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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
異界からのシシャ
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はまった策

 まず動いたのは大和やまとだった。さっきまでの鬱憤うっぷんを晴らすように、ひときわ巨大な牛鬼の上へ入りこむ。牛鬼の角が追ってきたが、それを大和は昆でがっちりと受け止める。角の内側に昆が入りこみ、がりがりと削れるような音がした。


 牛鬼の息遣いが激しくなる。大和が顔をしかめて臭いな、と叫んだ。失敬な、と言いたげに牛鬼の顔がゆがむ。


 プライドを傷つけられた牛鬼に、一瞬隙ができた。大和は機会を見逃さず、足を一歩引いて牙の外側に昆を持ってくる。昆と牙がちょうど十字の形になったところで、大和が渾身こんしんの力をこめて昆をはねあげた。


 牛鬼の体が後ろへ大きく傾く。のけぞった体勢になった牛鬼の側頭部を、大和の昆が打ち据えた。脳天に衝撃が伝わったようで、牛鬼が海中にどうっと倒れこむ。が、流石に丈夫なようですぐに起き上がってきた。


「来いや!」


 大和が大声を出して牛鬼を挑発する。牛鬼が、その声に答えて怒鳴り返してきた。


「この佐門さもん相手にその度胸よし!」


 なめらかな男の声に、葵は耳をすませる。ボスは佐門と言うのか、立派な名がついているものだ。


 佐門の注意が大和に集まったのを確認してから、あおいは航海長に船を動かすよう指示を出した。


『後退か?』

「いや、俺の言う通りに動いてくれ」


 航海長から怒りのうめき声がもれた。この馬鹿は一体何を考えているのかという殺気を感じる。


「……君らの命を犠牲にしようとしているわけではない。わかってくれ」


 航海長がぐるる、と唸った。葵は嘘をついたわけではないが、まだ信じられないのだろう。だが、さっきより少し態度は軟化していた。


「頼む。生きて帰って、三千院の家で焼き肉でもしよう」

『……寿司は』

「構わん」


 無線の最後は航海長の低い笑い声でしめくくられた。手動に切り替えろ、と彼が操舵手に声をかけるのが聞こえる。


 間もなく、艦が動き始めた。船の先端が右に大きく動き、葵から見て右手側だけが牛鬼たちから離れた格好になる。


 葵はデバイス使いたちの配置を変えた。一番右手――佐門たちから一番遠い側――に霧島きりしま、中央に葵、そして怜香れいか・大和・薬丸やくまるの三人は左に立つよう指示を出す。


 佐門たちもすぐに動き出した。葵が左側に戦力を集中したのを見てとり、牛鬼三体はいっせいに左に集まる。佐門が一番奥に下がる。その前に赤鬼・青鬼が進み出て、牙をたぎらせながら獲物に狙いを定めている。


 牛鬼が抜けたところを埋めるように、海坊主が右に移動する。海中から海蛇たちが現れ、その周りを固めた。中央、右の海があっという間にうごめく蛇たちでいっぱいになった。


「応援がきたわ……葵、時間をとりすぎたのかも」

「慌てるな。応援は想定内だ」


 怜香が張り詰めた声を出したが、葵はわざとのんびりと言った。問題なのは応援ではなく、次の佐門たちの動き方だ。


「来ましたぞ!」


 薬丸が叫ぶ。葵は覚悟を決めた。最初の一瞬が賭けだ。佐門の動きによっては、葵の命は十三歳で終了、とあいなる。その時は運がなかったと諦めるしかないだろう。


「お、来たな。その度胸、褒めたるわ」

「相手にとって不足なし!」


 大和と薬丸の嬉しそうな声がした。牛鬼たちが初期の配置のまま、左側の三人に牙をむいている。葵を狙えばまず間違いなく殺せたろうが、その前に大和たちを殺したかったのだろう。


 葵の作戦、初手はまず成功となる。佐門が怜香や大和を無視して葵の首を真っ先に狙ってきたら、自分の体は今頃原型をとどめていなかっただろう。


 牛鬼は自分の力に自信を持っており、一度破れたものや強者に強い執着を示す。それゆえ、葵に向かってくる可能性は低いとは思っていたが、絶対ではない。知らず知らずの間に葵の体に力が入っていたので、少し息を吐く。


