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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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大和の異変

「まさか、とは思うがなあ。内通者がおらんか、それとなく探ってみるしかないな。和泉いずみ、頼むわ」

「ああ」

「俺もやる」


 口の端にいっぱいチャーハンの粒をつけながら、忙しく大和やまとあらたに向かって手をあげた。が、和泉は少しだけ笑って弟をいなしにかかる。


「腹黒いことは俺の仕事になる。おまえは先にデバイスを極めたらええ」

「両方やれるで」


 大和がむきになった。戦闘方面はともかく、こんなに感情がモロ出しでは腹芸もなにもあったものではない。和泉も決して向いているとは言えないが、大和は絶望的だ。怜香れいかはデザートの杏仁豆腐を無言でパクつきながら、どう大和をいさめたものかと首をひねった。


「あんたが死んだら何にもならへんやろ。もともと得意なことが違うんやさかい、無理せんとき」


 怜香より先に、静香しずかが顔をしかめて口を開いた。デザートのワゴンを持ってきたメイドまで、ものすごい勢いでうなずいている。やはり、誰に聞いても返ってくるのは同じ意見になるようだ。


 それでも大和は諦めきれないらしく、救いを求めるように新に目配せする。が、彼も目をつぶって首を横に振った。


「大和、おまえはまだ十四や。何もかもできるようになるには早すぎる。今回は和泉に任せえ、ええな」


 新にまでばっさり言われてしまい、大和はわかりやすく頬をふくらませた。いつもあおいの憎たらしいとまで言われる態度を見ている怜香にとっては妙にかわいらしい反応で、思わず笑みが漏れる。


「大和君、ほらデザート来たよ」


 なんとか大和の機嫌を直そうと、怜香は大和の方をのぞき込んだ。


「え?」


 そのとき、怜香ははっと体をこわばらせた。大和の後ろに、真っ黒な煙がぐるぐると渦をまいていたのだ。最初はワゴンの料理が焦げてでもいるのかと思ったが、今は完全にデザートしかのっていない。ここで調理する要素など何もなく、煙などたちようがなかった。


 煙は大和の首筋をなで、足下へすうっと移動していく。目に見えていたのは一瞬で、怜香がまばたきをしている間にもうその姿は消えていた。見間違いだったのかしら、と目をこすったが、さっきの異様な記憶は頭に焼き付いていた。


 ほかの家族やメイドは気づいた様子がない。ここで変なことを言い出して、客の分際で雰囲気を悪くすることもないだろう、と怜香は口をつぐもうとした。が、隣の大和の顔色を見て思わず口から言葉が漏れる。


「大和君、どうしたの?」


 大和の顔色は、青を通り越して真っ白になっていた。唇が変色して紫に変わり、持っていた箸を取り落とす。暖房がきいた室内にいるにも関わらず、大和はまるで水でもかぶったかのようにがたがたと震えだした。


 歓談していた家族が一斉に立ち上がった。新は電話に飛びついて医者を呼び始め、静香はしきりに大和の背中をさする。和泉は毛布をとってくると言って部屋から走り去った。怜香とメイドたちはあわててワゴンを下げ、大和を寝かせるスペースを作る。


 息をつく暇もない十数分の後、怜香がようやく大和の顔を見ると、さっきよりだいぶ顔色がよくなっていた。顔にも血の気が戻り、呼吸音もしっかり聞こえる。一同がほっと胸をなでおろすのがわかった。


「原因は何かしら」

「申し訳ありません、旦那様、奥様。食あたりでしたら、この窪谷いつでもお暇をいただく覚悟をおおおおお」


 ふうふう息を切らせながらやってきた小太りのコックが、この世の終わりとばかりの勢いで、新たちに向かってしきりに頭を下げる。


「いやあ、食あたりやないはずや。俺らもさんざん同じものを食べた。家族の中でこいつの胃腸が一番丈夫やから、こいつがあたったんならほかの人間にも症状が出とる」


 和泉がコックに反論する。怜香もうなずいた。


「そうですね。食あたりにしては嘔吐も下痢もないし、この短期間で症状が改善してるのは不自然です」

「とりあえずあと数分でいつもの山本先生が来てくれるはずや、話は診察が終わってからにしよ」


 新が言うと、コックは恐縮して部屋を出ていった。静香だけを大和の付き添いに残し、怜香たちは部屋から出て、階段をおりる。


「どないしたんや、急に……」


 新ががりがりと頭をかく。階段の下で待っていたメイドたちが、「坊ちゃまのお加減はいかがでしょうか」と彼に詰め寄った。普段は軽く扱われようとも、これだけ心配してもらえる人望があるのはすごいことだ。


「まだなんとも言われへん。さあさ、あんたらのせいやないから仕事に戻り」


 静香に言われて、不満そうな顔をしながらも、メイドたちはばらばらに散っていく。和泉もいらいらした様子で、細かく膝を揺らしていた。

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