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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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病院って滅入る

「そっちはどうだ」

「だいたいメールの通り。あ、メールには書いてないけど、異常にキャラの濃い死に損ないに会ったわ」

淀屋(よどやか」


 さすがに有名人らしい。あおいが即答してきた。正解だよ、と怜香れいかは褒める。


「あのアンデッドは昔から、罵詈雑言ばりぞうごん総合商社でぱーととして有名だったからな。どんな人格者でも成功者でも大嫌いで、とりあえずけなさないと気が済まないらしい。ま、三千院うちが一番嫌われているようだが」

「心当たりあるの?」

「ありすぎてわからん。まあ、損得考えずに行動するほどバカではないからほっとけ。ほかに何かあるか?」


 葵が聞いてきた。怜香は意を決して、大和が倒れたことを報告する。一瞬だけ見えた黒い煙のことも、その後の症状もすべて隠さずに話した。


「本当に黒い煙を見たんだな?」

「間違いじゃないと思う。でも、大和君は牛鬼と戦いはしたけれど、殺してまではいないはずよね?」

「どちらにせよ恨みをかったのは間違いないだろう。俺もまだ呪術については不勉強でな。専門家がいないか親父に聞いておく」

「お願いね。なんだか、心配で。……じゃあ、お休み」


 電話を切って、怜香はふうっと息を吐いた。葵に話をしたことでだいぶ気持ちがほぐれてきたのを感じる。ベッドに突っ伏し、石けんのにおいがするシーツにくるまれていると、いつの間にかうとうととまどろみ始めた。



☆☆☆




 翌朝、怜香が身支度を調えておりていくと、すでに食堂には大和の姿があった。しわがいったパジャマ姿のまま、日本昔話に出てくるような大盛りの白米をわしわしと食べている。


 昨日の不調はどこへやら、大和の顔色は良く目もきらきらしている。その横には、夜中も看病していただろう、少し疲れた顔の静香しずかが座っていた。


「おはようございます」

「おはよう。よう眠れた?」

「ええ。気持ちのいいお部屋でした。大和君はあれから大丈夫でしたか?」

「そやね。さんざ騒いだ後はぐうぐういびきまでかいて寝とったわ。でも、病院の検査の結果が出るまでは油断したらあかんね」


 静香がため息をつく。そう言えば、昨日医師から受診するよう言われていたな、と怜香は思った。当の大和は病院、と聞くとあからさまに顔をしかめた。


「大丈夫や。今はなんともないて」

「お黙り。あんたが行かへん言うても、縛ってでも車に乗せたる」


 いつも福の神のような顔をしている静香が、珍しく目をつり上げて大和をにらんだ。よく見ると、居間の柱の陰に昨日はいなかった屈強な男たちがたたずんでいる。完璧に気配を消している彼らが縛り上げ要員なのだろう。


「うげえ」


 大和があえなく敗北したところで、和泉がやってきた。起きてきたところだというのに、もう一分の隙もない着こなしで軍服を身につけている。


「おはよう。大和、体はどないや」


 和泉が聞く。口の中いっぱいに白米をつめこんでいた大和は、何も言わないかわりに大きくガッツポーズをした。


「さよか。でも今日は病院やな」


 兄へのアピールが失敗した大和が、力なくくずおれる。和泉はちらっと横目でそれを見ながら、差し出されたトーストをかじり始めた。


 新はもう家を出ているのか、結局怜香たちが朝食を食べ終わっても姿を見せなかった。怜香と和泉はぎゃあぎゃあとわめく大和を力ずくで軍用車に押し込み、病院に向かって走り出す。


「道が渋滞しとりますように」


 車内で大和がそう願ったが、神には通じず、車は順調に大阪城基地までやってきた。昨日は通り過ぎるだけだった病院の前に車が横付けされ、和泉に首根っこをつかまれた大和が受付をさせられる。


 病院の正面ロビーはとてつもなく広い。クリーム色の床と壁で囲まれた空間には、申し訳程度にぽつりぽつりとソファーや椅子が置かれている程度。あとは大人が十人横に並んでも通れるような、広い通路になっていた。


「贅沢な間取りの使い方やろ。有事の時には、病室だけで入りきらへん患者をここに並べる予定や。普段は隠してあるが、数百単位の簡易ベッドが用意されとるはずやで」


 怜香がきょろきょろしていると、和泉が説明してくれた。なるほど、確かに大規模な戦闘行為になれば数百人単位でけが人が出ることもありうる。余裕をもたせた素晴らしい設計だった。


「まず眼科、聴力の検査。呼吸機能の確認と、尿検査も入っとるな。最後にMRIもとって腫瘍がないか確かめてから問診やと。こら、一日仕事やな」


 大和に聞こえないところで、和泉がこっそりため息をついた。山本医師の気遣いで、優先的に検査を受けられるようにはなっているものの、それでも項目がかなり多い。大和でなくても逃げ出したくなるだろう。


御神楽みかぐらさん。検査室に入ってください」


 検査室から、なぜか怜香がよく知っている声が聞こえてきた。振り向くと、声の主も怜香を見つけて目をみはる。


「あれ、久世くぜさんじゃん」

 

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