをつけてあげよう」
「させるものですか!」
バラの蔦が、スキュラの死角から急に切り込んできた。その蔦が体にからむ直前に、スキュラは大きく体をかがめてよける。
「二度もくらうか!」
「行け、アヌビス」
みかげも絹子を援護してきた。白い布が包帯のように長く伸び、スキュラの足や腰にからみつこうとする。人間どもの目的はあくまで、増援がくるまで司令部を守り抜くこと。相手を倒すよりも、抜かせないことが第一の対策になる。
「あっはっは、どこまで続くかねえ!」
スキュラもそんなことは重々わかっている。若造二人がかりで、止められるものなら止めてみるがいい。飛んできた蔦と布を犬たちに真っ二つに食いちぎらせながら、自信たっぷりにスキュラは大きく吠えた。
☆☆☆
「ごっくん」
カリュブディスが大きく口をあけ、本日十何回目かになる餌を吸い込んだ。一番美味しい人間が少ないのが妙に腹が立つ。大体が石ばかりではないか。怒りを抱え、カリュブディスは匍匐前進する。
口のなかでごりごりと長い舌を器用に動かして、大量に入り込んだ砂利をより分けた。それをべっ、と目の前の人間たちに向かって吐き出す。
「う、うわあああ」
人間たちは頭をかばいながら、大きな砲の陰に隠れた。弾には慣れていても、石つぶてを雨あられとたたきつけられる光景は彼らの度肝を抜いたようだ。




