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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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神秘の培養室

怜香れいかちゃん、タコ焼きでも食べへんか。おごるで」

「坊ちゃん。ラボ長が呼んでます」


 東雲しののめの使いの研究者に背後から呼ばれ、せっかくの大和やまとの喜びは一瞬でフッ飛んだ。大和が唇をかみながら研究員を見つめると、「そ、そんな目で見られても困りますって」と彼はうろたえた。


「今更何の用や」

「知りませんよう。ラボ長に直接聞いてください。じゃ、僕もお客さんが来てるんでこれで」


 呼び止める暇もなく、研究員は一行にくるりと背中を向けて立ち去ってしまった。大和が長いため息をついていると、兄と怜香に背中を叩かれた。


「何やろなあ。しゃあない、一緒に行ったるわ」

「私も行くから、ね?」


 二人になぐさめられて、大和はようやくとぼとぼと歩きだした。東雲がいるであろう培養室への長い廊下が、大和には地獄への一本道に見える。


 ようやく辿り着き、力なく白い扉をノックすると、今度は年かさの女の研究員がドアを開け、先頭に立って案内してくれた。


 広々とした室内には、実験をするための広い作業台が等間隔で並んでいる。その上には緑色のプラスチックのかごが置かれ、眼鏡をかけた研究員たちがしょっちゅうやってきてはそこから何か取り出していく。


 覗いてみると、フラスコ、ろうと、ビーカーといった大和でも触ったことのある実験用具がびっしり詰まっていた。懐かしくなって手を伸ばすと、周りの研究員からきつい視線を浴びる。大和は咳払いをして、出した手をひっこめた。


 奥に進むと、大型の機械がずらりと並んでいる。電子レンジを大きくしたような四角い金属の箱や、ドラム缶になにやら無数のコードをつなげた装置、やたらごつい顕微鏡などの横を、大和はそろそろとすり足で通り抜ける。この中には壊したら数千万では済まない機械もあると聞いているので、さすがに慎重にならざるをえない。


 研究室のどん詰まりまでたどりつくと、舞台の幕のような分厚い黒のカーテンが目の前に現れた。


「ここがデバイス研究の中心部、核培養室です」


 研究員はくるりと振り向き、怜香に向かって話しかける。


「坊ちゃまたちはご存じだと思いますが、デバイス核の幼生は強い光を嫌います。そのため培養室付近は薄暗くなっていますので、足元にご注意ください。携帯電話、フラッシュ付きのカメラなど、光を出すものは今ここへ置いていくようにお願いします」


 彼女が指差した先には、小型の部屋が十ほどついている鍵付きのロッカーがあった。怜香はうなずき、素直に指示に従う。入室の注意などすっかり忘れていた大和は、あわてて怜香と同じようにした。


 すでに準備を終えていた和泉が先頭になって、カーテンをくぐる。大和も続いて飛び込んだ。


 研究員が言っていたとおり、中は青い穏やかな光で満ちていた。無機質な金属探知のゲートすら、ぼんやりと神秘的に見える。すごいなー、と大和の口から声が漏れた。


 先頭の和泉が、突きあたりまで進んでぴたりと足を止めた。目の前には、侵入者を頑として拒む分厚い鋼鉄の扉がそびえている。


 目印代わりだろうか、宝石のような青白い結晶が、扉の前でちかりちかりと輝いていた。光はゆらゆらと蝋燭のように揺れるため、扉に描かれた虎の彫金が、生きているように複雑な影をまとう。


 指紋認証を済ませると、音もなく扉が開いた。目の前が急に、色とりどりの光で満たされた。赤、青、黄色、紫、緑……数えていけばきりがない。


 よく見れば、その光は照明ではなく、硝子のビーカーやシャーレに入った小さな石が出していた。石たちは丁重に敷かれた培地にしっかり根を下ろし、はがれないように一か所にへばりついている。


 室内にはさらに巨大な硝子棚があり、その中にも発光体がナンバーをつけられてきちんと並んでいた。一つだけ、ひときわ大きな南京錠がついているケースが目について、大和は引き寄せられるようにそちらへ近づいていった。


「その子たちが今一番微妙な時期。人間で言えば妊娠初期の、器官ができる時にあたるんや。弟、触ったら殺す」


 何やら怪しげな木の葉がびっしりつまった壜の陰から、ぬっと東雲が現れた。大和は「出た」と悲鳴を上げる。


「さ、触らへんて」

「あんたの『やらない』は信用できひん。あと、出たって言い草はなんや」


 すっかり機嫌を損ねたようで、東雲はぷっと頬をふくらませる。彼女の機嫌をとるように、和泉いずみが話しかけた。


「また広くなったなあ、ここも」

「少し前に改装した。ぼちぼち培養が軌道に乗ってきて、サンプルが増えてきたからな。でも、三千院の実験室に比べたらまだまだ」

「そんなに広いんか」

「あそこは培養室だけで軽く百坪は超えてるやろなあ。研究基材と人材にかけとる金も段違いでうらやましいわ」


 東雲が珍しく、胸の前で手をくんでうっとりしている。血の気のない顔が、わずかに赤みをおびていた。


「早う追い付きたいもんやな。頼むで、史上最年少のラボ長」

「任せ。ああ、そうそう、そのためには雑事は済ましとかんとな。弟、こっちに来い」

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