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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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青年、倒れる

しゅんさん! ご無沙汰してます」


 つかつかと怜香れいかのところにやってきたのは、三千院さんぜんいん家の四男、しゅんだった。相変わらずよく回る早口で、季節の挨拶をのべてくる。生まれたときから着ていたかのように、白衣がよく似合っていた。


「俊ー。後がつかえてるからあ、早くねえ」


 室内から、全く急いでいるとは思えないのんびりとした男の声がする。俊の双子の兄、しゅうだ。


「それにしても、どうしてお二人がここに?」

「話せば長くなるんだけど、特別に……」

「しゅうううううんん」

「……ごめん、中で話そうか」


 ふわふわしている割には押しの強い兄に負けて、俊は室内へ戻っていった。怜香たちも最後の抵抗とばかりにばたつく大和やまとをつれて、検査室にそろって入る。


 室内は思っていたより広い。眼科の検査に使う、一カ所が欠けた黒丸がずらりと並ぶ電光板が目に入る。その横の机には、大きなヘッドホンのついたA4ノートほどの大きさの四角い装置があった。こちらが聴力用の機械だろう。


 各装置の前には、ちゃんと大人の看護師が控えていた。修と俊は壁際に立ち、彼女たちがてきぱきと大和を椅子に座らせるのを見守っている。


「びっくりした。二人が検査するのかと思ってたわ」

「やろうと思えばできるけど、医療行為は免許がないとダメだからね。三千院の家ならともかく、よそ様の病院ではあくまで見習いの身分だよ」


 双子の横にはもう一人、痩せた男がパイプ椅子に腰掛けていた。線が細いという言葉がぴったりくる、女のようなしゃなりとした体つきをしている。小さなノート片手になにやらせわしなくメモをとっていた。


はるかお兄さんも、お久しぶりです」

「ああ、こんにちは」


 遥はメモをやめて立ち上がった。横に立っていた双子が一斉に「大丈夫かよ」と言いたげな視線を向ける。


「遥さんもお手伝いですか?」

「取材で来てるんだよ。ちょっとホラーが入った作品を書くから、人体の構造とかを詳しく……」


 何か言いかけて、遥はうっと口をつぐんだ。顔色がみるみる悪くなり、慌てて椅子に腰をおろす。


「遥兄貴はホントに昔から血がダメだからなあ」

「いきなり解剖写真は刺激が強すぎたねえ。思い出しちゃったかあ」

「ここから数日、夢に見そうだよ。……やっぱり、僕はみんなのようにはなれないなあ」


 心底うんざりした様子で遥が言った。祖父の代から軍人家系である三千院の家には珍しく、遥は昔から荒っぽいことは全くの不得意だと葵が言っていた。別に誰も気にしてはいないが、遥自身はそうではないらしい。


「あの、始めますので少し静かにお願いしますね」


 看護婦に注意され、一同は口をつぐんだ。大和はすでに椅子に座り、大きなヘッドホンを耳につけている。看護婦が何度かボタンを押すたびに、「右」「左」「今っす」など、何回か大和が答えて検査はすぐに終わった。


「はい正常ですね。次は視力検査へどうぞ」


 言われるがままに、大和は電光板の前に座った。おもむろに看護婦が、やたらとフレームの太いめがねを持ってくる。有無をいわさずかけさせられた大和が、不満の声をあげた。


「なんやこれ、えらい重い」

「ちょっとですから我慢してくださーい」


 患者のワガママには慣れているのだろう、看護婦は気にした様子もなく、真っ黒な丸い板を持って近づいてきた。怜香がどうするのかと思って見ていると、看護婦はその板を大和がかけている眼鏡にはめこむ。そうやって片方の目をわざとふさいでいるようだ。昔はスプーンのような器具を片目に当てていたが、なるほど今はこうするのか。


 視力が良いのであまり眼科の世話になったことのない怜香は、ふーんと唸りながら大和の様子を観察した。よく見ると、看護婦の横にあるカートには丸いレンズがずらりと並んでいる。


「あれを入れ替えて、眼鏡の度数を変えるんや。何枚か重ねて入れることもできるで。まあ大和には必要ないと思うけどな」


 自分の眼鏡をいじりながら、和泉が説明してくれる。彼の言葉の通り、大和は両方裸眼で二・〇を記録してガッツポーズを作っていた。ここまで見える人は珍しいですねえと看護婦に褒められている。


「じゃ、次の検査に行ってください。ここから出て突き当たりを左に曲がればすぐですから」

「へーい」


 大和が立ち上がる。和泉と怜香も自分たちの荷物をまとめた。


「遥兄も一緒に行ったらー? ここは大体今と同じことしかやらないよお。知り合いが検査してたらいろいろ聞きやすいんじゃない?」


 修が言うと、遥はうなずいて立ち上がった。まだその足下がふらついており、大丈夫かなと怜香はいぶかった。見ると、和泉も同じ顔をしている。


 ふらふらと生まれたての山羊のごとく数歩歩いたところで、遥は予想通り前につんのめった。危ない、と支える暇もなく、大量のレンズが乗っていたカートに向かって倒れ込む。傍らの看護師が口をぱくぱくと動かし、声にならない悲鳴をあげた。


 一気に大雨と雷が起こったような音が室内に響きわたる。幸いカートに乗っていたレンズはどれも割れていなかったが、細かい金属の部品が床全体に散らばってしまった。部屋の中が一瞬にして騒がしくなる。

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