絹子の懸念
「大和はおおざっぱでしょう。昔から工作を作っても寸足らずだったり大きすぎたり。手先は決して不器用ではないのに、技術の成績はさっぱりだったようで。その時の先生に『機械の部品は小さすぎても大きすぎてもあかん』と怒られまくっていたのを、とあることがきっかけで思い出したようですわ」
絹子が言うと、軍曹たちが肩を震わせて笑い出した。
「なるほど、それなら納得がいくわ。しかし、よくこの土壇場で思い出してくれたもんや。御神楽三尉にもお礼を申し上げなければ」
「ええ、よく言っておいてくださいな」
「そう言えば、御神楽三尉から角が生えたのどうだのと騒いでいた陸士たちがおりましたが、あれは一体どういうことでしょう?」
「まあ、噂が広まるのは早いものですね。実はあれは、高性能ホログラムの実験だったのですよ。戦場にいきなり、味方だと思っていた大妖が現れたら、向こうだって動揺しますでしょう?」
いけしゃあしゃあと嘘をつきながら、絹子は心の中で苦笑いした。これで全ての噂が消えるとも思えないが、大和が鬼になることは二度とないだろう。後は、時間が解決してくれるはずだ。軍曹たちは一瞬戸惑った表情をしていたが、すぐに立ち直った。
「そういうことでしたか。しかし、いきなり廊下の真ん中で試しはると部下が動揺しますんで、今後は控えてくださると助かります」
「心得ました。では、これからもよろしく頼みますわよ。今後も敵の攻撃は続くでしょう。すぐ持ち場に戻りなさい」
絹子が指示を出すと、軍曹たちは威勢のいい返事をしながら、司令室を出て行った。周りに人がいなくなったところで、東雲が口を開く。
「なかなか鷹揚やないか、フリル」
「ん?」
「陸曹たちのこと、もっとネチネチいじめたるかと思うたわ」
そう言ったものの、東雲の目は笑っている。
「こんな年下で自分より従軍経験のない上司相手に、自分の非を認めて頭を下げに来るだけたいしたものでしょう。大体のオッサンは、相手が年下の女とみるや口をつぐんで貝みたいに自分の殻に閉じこもりますわ。素直なのはいいことです」
絹子も笑いながら答えた。
「で、これからどないする。これ、報告書や」
東雲が紙束を差し出す。それをひったくって絹子は読みふけった。
「相変わらず、堀を挟んでにらみ合いですか」
「小型の妖怪が堀の仕掛けに引っかかってはくれとるから、狙いやすくはなっとる。今のところ、二部隊に分けて交代で迎撃中や」
大阪城基地では、外堀と内堀を障子堀として使えるよう、がっちりした金属板が設置されている。金属板をレンガのように互い違いに配置して堀の内部を細かく区切ると、敵の動きをかなり制限できるのだ。
高さ三メートルの鉄板の囲いの中に落ちれば、這い上がってくるまでに時間がかかる。周りの様子もわからなくなり、小型種の妖怪ならば立ち往生するだろう。堀の上から一方的に狙いやすくなり、撃破率が格段に上がる。
もちろん、上ってきたり金属板の上を歩いていたりしても、効率よく狙い撃ちできることに変わりはない。今のところ、堀の防御機能は十分に働いている。しかし、絹子は報告書を見ながら眉をひそめた。
「大型種がいませんわよ」
障子堀は体長数メートル程度の妖怪なら、かなり動きを制限できる。が、敵は妖怪。全長数十メートル単位になる個体も珍しくない。そういった大型種が一体も来ていないのは、どう考えても妙だった。
「フリル、今何時や」
「午後四時。日が落ちてきましたわ」
「奴らが最も活発に動けるのは夜間や。これから増援が来ると思っとったほうがええな」
まだ増えるのか、と悲鳴をあげたくなったが、東雲の言うことのほうがどう考えても正しい。絹子は口を堅く結びながらうなずいた。
「デバイス使いは私を含めてAクラスが十二名、四名ごとに編成して三隊。Bクラスは三十二名で八隊。これで全部ですわ。あとは歩兵・砲兵が合わせて三千。淀屋が動いてくれれば、倍の六千になりますけれど」
「ま、それは期待せんとき」
「でしょうねえ」
絹子は肩をすくめた。もとより、言ってみただけだ。




