チートがやってくる!(敵)
葵は近くに敵がいないのを確認してから、電話を取って実家の番号を押した。呼び出し音が続いた後、聞きなれた野太い声が返ってくる。
「はろー。こちらじじい」
「相変わらずふざけた爺さんだな。デバイス使いの増援を頼みたいんだが」
「ほう。ま、いいが、戦後の処理はお前がやれよ。軍属じゃない奴らも交じっているでな」
今までは富永(とみなg)の仕返しを警戒して、派手に動くことは避けていた。が、完全に潰すと決めた以上、戦後の対応を気にする必要はもはやない。三千院の私兵を入れても問題なかろう。
「黙らせれば問題ない。禍根は残さん」
「ほうほう。敵の編成は」
葵が言いきると、巌は反論してこなかった。状況が的確にわかっているくせに、あえて孫に一回問うてくる意地の悪さは相変わらずである。
「モー・ショボーの飛行部隊がとにかくやっかいだ。あとは牛鬼と海坊主だな。だが、それだけでもなさそうだ」
葵が言う傍から、モー・ショボーが横からつっこんできた。葵の張った網にかかって跳ね返り、忌々しそうに葵を睨みつける。
「ほいほい」
巌は適当な返事をしながらも、電話の向こうでなにか書き留めているようで、さらさらと音がした。それに「じいじ、都も書きたい」と末っ子の声がかぶさる。
戦場にいながらも、電話口に確かにある平穏の地を思うと少し気が楽になった。必ず、生きて戻らねば。葵は早口で会話を続ける。
「あと、悪いが用意してほしいものがある。俊兄貴につないでくれ」
防御用に張った網が、そろそろほころび始めていた。葵は電話口に出た俊に、用件を告げてすぐに電話を切る。怜香の後ろに移動すると、モー・ショボーも襲ってこなくなった。
「もうしばらく話しててもいいわよ」
怜香が正面を向いたまま言う。葵は笑いながら、もう用は済んだと答えた。
横を見ると、さっき離脱したはずの小兎三尉が戻ってきていた。葵と目線があうと、「人数が足りないから戻れってさ」と照れながら言う。
「悪いね、一尉の指示と逆になっちゃった」
「俺は構わんが、体は大丈夫か」
「うん。でも、元々戦闘向きの能力じゃないから、後ろにいるよ」
その言葉通り、小兎は怜香の背中にぴったりはりついている。葵は無理するなよと念押ししてから、デバイス使いたちに向けて無線を取る。
「敵増援のおそれあり、深追いはするな」
『へいへい』
大和からはすぐに返事があった。が、安葉と森からはくぐもったうめき声しか返ってこない。異変を察知して葵は無線を握りしめた。
「おい、安葉、森。どうした、応答しろ」
何度呼びかけても、のんびりとした声もはきはきした声も返ってこない。空しい沈黙が流れた。
「あの二人はどうしたの?」
怜香が心配そうに聞いてきた。小兎も拳を握りしめ、葵を見つめてくる。葵は単純にわからない、と答えた。
「司令部。第七班、第八班のメンバーの生体反応は」
葵は本部に確認をとる。デバイス使いたちの体内には微小チップが埋め込まれており、脈拍や体温といったバイタルサインを本部でも確認できるようになっていた。
『……七・八班、小兎三尉一人のみ確認。他二名生体反応なし』
「了解」
気絶しているだけだと思いたかったが、本部からの回答は無慈悲だった。怜香はうつむき、大和は怒りの声をあげる。なじみのメンバーを一気に失った小兎は、顔を両手で覆った。
「この借りはキッチリ返すで」
大和が葵の目の前をさっと通り過ぎながら話しかけてきた。葵もうなずく。
「ああ、そうしてやれ」
大和は葵たちの周囲のモー・ショボーを一掃してから、また遠くへ飛び去って行った。葵は腕を組み、考えをまとめはじめる。
「しかし、どうして急に二人もやられた?」
