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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
異界からのシシャ
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増援、合流

 飛行装置がスイッチによって再び起こされ、うなり声をあげる。三人は再び上空へ舞い上がり、今度は側面からモー・ショボーたちの群へつっこんでいった。


「伸びろ、斉天大聖せいてんたいせい!」


 大和やまとの崑が戦いの火蓋を切る。みるみる伸びた崑が旋回し、近くのモー・ショボー数十体がまとめて吹っ飛ぶ。少女たちの群れがざあっと崩れた。


「……数が多くて、私はちょっと苦手な相手だなあ。親玉はいなさそうだし、大和君をトップにしてとりあえずこのエリアを抜けましょうか」


 怜香れいかが提案してきた。確かに鳥たちは小さい上に数が多すぎて、効果範囲が直線の槍では効率が悪い。ここは大和に任せ、あおいたちは群れを振り切ることに専念した。


「やっぱり最後は俺が頼りなんやな!」


 大和が喜んでいるのが気に食わないが、実際頼っているのだから仕方ない。葵は今回は何も言わずにおいた。


「待っとれよ、七・八班の女の子たちー!」


 七、八班に女子は一人しかいないしさっき離脱した。が、まあこれもわざわざ言うことではあるまい。

大和の煩悩のおかげで、ようやく一行は前方に二列に並んだ護衛鑑が見えるところまでたどりついた。


『七班、安葉やすはです。第三班、今どこですか!?』


 せっぱ詰まった声で無線が入る。第七班のただ一人の生存メンバーからだ。


「護衛鑑の斜め上空にいる。まもなくさざなみが見える、合流しよう」

『だ、大賛成ですー。今から敵と一緒にそっちに行きます』


 さらっと安葉は言ったが、葵は聞き逃さなかった。間違いではないかと思い、もう一度聞きなおす。


「おい。『敵と一緒に』だと?」

『ひいー』


 返事はなかった。ただ、安葉の悲しげな悲鳴だけがこだまする。


「……来るわよ。ヴァルキリー、待機。獲物を間違えちゃだめよ」


 怜香が顔を曇らせ、銀色の乙女が構えをとる。消耗した大和がいったん一番後ろに下がり、敵襲に備えた。


 変化はすぐに訪れる。前方からものすごい勢いで、灰色の軍服に身を包んだ人間がおりてきた。彼の周辺には、かちかちと音を立てる無数の丸い物体が張り付いている。


「た、助けてー!!」


 よく見ると、丸い物体はすべて人の頭の形をしている。しかも、あどけない幼児の顔に鋭い牙が生えている、なんとも自然の摂理に反した造形だった。そりゃ囲まれれれば泣きたくもなろう。


 ヴァルキリーが動いた。泣きわめいている安葉の背中付近にぴたりと張り付き、まず槍をぐいと彼の後方に差し込んだ。


 串刺しにされた幼児の頭が泣き叫び、そして粉々になって消えていった。後続が少し途切れた隙に、乙女は安葉のでっぷりとした背中を守るようにぴたりと張り付く。


「三班の久世くぜです。七班の安葉さん、後ろは私が守ります!」

「え……」


 安葉の背中が強張った。何か言いたげだったが、歯をくいしばる。久世の名は今でも、悪いイメージを伴っているのがはっきりわかった。しかし、怜香は全くぶれない声で指示を出した。


「前の敵だけに集中してください!」

「わ、わかったよお! 来い、レプンカムイ!」


 怜香の迫力に押され、少しだけ安葉の声に張りがでる。腰につけていた三十センチほどの長さのもりを手にし、宙をかいた。銛の先が大きく開き、三匹のしゃちがつるりと空中へ飛び出した。


 海中を泳ぐようにしなやかに動いた鯱は、待っていましたとでもいうように手近な追跡者にかみついた。徐々にではあるが、確実に前方の敵集団が薄くなっていく。ヴァルキリーも奮戦していた。寄ってきた後続部隊を切りまくりながら、ぴたりと安葉の背中に張り付いて離れない。


