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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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羊と狸

「中之島に配置されてる人数は?」

「通常歩兵三千。淀屋よどやは金はうなるほどもっとるから、燃料や砲も充実しとるな」

「それはかなりの兵力ですね」


 怜香れいかはうなずきながら、あおいに報告すべくしっかりデータを頭にたたきこむ。


「ただなぜか、デバイス使いは嫌いらしくてあんまり置きたがらんが。ほんま、何考えとんかわからんな」

「……実利一点張りの大阪の商人にしては、だいぶね」

「あのじいさんの頭ん中だけは、ほんまにわからんわ。かえって妖怪相手の方が話が通じるかもしれん。中には天逆毎あまのざこに反発する種族もおるやろうから、そいつらが口説ければ一番ええんやが」


 和泉いずみの意見に苛立ち、今まで黙っていた大和やまとは口を開いた。


「兄貴、妖怪なんかと手を組む気か? 裏切られるに決まっとるし、俺は絶対嫌やで」

「大和、どんな組織も集団も完全な一枚岩にはなれへんのや。さっきの会議見とったらわかるやろ。それぞれに立場があり、通したい主張がある。腹の底から信じあう必要はない、共同戦線が張れれば大儲けやで」


 丁寧に言われてもなお、大和はぷっと頬を膨らませる。


「せやかて」

「戦国大名みたいなもんや。お前も商売やるんやったら、腹芸くらいは覚えなあかん。ほんまは俺も嫌やけどな」


 和泉が首の後ろをさすった。しかし、怜香が見たところ和泉は相当気真面目な性格のようだ。のらりくらりとした父を真似ても、うまくいくまいと怜香は内心で思う。


「兄貴、そういうの下手なくせに」


 大和が混ぜ返す。やはり実の弟から見ても、そういう評価になるようだ。


「だんだん上手くなるんやないか。お前こそ、その考えが全部ダダ漏れになるのをなんとかせえ」


 和泉が言い返す。それに大和がむっとしたところで、一行は研究棟の前に到着した。場所が変わったことで、気まずい雰囲気が薄れる。


 研究棟の温かみのあるベージュ色の煉瓦が目に優しい。和泉によると、建築は、有名なデザイナーに設計させたものだという。一般に住宅として売り出す前に、ここに建ててみたのだという。ただし、入り口のゲートだけは鋼鉄製でものものしく、完全に軍隊仕様になっている。


 入館審査をパスして三人が中に入ると、まずは巨大な図書室が目に飛び込んできた。天井まである背の高い本棚に、びっしりと本が並んでいる。厚さ数センチはある本も少なくなく、よく見ると大和の肌に鳥肌が立っていた。よほど勉強嫌いのようだ。


「三千院の坊ちゃんは、どう考えとる? 妖怪は殲滅せんめつすべき対象か?」


 和泉がきくと、怜香は首をかしげた。


「いえ、利用できるところは利用すべきだと言うかと。次期当主であるかなめさんが、妖怪の殲滅までは望んでいないので、その意向には従うと思います」

「ほー、あながち俺の考えも間違いやないな」


 少し和泉は嬉しそうに言った。が、そこへ怜香が冷水をかけるように言う。


「ただ、葵の場合、要らなくなったらバッサリ関係を切るでしょうけどね。最後まで手を組むのにふさわしいと判断する種族がどれだけいることやら」


 怜香が首をすくめた。葵がいつもの仏頂面のまま、「よし、同盟はここまでだ。皆殺しにせよ」とかなんとかかんとか言う姿が容易に想像できるのか、大和は顔をしかめる。


「聞きしに勝る狸やな」


 和泉が肩を落とす。やはりこの人は、前線指揮官にはなれても、参謀には向いていないなと怜香は判断する。


 しかめつらしい顔をして、本の山にうずまっている研究者たちを横目に、三人は歩き続けた。話をするものは誰もなく、がりがりと何か書きつける音や、せわしなくキーボードをたたく音だけが聞こえてくる。自然と、一行の会話も小声になった。


「すごい施設ですね」


 怜香がつぶやいた。その後葵が喜びそうだわ、と付け足す。


「最初はもっと本も少なかったんやけどな。研究者たちの要望に応じて増やしていったらこんな感じになったんや」

「予算が潤沢でうらやましい限りですね。あ、そうだ。さっきの会談のことなんですけど」


 言いだしにくそうに怜香が言う。


「ん?」

「治安対策や軍事行動について話し合っていた割には、軍関係者も政治家もいませんでしたね。あれはまた、別の機会に結論を出すんですか?」

「いいや」


 和泉が首を横に振る。怜香が目を見開いた。


「もともとな、大阪はあんまりええ政治家に恵まれてへんのや。もちろんこれは、政治家の問題だけやのうて、投票する側の問題でもあるけどな。

奴らに任せといたらぐちゃぐちゃになるっちゅうんで、経済界のお偉いさんたちが色々口をはさんどる。さっきの会議もその一環や。俺が生まれる前からやっとるらしいから、もう数十年前からやり方は変わってへんと思うで」


 大阪は独特だと聞いていたが、ここまで違うのかと怜香は驚いた。


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