 海坊主と海蛇たちの進行速度は、牛鬼よりはるかに遅い。左の方角で戦闘が始まったが、まだ波間をうねうねと這っていた。霧島は弓に矢をつがえ、前方の様子をうかがっている。時折無駄なジャンプをはさむので、葵はじろりと睨みをきかせた。


 左では、大和とヴァルキリーが赤鬼に挑みかかろうとしていた。ヴァルキリーは両手で槍を持ち、切っ先を下に向けている。右手が上になっているため、切っ先は彼女の左足の上にあった。


 ヴァルキリーの前には、大和が嬉しそうな顔をして右手に昆を構えている。赤鬼を挑発するようにちらちらと飛び回り、時々赤鬼の牙がかすめるくらい近くへ寄っていく。ランダムではなく、一定の軌道を保ちながら飛んでいた。


 赤鬼が大和の動きの規則性に気付いた。ぐうっとかがみこみ、大和が自分の近くに来たタイミングを見計らって飛びかかる。ぎらりと光る牙が大和に襲い掛かった。


「ほい、さいなら」


 しかし大和は無意味に同じ動きをしているわけではなかった。赤鬼が自分に食いついた瞬間、あいていた左手で飛行装置のスイッチを切る。浮力を失った大和の体はまっさかさまに落下し、赤鬼の牙は狩るべき獲物を失った。


 ヴァルキリーが動いた。槍から右手を離し、左手でぱっと槍を回す。切っ先が天を向き、日を受けてきらりと輝いた。


 上げられた刃は、ヴァルキリーの手によってくるりと方向を変える。今度は斜め下に向けられた槍の切っ先は、容赦なく赤鬼の眼球を貫いた。よほど痛むらしい、屈強な赤鬼でも体勢を崩して絶叫をあげる。


「やりおるな!」


 戦乙女の健闘を見て、薬丸が発奮した。飛行装置の出力を一気に最大にし、青鬼の死角に入りこむ。ただし、こちらは大和と違って援護は一切ない。


「相変わらずだな」


 自分なら絶対にやらない単騎での突貫に苦笑し、葵がつぶやいた。薬丸は迷いなく長い刀を頭の上で振りかぶり、ひねりながら袈裟けさに斬りかかる。


 薬丸が放った必殺の一撃は、青鬼の腕をずっぱりと切り取った。切り取られた腕が海に落ち、派手な波しぶきをたてる。


 ここで初めて、赤鬼・青鬼に動揺が走った。明らかに格下であったはずの人間たちに、ここまでやられるとは。話が違う、とでも言いたいのかひっきりなしにかん高い声をあげている。


 追いつめられた二体は、分かりやすくパニックに陥った。葵からみればそこまでショックでもないが、彼らには荒れる理由があるのだろう。たとえば、天逆毎あまのざこに思いっきり睨みをきかせられているとか。


 赤鬼、青鬼は競うように、デバイス使い達から距離をとろうとする。結果、怜香たちに襲いかかろうとしていた佐門に、横から二体がもろにぶつかる形となった。佐門が怒りの咆哮をあげる。


 じっと牛鬼たちの動きを見ていた葵はほくそ笑んだ。佐門が怒るのは当然だ。前の二体が盾になっているうちに回りこもうとしていたのに、いつの間にか自分が左右からはさみうちにされてしまったのだ。味方に邪魔をされるとは思っていなかった分、怒りが倍増していることだろう。


 海坊主も、助けにかけつけたはずの海蛇たちも、この状況にひたすら戸惑っていた。自分たちのなすべきことは分かっている。今ピンチになっている牛鬼たちを救いに行くことだ。ただ、彼らの前には葵と霧島がいる。


 もし今方向転換をして牛鬼たちを助けに行った場合、今度は自分たちが敵に無防備な横腹をさらすことになる。一体一体は牛鬼より弱い海坊主と海蛇たちが、怖気づくのは当然だった。

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