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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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また内通者?

 軍事施設の見学ということで、電源を切っておくよう和泉いずみから言われていたのだ。情報漏洩じょうほうろうえいを防ぐため、ということで怜香れいかも異はなく従った。


 あおいから何か連絡が入っているかと少しどきどきしたが、携帯にはなんの痕跡もない。ちょっと期待していただけに、怜香は肩を落とした。


(まあ、仕方ないか。きっとそれどころじゃないんだよね)


 来ないならこちらから発信しておこう。メールなら暇な時間に見られるはずだから、そう迷惑にはなるまい。怜香はぽちぽちと文字を打ち込んだ。


【こっちは何事もなくやってます。大和やまと君のデバイスも一週間ほどで直ると言われたよ。葵の手紙のおかげか、想像よりはしかられずにすんだみたい。またこちらに進展があれば連絡します】


 短いメールを完成させ、葵に送る。本当は淀屋よどやのじいさんや大和の父親、大阪の基地についてなど言いたいことは山のようにあったが、最低限の報告にとどめた。また葵が帰ってきてから話をすればいい。


 急いで髪を整え、一階におりていくと、もう怜香以外は卓についていた。いつの間にか大和の父、あらたも帰宅してがははと明るい笑い声をあげている。怜香は急いで新に近寄り、頭を下げた。


「遅くなりました。本日はお世話になります」

「なんのなんの。大阪にはどれくらいおるつもりなんや」

「大和君のデバイスが直るまでですから、一週間ほど。長い間お世話になってしまってすみません」

「なんのなんの。女の子が増えるのは華やかでええわ。静香しずかも女の子をほしがっとったんやが、生まれたのは男ばかりでな。ゆっくりしてってや」


 怜香は再度礼を述べ、大和の左隣の椅子に腰を下ろす。そうか、あの母は静香さんというのかと考えていると、当の本人がやってきた。大人数人分はありそうな、大量の北京ダックがのった平皿をひょいと卓に乗せ、新の隣にどしんと音をたてて座った。


「お母ちゃんが『静香』いうのはほんまに詐欺やなあ」


 大和がからかう。静香はわかりやすく顔をそむけた。


「やかまし。さ、アホはほっといていただきましょか」

「はいはい、いただきます。あっこら大和、それ俺の箸や」

「むぐむぐむぐ」

「聞けや。おまえの箸もらうで」


 北京ダックやエビの炒め物を食べるのに忙しい大和と、ちまちま前菜のクラゲやザーサイからつまむ和泉を横目で見ながら、怜香も皿に箸を伸ばした。昼間の和食もおいしかったが、中華も外れなくおいしい。こくがあるのに脂っこくなく、するすると胃の中におさまった。


 大皿の料理がなくなると、今度はメイドたちが入れ替わり立ち替わり点心を運んでくる。ワゴンがひっきりなしに行き交う様子は、個人の家とは思えないほどだ。


「和泉様もどうぞ」


 ワゴンを引いた若いメイドが、和泉に声をかけた。さっきから大和ばかり蒸籠せいろをとるものだから、気を遣って話しかけているようだ。


「いや、俺はええわ。今日はちょっと食い過ぎた」


 和泉は限界、という顔をして手を振る。


「この子は食が細いんやから。心配になるわ」


 静香が困った顔をする。葵と同じようなことを言われているのを見て、どこも一緒だなと怜香は妙におかしくなった。


「しかし、今日は急な出動があったと聞いたで。もうちょっといかんか」

「これでも普段よりだいぶ多いんや。腹でも壊したらしゃれにならんわ」


 和泉はあまり出ていない腹のあたりをさすった。ワゴンを持ったメイドが本当に残念そうな顔をして引き下がっていく。もしかしたら、彼女は和泉に気があるのかもしれない。


「だいぶ手際よく片付けたそうやないか。ようやったな」


 新がビールのジョッキを片手に、和泉に笑いかける。酒にはあまり強くないのだろう、新はビール二杯で顔が真っ赤になっていた。


「敵が本気やないんや。不利やとみたらすぐ撤退していく。一体くらいは負傷した妖怪を捕まえられるかと思ったんやが、みんなこちらの姿を見るなりばちん!や」


 和泉が眉間にしわを寄せながら、指をぱちりとはじく。人間に見つかったとたん、内部から敵の体が破裂した、ということだろう。


「ゲリラにとっちゃ、自分たちの動きを知られることは命取りやからなあ。敗軍になったときの対応は徹底しとるわ」

「こっちかって、街の構造を知られるのはあまりありがたくないわ。移動式の通行止めをすぐ動かせるようにはしてあるが、それだけでは根本的な解決にならへんな。

部下たちにいろいろ探らせてもおるんやが、なかなか妖怪たちの本拠地まではつかめん。誰かがこっそりかくまっとんやないかと思えてくるわ」


 和泉が椅子にもたれかかり、長いため息をつく。新もその可能性を考えていたのか、反論しなかった。


「相手は妖怪、と言いたいところですが、佐久間さくまみたいな例もあるし」


 怜香は、佐久間が自白したときの憎しみのこもった顔を思い出す。ありえない話ではないですよ、と和泉を援護した。

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