「牛鬼の射程圏内に入ったのかしら」
怜香が答える。が、葵はどうしても納得できなかった。
「いや、安葉も森も遠距離攻撃可能なデバイスだ。牛鬼の牙に近づくとは思えないし、飛行部隊に囲まれるまでぼーっとしていたとも考えづらい」
「ということは。別の妖怪にやられた?」
「ああ」
怜香がうーん、と考え込んだ。敵の正体について考えているらしい。しかし思い当らなかったらしく、海の妖怪はたくさんいるものねえ、と諦めたようにつぶやいた。
「……デバイス使いを一気に二人も殺せる妖怪。何かしら」
「舞台は海、強力な妖怪……まさか、な」
最悪の想像をして、葵は身震いした。あいつだけとは、出会いたくないと思っているたちの悪い妖怪の名が脳裏に浮かぶ。しかし、現実から目をそむけるわけにもいかなかった。
「小兎三尉。確かデバイスは白兎神だったな」
「う、そうだけど何さ」
仲間を二人も失ってうっすら涙を浮かべている小兎に、葵は声をかけた。
「よく聞いておけ。今から俺が言う音が聞こえたら、真っ先に知らせろ。他の何をおいても優先だ」
まだショックを隠しきれない様子だが、葵の指示をうけてこくりと小兎が頷く。葵がさらに対策を考えているところへ、護衛艦からの無線がとびこんできた。
『護衛鑑きりしまより第三班へ。戦況は硬直、いせのヘリ用甲板にモー・ショボーが着陸しはじめている。霧島二尉が奮戦しているが、長くはもたない。こちらにも応援を頼む』
葵は頭をかかえた。いせはヘリコプター搭載護衛艦で、艦の表面が平たい構造だ。飛行種族がもっとも取り付きやすい艦に、デバイス使い一人では確かに足りなすぎる。
「どうする? 葵。私とヴァルキリーで行こうか」
「本音を言うなら、あまり隊を分散させたくはないが……ヘリ搭載護衛鑑は貴重な戦力だ、ほかの鑑にのせられるヘリの数は限られているからな。仕方ない、おい大和。いせまで後退しろ」
『なんで俺!?』
大和が露骨に不満そうな声を出す。しかし、葵の決意は揺らがなかった。
「デバイスの能力から判断している。俺が予想している敵が来るとしたら、一番役に立たないのがおまえのデバイスだ」
『俺の崑は何でも砕くで! バカにすんな』
「さっさと従え。おまえは迷いそうだから、ヘリにいせまで誘導してもらう。艦の内部に進入される前に敵を全滅させろ」
葵が無線で呼びかけると、すぐにさっと白いヘリコプターが一機やってきた。葵は再度大和に指示を出す。
「行け」
『……気にいらへんが、行ったるわ』
大和も任務中のため、舌打ちをしながらも了解する。ヘリに近寄ってきて、機体と一緒に葵の視界から消えていった。
「行っちゃった。これから、何が来るの?」
小兎が顔をゆがめながら、辺りを見回した。怜香も不安そうにしている。自然と三人で固まるかたちになった。
「……俺の想像がはずれているならそれでいいが、当たっているなら最悪だな。三千院家から送ってくるはずの物資が間に合うかどうか」
「大和君のはだめでも、私のデバイスは大丈夫なのよね?」
「いや、お前のデバイスでも一緒だ。効かない」
葵はばっさりと言い切る。怜香が目を見開いた。
「でもさっきは……」
「性格的にな。お前は我慢できるだろうが、あの馬鹿は敵だとみたら突っ込んでいく。それだと死体が増えるだけなんでな」
「あら、意外とお友達おも……いえ、なんでもございません」
変なことを言い出した小兎に、葵は極寒の視線を向けた。たちまち彼女は口をつぐみ、空がきれいです、と言いながらそっぽを向いた。
「勝てるの? 今想定してる相手が来たとしたら」
「勝てるか、あんなもんに」
怜香に聞かれ、葵が吐き捨てる。怜香と小兎が驚いた顔で、葵を見やった。




