敵の方が上手
それでも、なんとか和泉と怜香が戻ってくるまでこの基地を守らなければならない。どの道、自分は体力勝負になればさっぱり役には立たない。せめてここで、何か提案できれば。
遥は知恵熱が出るんじゃないかと思うほど、頭を抱えてうんうん唸ってみたが、気の利いたことはまったく何も思いつかない。仕方なく、ひねりがないなあと思いつつも一つの案を口にした。
「偽物を作るとか」
「イチからそんなもん作る時間あるか。引き渡しまであと二時間と三十分やぞ。しかも、少なく見積もっても十数人分は用意せなあかん」
案の定、東雲にばっさり切り捨てられた。核の部分だけ宝石か何かでごまかせばいけるかと遥は思ったのだが、やはり現実的ではなかったようだ。
「銃や大砲を代わりに渡すとか、どやろ」
「代わりになるわけあるかい。そんなんで満足やったら、わざわざここで小芝居せんでも外におる部隊から拝借すれば済むことや」
大和の案もなかなかいいかな、と思ったがこれも不十分だったようだ。さらに深く考えこんでいた遥は、ふとあることを思い出した。
「あ、そうだ! 内部の部品を抜いて渡すとか」
「そや、それや。ドラマでもようあるやろ、札束の表面だけ万札になっとるやつ。あれをデバイスでやればええんや」
「なるほどなあ」
今度は気むずかし屋の東雲もうなずいている。気を良くした遥は、さらに話し続けた。
「やってみましょう。ただし、単純に抜くだけなら重さでバレる」
東雲が身を乗り出してきた。
「……何か違う部品を詰めて、重さを調節せなあかん。が、部品のストックならまだある。いけるで」
この方法なら、細かい調整などは必要ない。十数個作業したとしても、かかる時間はタカが知れていた。
「今回はデバイスさえもらえば、開けて確認しようとも思わないでしょう。時間さえ稼げればなんとかなるかもしれない」
「やろう。兄さん天才や」
三人は色めきたった。暗かったその場の空気が、やっと少し流れ出す。大和が駆け出そうとしたその時、ざっざっと足音が聞こえた。
「やっと門を一つ開けましたか」
足音と一緒に聞き覚えのある声が聞こえてきて、遥はぎくりとした。さっき絹子に向かって門を開けろと怒っていた、背の高い軍人――西江の声だ。幸い三人は木の陰にいたので、西江は遥たちには気づかなかった。西江は歩みを止め、特に回りをはばかることもなく話し始める。
「そうね」
問いに答えたのは、あのおかっぱ頭の女だ。確か、名前は大野といったか。
「やれやれ、やっと基地までたどり着いたのにこの扱いか」
「あと少しの辛抱よ。ただ、指揮官の反応は解せないわね」
話しながら、西江と大野が遠ざかっていく。木陰の三人は目を見合わせ、無言でうなずきあった。ここは何が何でも食らいついておくべきだ。木陰や植え込みを利用し、さっきの二人組の後を追う。幸い、三人がたてた物音は、行き交う軍事車両が消してくれた。西江と大野の横にぴたりと張り付き、会話を盗み聞きする。
「やはり、俺たちにに敵意があるとみていいのでしょうか?」
「当たり前でしょう。でなければ、この非常事態に三時間も外で待たせるものですか」
大野の声は明らかに苛立っていた。じゃり、と地面を荒く踏みしめる音がする。
「これだけのデバイス使いが来たというのに、彼らが何を考えているのか謎ですね。そんなに淀屋が嫌いかな」
「計画に支障が出ては困るわ。このあと、デバイスを渡されても油断しないことね。徹底的に調べるわよ」
今考えたばかりの策は、あっけなく破られる結果となった。あまりの早さに、三人はびくりと体をこわばらせる。
「徹底的とは?」
「蓋の中まで開けてみなきゃね。ガラクタをつかまされたらたまったもんじゃないわ」
大野が不敵に笑う。遥は彼女とは逆に、顔から血がざあざあと引いていくのがわかった。東雲と大和も同じ気持ちだったようで、西江と大野が立ち去ってしまうまで、皆がっくりと肩を落としていた。落ち込んでいても仕方ないと、三人は再び対策を考えた。が、どうやっても時間と相手の隙のなさが足かせとなる。結局、なにも打開策は出てこなかった。
☆☆☆
大和は焦っていた。奴等にデバイスが渡るまで、あと二時間ある。だが、それを確保できるかどうかは怪しくなっていた。三人が外から帰ってきてみると、司令室内に不平不満が充満していた。




