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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
異界からのシシャ
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Sランク対Sランク

かなめに吹き飛ばされた戦車が地面にたたきつけられ、キャタピラが外れる。ずらりと横に並んでいた他の戦車たちは、動けないまま目の前に広がる光景を見ていた。


 要は黒い戦車があった場所に入りこみ、隣の戦車の横側にまた突きをたたきこむ。また戦車が横転し、隣にあった一台を巻き込んで動かなくなった。


「ほうほう、やるやる」


 いわおも要に続いて、残り三台の戦車に突っ込んでいった。途中、甲烈こうれつが転がっていたので念のため腕を踏んでおく。


 要に向いている砲塔をぐいとつかんでねじりとり、横に放り投げる。ハッチがぱかりと開き、中にいた兵たちが慌てて這い出してきた。銃も携帯しているはずなのに、巌を化け物を見るような眼で見て後ずさる。


「失礼じゃのー」


 取って食いやせんわい、と巌は頬を膨らませる。少し腹が立ったが、下っ端に当たり散らしても仕方あるまい、とはやる自分を抑えた。


 兵たちが後ろを向いて走り出す。おうおう、と腕を組んで見ていた巌だったが、ぬっと後方から出てきた人影に顔をしかめた。外見はどこにでもいる、中年の穏やかそうな男だ。苦み走ったハンサムな顔で、腹が出ずスタイルもいい。何も知らない人間が会えば好意を持つだろう。


 が、巌にははっきり分かった。こいつは、人殺しだ。男の全身からぬめるように血の気配がする。


 男がにっこりと笑う。ぼう、と男の足元から赤い液体が染み出てきた。水ではなく、のたのたと粘りを持った液体が巌を威嚇いかくするように大きくうねる。巌があっとも言わないうちに、液体は地面にずぶりと潜り込んだ。


 さっき逃げ出した富永の兵の周りを、赤い液体がぐるりと囲む。兵たちが異常を感じてたちすくんだ。次の瞬間、赤い液体ががばりと彼らのの全身をつつみこむ。しばらく液体は人の形をしていたが、男がぱちりとまたたきをすると、するすると地中に帰っていった。


 液体に飲み込まれた兵士たちはすでにおらず、白い骨と化していた。恨めしげに空を見つめる彼らのしゃれこうべの眼窩がんかが暗い。


「こうなってしまえば軽いもの。証拠隠滅しょうこいんめつも容易ですね」


 男は白骨をつかんで、お手玉でもしているように空中に放り投げる。こうやって処理するのに慣れているのだろう。巌は背中に冷たいものを感じながら、男に話しかけた。


「……お前、誰じゃ」

富永とみながの客人かつ最高兵器であります。姓は神阪こうさか、名は勇次ゆうじ。故あって公には出ませんでしたが、今まで真剣勝負をして、負けたことはありません」

「へえ、そりゃ凄い。富永が一人だけSランクを飼ってると聞いたが、お前か」


 巌は大げさにのけぞってみせる。


「はい、そうであります。現在Sランクをいただいております。いや、これは変化しないものなので、現在と言うのは適切ではないか。ランクは同じでも実力でいえば、単純な腕力馬鹿のあなたより上ですよ」


 神阪は淡々と言いながら、指で形の良いあごをこすった。ほう、自信たっぷりだな。道理で自分を見ても動じないわけだ、と巌は納得する。


「へー」


 横で聞いていた要は興味を持ったのか、目を光らせながら髪をかき上げる。


「強えのか、お前」

「ほう、あなたもなかなかやるようですね。仲良くいたしましょう」

「お前嫌いだからパス」


 要は神阪の申し出をあっさり断った。戦意を失っていた味方をあっさり屠った奴を好きになれないのだろう。二人は険悪な雰囲気のまま、にらみあった。


 その場にいるものは皆、憑かれたように二人を見つめている。恐怖よりも、目の前の強者への興味が優っているようだ。


 先に動いたのは神阪の方だった。粘る赤い液体がくねくねと動き、要の全方向を取り囲む。が、一瞬でその液体は四方に弾き飛ばされた。巌は軽く後ろにステップして飛沫をかわす。


「なんだ、溶岩かよ」


 液体を弾き飛ばした要は動じた様子もなく、すっくと立っている。神阪の能力を見抜いてしまったせいか、彼女の表情がつまらなさそうに変化した。


 要は足元についていた飛行装置を起動させ、空中に舞い上がる。溶岩のねばついた動きよりはるかに早く、彼女の強烈な蹴りが神阪の腕を打ち砕いた。またぴかりと一瞬だけ現れた光が、巌の目に入る。


「電気使いか」

「雷と言え」


 腕の骨を砕かれた神阪が苦悶の表情をしながらも、要の能力を指摘する。要は空中からそれを訂正した。間髪いれず、神阪が次の攻撃を放った。が、要に当たる前にびたりと動きを止め、なすすべなく辺りをさまよう。


 要の姿はすでに神阪の前から消えていた。要がばねのようなしなやかな動きでしゃがみこんだ次の瞬間には、神阪の体が背後から思い切り蹴られて宙に浮いている。巌でも確認するのが遅れるくらい、速い蹴りだった。


「なんだ、つまらん」


 蹴りをもろにくらって悶絶している神阪に向かって、要は一言吐き捨てた。少し楽しそうだった表情はすっかり厳しいものにすり変わり、美貌びぼうが冷たいとげと化している。


「デバイス適応はSといっても、お前本体は弱いじゃねーか。期待して損した」

「ぐ……」


 神阪はまだダメージから回復していないのか、べったりと地面に伏せている。期待を裏切られた甲烈が、神阪に向かって聞くに堪えない罵声ばせいを浴びせ続けたが、


「うるせえ」


と言って近づいてきた要に鼻と口を蹴られて地面に倒れ伏す。弱いんだから余計なことをしなきゃよかろうに、と巌は心底呆れた。


 甲烈を蹴った要は、まだ神阪に背を向けている。彼女の視線が外れている間に、神阪の周りの地面がざわりざわりと小刻みに揺れ始めた。巌は何も言わず、腕を組んでその様子を見守る。


 空気が一瞬揺れた。神阪によって限界まで大きく練り上げられた溶岩が、要をめがけて一気に吹きあがる。やはり神阪もSランクのプライドがあり、生きている以上は闘うつもりらしい。


 今までよりより赤く、大量の溶岩が要の体にまとわりつこうと一直線に彼女を目指す。要がくるりと振り向き、自分に向かってくる溶岩を見てとった。


「……時間やってもこの程度かよ」


 構えの体勢をとった要がうすら笑いを浮かべながら言う。神阪の顔が大きく歪み、ぱくぱくと魚のように口が開いた。


 要の周囲の空気が震え、拳が閃光をまとう。一瞬で彼女が間合いを詰め、神阪の懐に入った。そして要の放った右ストレートが、一瞬で神阪の体を撃ちすえた。次の瞬間、激しい稲妻が神阪の全身を駆け巡る。


 彼の体は雷で一瞬で真っ黒になり、力なく地面に落ちる。溶岩がぴたりとその動きを止め、かつての主の死体のそばからあっという間に消えた。


「ま、これで諦めついたろ? 全力でやって負けたわけだし」


 要はもう動かない神阪に向かって言う。巌がおいおい、とつっこみを入れた。


「もう死んどるぞ、そいつ」

「あー、でもなんとなくな。勝負したよしみってやつで。最後に一言」


 優しくはないのに、妙なところで律儀な要の言い様を聞いて、巌は苦笑いしてみせた。そこでようやく、甲烈がうめき声を上げながら起き上ってくる。


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