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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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安心したまえ若者よ

 大和やまとに大変失礼な物言いをしながら、東雲しののめは犬でも呼ぶように手をひらひら振る。うへえ、とうめきながらも大和は仕方なく参上した。


「あ」


 東雲の傍らのどっしりした黒い実験台に、見慣れた輝きを見つけて大和は飛び上がった。間違いない、自分のデバイス、斉天大聖せいてんたいせいの核がそこにある。弱弱しいものの、いつもと同じ光が出ているのを見て、大和は安堵で腰が抜けそうになった。


「治りそうすか」

「ああ。もともと生命力の強い個体やから、一週間も寝かせれば再生するやろ。埋め込む金型も今修理に出しとる」

「ありがとう!」

「『ございます』までつけえや」


 東雲は苦々しい声をしていたが、大和は喜びで気にならなかった。


「急に元気になったわ。現金なやっちゃ」


 和泉いずみが横で茶化してきたが、大和は気にせず飛び跳ねた。


「それ以上どしんどしんいわしたら、いてこますで」


 片手に鋭いピンセットを携えた東雲が殺気を放つ。彼女のどす黒い気を受けて、大和はようやく我に返った。


「とにかくな、一週間の間はどう頑張ってもあんたは待機組や。くれぐれも、勝手な判断で飛び出さんとき。父にもそう報告しとくで。異論はないな」

「え、代替機みたいなんはないん? 今のこの状況で、一週間も出動要請がないとは思われへんのやけど」


 大和は抗議したが、怜香れいかがそれは、と袖を掴んで止めてくる。


「……わかっとったつもりやけど、あんたほんまもんのザル頭やな。携帯持つのとはわけが違うんやで。

Sクラスの人外のぞいて、デバイスが体になじむまで、どんなに少なくても数か月はかかるんや。代替機もたして出撃させて、そいつが死んだら全部パアなんがわからんか」


 東雲はしみじみと、こちらを見据えて毒を吐いた。大和はこそこそと詫びを述べ、尻尾を巻いて引き下がる。


「兄、こんなざっつい弟で苦労するな」

「俺とは真逆ですねん。しかし、それでうまくいくときもありますのや。まあ、素直に非を認めるだけましやと思うてこらえてください」


 和泉は謝りながら、東雲に向かって直角に近い角度まで頭をさげた。


「……はあ。兄はクソ真面目やし、弟はええかげんやし。足して二で割れればちょうどええのにな」


 皮肉を言いつつも、東雲は持っていたピンセットを白衣のポケットに落としこんだ。大和の後で固唾かたずをのんでいた怜香が、ほっと息をもらした音が聞こえる。


「茶でもしばくか」


 東雲がアルコールランプであぶられていたビーカーを手にする。鮮やかな緑色の液体は、何かと思えばただの緑茶だという。


 心情的にあんまりそれは頂きたくはないわなあ、と大和がため息をついていると、突然本棚の上にあったスピーカーから、サイレンの音が鳴り響いた。



☆☆☆




 サイレンを聞いたとたん、和泉がばたばたと来た道を戻っていく。慌てていても、最後に一礼して部屋を出ていくあたりはさすがに堅物だ。


「これは何ですか?」

「緊急出動要請のサイレンが鳴っとるんやわ」


 東雲が茶をすすりながら解説する。その間にサイレンが鳴り終わり、年かさの男の声が敵の出現状況を告げてきた。幸い、今回も大規模な侵攻ではなく、都市部に少数の妖怪が確認された程度だという。


「避難は?」

「まだ緊急避難の段階やないな、音が違う。いざとなったらデバイスの核を抱えて隠し通路で脱出や。訓練はしとる」


 東雲がしれっと言い放つ。怜香が彼女にむかって何かいいかけたが、しばらくしてふうと肩を落とした。東雲がけらけら笑いながら、怜香の肩をたたく。


「手伝いますとでも言うつもりやったやろ。気持ちはありがたいが、神戸におるわけやないんやさかい、要請されん限りはおとなしくしとき。あんたは客人や、下手に出てったら古参のおっさんどもがうるさいで」

「はい、すみません。つい、いつものくせで。おとなしく、和泉さんが帰るまで待ってます」

「それでええ。弟も、わかっとるな」

「へえ」

 抑えきれない自分の無力感を東雲にぶちまけてやりたい気もしたが、それをやると本当にただの八つ当たりだ。大和は気のない返事をした。


 しかし、実際戦えるところにいながら、ただ見ているだけの立場になってしまうとただ気だけがあせる。今まで人類の切り札として、それなりに期待されてきたからなおさらだ。大和は早く直ってくれよと念をこめて、東雲に怒られるまで淡く輝く斉天大聖の核をじっと見つめ続けた。




☆☆☆



 それから数時間して、和泉が無事に帰ってきた。装備が多少壊れたものの、本人はいたって元気そうだ。隊にも大きな被害はなかったらしく、基地内の兵は速やかに通常業務に戻っていった。


 もうとっぷりと日もくれていたため、怜香たちはいったん大和の実家に帰ることにする。本当は怜香だけ軍関係者の宿泊所に泊まることにしていたのだが、大和の母が誘ってくれたため、お言葉に甘えて同行することになった。

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