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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
異界からのシシャ
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ひとつの終わり

「おい、黙って帰るな」


 かなめが厳しい一言を、頭上へ投げつけた。一拍遅れて、がさっと大きな音がして樹が揺れる。


 あおいがそちらを見上げると、疾風はやての首元を持ったまま、立ち去ろうとしている紫髪の女の姿があった。そんな猫の子供を持つような抱え方をして、奴の首が閉まらないだろうかと葵は思った。


「いやー、完敗完敗。じゃ、帰るね」


 疾風は完全にのびているのが、完敗と言われてもうんともすんとも言わなかった。要は追撃もしようとせず、呑気に女に向かって言う。


「……そいつに伝えとけ。再戦なら受けてやる。が、次は殺し合いだ」

「おっけー。後で言っとくわ」


 ゴスロリ女も負けず劣らず、ゆるい返事をする。声に反応して、彼女の小さなシルクハットがごそりと動いた。かぶるというより頭にのせているという感じの帽子から、小さなヒヨコが飛び出す。


「頼むわね」


 女が言うと、ひよこはみるみる大きくなり、金色の大きな翼を広げる。女は手なれた様子で背中に乗り、ぞんざいな手つきで疾風を引っ張り込んだ。


「じゃーねー。またねー」


 要がおう、と答えた。葵は本気でもう来なくていいぞ、と言ったが、女はそれには返事をしないまま飛び去って行った。天狗たちが黄金の鳥を守るように周囲を飛びながら、一緒に帰っていく。


「……これで、今度こそ本当に終わりだろうな」


 葵が大きく息をつく。怜香れいかが傍らで、そうだといいけどと呟きながら葵の肩を叩いた。憂鬱そうな人間たちの中で、要だけはなんだかわくわくした様子で、しきりに足踏みをしていた。



☆☆☆




 黄金の鳥は、悠々と空を飛んでいる。上空の風は人間が生身で当たれば気を失うほど冷たいが、女は紫の髪をなびかせながら音が外れた鼻歌を歌っていた。


「ふんふふんふんふ」

「……随分ずいぶん上機嫌だな」


 膝のあたりから不機嫌な声がして、女は鼻歌を止めた。膝枕をしてやっていた疾風がむくりと起き上がり、痛そうに後頭部をさする。しかし女は気にもとめずに、鼻歌を続けた。


「ふんふかふん」

「その下手な鼻歌をやめろ」

「いや、ささくれた心にいいかなと思って」

「不愉快だ」

「じゃあ、負けて残念だったとでも言おうか?」


 女はにやりと笑う。疾風が、下手な慰めが大嫌いであることを見透かしたような笑いだった。


「やっぱりいい。ずっと歌ってろ」

「ふんふふうー」


 女はその答えを予想していたかのように、へたくそな鼻歌を歌う。周りの天狗たちが、面白そうに笑う。その中から、ひときわ大きな白い翼の天狗が進み出てきた。


「バイオレット殿、今回は愚息が世話になりました」

「ヴィオレットねー。まあいいけどー。お世話って何もしてませんよ」


 紫の女はひらひらと手を振りながら、大天狗に向かって返事をした。名前にこだわりがあるらしく細かい発音を指摘したが、大天狗は息子同様ヴの音が発音できないらしく、名前の呼び方は変わりがなかった。


「連れて帰ってくださったではないですか。あのまま人間たちの中でのびていたら、どう利用されたかわかったものではありませぬ」

「まあ、実験材料くらいにはされてたかもね。天狗が生きたまま捕まるのって珍しいらしいから」

「誇り高い種族ですからな。人間のいいように扱われるより、皆死を選ぶでしょう」


 白い大天狗は胸を張ったが、ヴィオレットは露骨に嫌そうな顔をした。


「私はそれがいいとは思ってないからね。だからおせっかいを焼いたの」

「本当に余計なことをする。親父もこの女を止めてくれよ。そもそも泊地を撃たれた仕返しもできてねえし」


 疾風がぼそりと呟いた。ヴィオレットは大天狗に顔を向けたまま、疾風の頬をつねる。


「い、いてえな。ひゃにすんだ」

「生意気」


 むにむにと疾風の頬をもてあそんでから、ヴィオレットはようやく指を離した。大天狗は面白そうに笑いながら、息子に語りかける。


「まあ、そう言うな、疾風。私も親であり首領だ。損害が少なくなる選択があれば、それに越したことはない。我らを撃った相手は勝手に滅んでおったというし、お前はなかなか良い勝負をした。それでよかろう」


 大天狗に言われると、若武者はぷいと横を向いたが、それ以上反論はしなかった。


「坊は相変わらずお父上には弱うござる」

「はっは、良いではないか」


 周りの天狗たちがそれを見て大笑いする。疾風が真っ赤になりながら気勢をあげた。


「うるっせえ。もっと強くなって、次こそあの女ぶっとばしてやる」

「できるかなー」

「そこは励ませよ、ババア」

「占いの結果難しいと出てますなあ」


 むきになって反論してきた疾風に、ヴィオレットはにやにやと笑いながら水晶玉を押しつける。疾風は、「そんな西洋かぶれの占いなど信じるものか」と子供のようにほおを膨らませた。


 きゃいきゃいと言い合う息子たちの横で、彼らとは逆に大天狗が顔をしかめていた。


「……しかし三千院さんぜんいんは強いな。また会わねばならぬ相手だろうが」

「ま、これで富永とみながが権力を失うからね。あいつらが手綱とりだしたら、やりにくくなるだろうねえ」


 ヴィオレットが大天狗にいうと、横から疾風が割り込んできた。


「三千院だろうが何だろうが、俺が蹴散らしてやるよ」


 胸を張った疾風に、ヴィオレットは背を向けた。


火車かしゃ族との共闘ってどうなったの?」

「なんか言えよババア!」


 再びかしましく騒ぎながら、天狗一行は空をかけて行く。いずれ戦場になるであろう空も、今日は薄桃がかった静かな顔で、彼らの周りに悠然と広がっていた。



☆☆☆




「先日の襲撃は大変でしたな。まさか、富永が妖怪と手を組んでいようとは」


 すばるが官庁のそっけない白い廊下を歩いていると、議員が二人ついてきた。昴は嫌な顔一つせず、あいまいに微笑む。


「大事になりましたからね。中央まで呼ばれて、官僚に向かって説明したときは肝が冷えましたよ」

「災難でしたな」

「お気づかい、ありがとうございます」


 富永の勢力が強かった時はしれっと無視をきめこんでいたくせに、調子のいいことだと昴は思ったが、もちろん顔には出さない。


 襲撃から間をおかずに、富永家は解体された。資材や武器は大部分が三千院家の所有となり、使用人や私兵もどうしようもないのを除いて再雇用されることになった。


 私闘の後始末は大変だったが、都合よく天狗族が現れてくれたおかげで、富永が妖怪と手を組み、人類を掌握しようとしていたという話へもっていけたのは運が良かった。葛城の次に富永が重用していた武藤むとうとかいうハゲ親父は、俗物中の俗物といえるほどの小物だったので、なんの障害にもならなかった。


 実は武藤は相当富永家の財産を使い込んでおり、昴がそれをを指摘したとたん、わなわなとふるえていきなり「ボク知らない」と言い出した時には怒りを通り越してあきれてしまった。しかしそれは演技ではなく、本気で幼児退行した彼は今精神病院のベッドの上だ。


感想がないと作者が干上がってしまうので、気になる点や面白い点がありましたら

一言でもメッセージいただけると嬉しいです。

(めんどくせえ作者)

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