「だいぶ敵の数が減ったで」

「ああ、危ないのはこういう時だ。油断が出る」


 葵は怜香の邪魔にならないよう、さざなみ付近で待機しながら、周りに目を配っていた。さっと海面に目をやると、安葉の真下のほぼ一角だけがほの白い。


「まずい! 安葉、上昇しろ!」


 円を描くように動き回っていた安葉の横に、ゆらりと坊主頭が現れた。海から巨大な坊主が現れ、ぬうっと大きな手を伸ばして安葉とヴァルキリーに襲いかかった。波しぶきがあがり、二人の姿が見えなくなる。


 坊主といっても、数階建てのビルに匹敵するくらい背が高い。顔の半分はある大きく裂けた口が不格好に釣りあがり、赤く輝く目がぐるぐるとせわしなく動いて獲物の行方を追っている。


 二人……といってもヴァルキリーは実体がないため、安葉の安全を確認するため葵は無線を起動させた。無線の向こうから、あーだのわーだのぎゃーだの、単語になっていない悲鳴がひっきりなしに聞こえてくる。


「……生きてはいるだろうが、使いものにはならん。安葉、上空で待機しろ」


 聞いているかはわからないが、一応葵は安葉に指示をだす。全く、どうでもいい人の親のことを気にするくらいなら、少しは鍛錬をつめば良かろうに。


「戦ってくれそうなのは、八班の一人だけか。なかなか大変ね」


 怜香がひとつ息をつく。ヴァルキリーは何事もなかったかのように、怜香の横に涼しい顔をして浮かんでいた。


「海坊主か。牛鬼でなかっただけまだマシだが」

「しっかし大きい妖怪や、威圧感半端ないでこれは」

「ああ。ただ、今回の本命は牛鬼だ。かまっている時間が惜しい。倒すより、できるだけ早く海域から追い払うぞ。大和、接近戦に持ち込め。昆の味を覚えれば、自然と嫌気がさすだろう」

「よっしゃー」

「空中部隊は怜香と、合流する第八班で追い払う。牛鬼との最終対決に集中できるよう、つゆ払いだ」


 そこまで言って葵がふっと後方を見ると、水しぶきをあげながら、二つの影が接近してきた。一つは葵たちの前でぴたりと止まった。肉のついたでっぷりした背中から見て、安葉に間違いない。もう一つの影は速やかにモー・ショボーたちに接近していく。


 視界確保のためか、ヘルメットを外した色黒の細身な少年が空中を舞う。彼が声をあげた。


「ルサールカ!」


 声と同時に、黒い水面がざわりと波立ち、波の間からぬっと女たちが顔を出す。女たちの顔立ちは整っていたが、波間から無数の顔が出ているため、かえって不気味さが際だっていた。女たちは高い波を生み、それに乗ってモー・ショボーに近づいていく。海の色をした細い手を伸ばし、ぴたりと敵の体に張り付いた。


 モー・ショボーがうっとうしそうに体をふるわせると、彼女たちは泡となって水に戻っていく。が、しばらくたつとまた波の中から現れてまとわりつき始めた。怜香のヴァルキリーと同じで、彼女たちは生き物ではないのだろう。


 モー・ショボーたちの動きが鈍くなり、怜香は再び飛行部隊の掃討に力を注ぎ始めた。ようやく正気を取り戻した安葉が復帰し、気まずそうに怜香の周りを飛んでいる。大和はじりじりと海坊主との距離をつめ、葵はとばっちりを食わないようにひとり後方で待機していた。


「一尉も手伝ってよ」


 ルサールカを操っていた少年が、くるりと葵の方を向く。髪をざっくりとベリーショートにした、気の強そうな顔立ちだ。確か、名は森といったはずだ。


「リーダーは前に出るもんでしょー」

「俺病弱だから」


 森にとがめられたが、葵は顔の前でひらひらと手を振って追及をかわす。


「嘘のにおいがします」

「ほんとほんと」


 葵が気のこもらない言葉を流すと、うーと獣のようにうなられた。大和といいこいつといい、本能で真実を嗅ぎあてるタイプは妙にめんどくさい。


「ほんとですかあ。じゃ、僕行ってきますね」


 呆れたようにひとつため息をついて、森はあっと言う間に葵の目の前から消えていった。怜香と安葉が彼を追い、葵は一人で腕組みをする。さっきからなんとなく違和感を感じていた。大和たちとは違い、経験からくる勘である。


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