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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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きれいな薔薇にはとげがある

 そのまま五秒たち、十秒たつ。デバイス使いたちが全員があっけにとられている中、がたんと大きなものがが落ちる音がした。固まっていた西江が、その音でようやく正気を取り戻す。


「な、なんだ。どういうことだ」


 西江が鎖を激しく揺さぶる。それでも、彼のデバイスはうんともすんとも動かなかった。その必死な様子が滑稽こっけいで、絹子きぬこが鼻でふんと笑う。


「ちっ」


 西江の情けない様を見ていた大野が舌打ちし、頭に刺さっていたかんざしに手をやる。が、こちらも結果は同じ。簪についている大きなガラス玉に似たデバイスの核は、西野が触れても何の反応も示さなかった。


 他のデバイス使いたちも、全く反応しない己の武器に怒りの声を上げ、揺すったり振ったりし始めた。その喧噪の中で、絹子だけが艶然えんぜんとほほえむ。


「そろそろよろしいかしら? 格好をつけておられるようですが、冗談としてはそんなに面白くもありませんし。わざわざ迎え入れた同胞に対してこの仕打ち、言い訳のしようもありませんわねえ」


 絹子が初めて両手を動かした。ひゅん、と風を切る音と共に、積まれた段ボールを突き破って何かが飛んできた。


「うっ、なんだこれは」


 鋭いトゲのついたバラの蔦が、大野たちを一斉にとり囲む。銃が一斉に発射されたが、蔦は器用にくねくねと姿を変え、全弾をかわしてしまった。そのまま、デバイス使いたちの首や手足に巻き付き、動きを封じる。


 ここまでデバイス使いたちが追い詰められても、彼らのデバイスは全く反応していない。反撃される心配がないと確信した絹子は、バラの蔦を引っ張る。西江と大野が蔦にからめとられたまま、絹子の前にひきずり出された。


「なっ、なにをする。無礼な」


 西江が怒鳴った。


「……味方の時に言って頂いたら聞きもしましょうが。今となっては、往生際が悪いわとしか言えませんわね」


 絹子は西江に向かって、唇をつり上げて笑う。絹子がぱちんと指を鳴らすと、バラの蔦はくるりと曲がり、西江の後頭部をまさぐり始めた。西江が、ヒトのものとは思えない獣じみた声をあげる。


「うおう!」


 蔦が西江の頭蓋骨のちょうど中央にさしかかったその時、唸り声をあげながら小さな獣が髪の間から飛び出てきた。青い目をらんらんと光らせた犬の頭が、蔦を食いちぎろうと血まみれの牙をむく。しかし、絹子は動じなかった。


「甘いですわよ!」


絹子の声に応じるように、蔦の先端についていたバラのつぼみがぱっと花開いた。大きな赤いバラの花から、大量の黄色い花粉が舞い上がる。その細かい粒子が、無防備に大口をあけていた獣の顔を直撃した。


「ぐわう!」


 小さな犬の頭が、粉をもろに吸い込んで悶絶する。犬の頭の下についていた小さな人間の体が、大きく痙攣した。頭の大きさに比べてひどく貧弱な二本足が、がくがくと震え出す。そのまま床に落下した犬の首を、バラの蔦が容赦なく締め上げる。すぐに犬はだらりと舌を出して白目をむき、そのまま絶命した。


 犬が死ぬと、すぐに西江の体にも変化が現れ始めた。さっきまで血色の良かった顔が真っ青になり、目がぐるりと回って白目をむく。足がくにゃりと曲がり、どうとその場に倒れた。西江の体から、黒い小蝿が一斉に飛び立ちはじめ、辺りに腐臭が漂う。


「うがああああ!」


 今度は大野の頭から、白い犬が飛び出してきた。正面からいっても勝ち目がないと学習したのだろう、絹子の死角から首筋へ向かって飛んでいく。次の瞬間、ぱんと乾いた音がして、白犬が血を流して地面に転がった。絹子がめざとくそれを見つけて、またバラの蔦で首を絞める。


「助かりましてよ」

「どういたしまして。しかししつけの悪い犬ですなあ」


 さっきまで壁に張り付いていたはずの白衣の男が、両手でライフルを構えながら言う。彼は絹子の蔦にからめとられた侵入者たちが持っていた銃を奪い取っていた。


「さっきの絵だけでもう証拠は十分やな。今井三尉、私の後ろへ」

「はい、よろしくお願いしますわ」


 野狗子たちが身動きできないように縛り上げたことを確認した絹子が、とてとてと白衣の男の後ろへ回る。それと入れ替わるように、一斉に軍服姿の歩兵たちが倉庫内に踏みいってきた。


「さ、死者をあるべきところへ戻してやりましょうかい。ほな、いくで」


 白衣の男が号令を出すと、一斉に歩兵のライフルが火をふいた。


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