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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
異界からのシシャ
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死を覚悟してなお進め

「やられたな。偵察部隊はなにやってる」

『敵がこちらの無人偵察機を優先的に狙っている。今後も情報伝達の遅延は避けられない』

「レーダーでの探知は」

『終わっているが、奴らの動きが早い。あっと言う間に魚雷の射程外まで退避していく』

「向こうの射程が長いか……」

『船で無理に奴らを追って、隊列を乱せば同士討ちになりかねん。実際、衝突を回避した鑑同士の距離が開きすぎている。敵に近い方が集中砲火を受けてしまう』


 無線の音声をかき消すように、海の方からごうごうと牛に似た鳴き声が聞こえてきた。ただ、この声は牛よりもっと低くサイレンのように妙に長く響く。


 まさに今、恐れている事態が起ころうとしている。あおいは直感し、走る速度を精一杯あげた。先行していた怜香れいか大和やまとにようやく追い付き、海上の様子を双眼鏡越しにじっと見つめる。


 海上に護衛艦が浮かんでいる。そのうちの一隻が中央からもくもくと黒煙を上げていた。これはもう手の施しようがない、と葵は唇をかむ。


 瀕死の艦にとどめを刺すように、荒々しい吠え声が轟いた。海からざばりと白い波を上げて、巨大な牛の頭が姿を現す。蜘蛛のような長い前腕二本ががっちりと艦をとらえて固定する。


 漆黒の怪物が大きく口をあけ、巨大な牙で艦をばりばりと食い破った。厚い鋼でできた船の中心部が、柔らかい菓子のごとくはじけ飛び、海中に消えていく。


「一隻やられたで!」

「船員の避難はどうなってるの?」


 大和と怜香が、船を見ながら声をあげた。葵は船の様子を見て、おかしいなと顔をしかめた。重要な機関が集中している中心部をあっさりやられていたことも変だが、海上にボートもなく、ライフジャケットを着た隊員たちも浮いていない。


 ヘリで救出でもしたのだろうか?しかし、黒煙があれだけ上がっている状況では、やすやすと近づけたはずはない。


『いなづま大破、まもなく轟沈。牛鬼が至近距離に出現中。他艦は至急距離をとれ』

「司令部、いなづまはどうやって沈んだ? 乗組員はどうなった?」


 他艦に指示を飛ばしている最中の司令部に、口早に葵は聞いた。しばらく沈黙があったが、司令部から返事が来た。


『いなづまは、開戦から数十分の地点で無線に返答がなくなった。レーダーには確実に敵影が映っていたはずだが、いずれの攻撃手段もとらず。回避行動すらした形跡がない』

「ミサイルも機銃も撃ってない、避難もしない。どういうつもりなんだ?」


 葵は黒煙をあげる艦のやりたかったことが全く分からなかった。あれではただ黙って死を待つだけではないか。


「いまづまの乗組員はどうなった」

『退避した様子が全くみられない。残念だが、全員船の中で死んでいると考えるしかない』

「全滅だと……」


 葵は首をひねった。三百人を超える艦をまとめる船長が、屈強な船員たちが、全く何の抵抗もなく消息を絶つなどとということがあるのだろうか。最悪の予想がふっと頭をよぎり、葵は拳を握った。


「まさか、あいつが? 時期が違いすぎるが」

「あいつって誰?」


 怜香が怪訝そうな顔で聞いてくる。葵は怜香と大和にぼそりと言い放った。


「今回の作戦、下手すると俺も死ぬかもしれない。その場合、生き残っていたら即時離脱しろ」

「ええ? ど、どういうことよ」

「ま、そん時は怜香ちゃん連れて逃げたるわ。しかし、お前にしちゃしょぼいこと言うやんか」


 怜香はうろたえたが、大和はけらけらと笑って葵をからかう。しかし、葵は何も言い返さずに、固い表情で自分の携帯をいじっていた。


しゅう兄貴、いるか?」


 無線がしきりに先行部隊に合流しろとせっつく中、葵はたっぷり十数分かけて携帯で兄と話をしていた。怜香と大和はお互いに顔を見合せながら、葵の行動を見守っていた。






 葵の電話がようやく終わり、だだっ広いコンクリートの広場をようやく抜ける。ごつい銃器を抱えた一般隊員たちに混じって、ヘルメットをつけたままべったりと地面に倒れ込んでいる少女がいた。


「交代だ」


 葵は平べったくなっている少女に声をかける。返事をするのもめんどくさい、といった表情で少女はわずかに顔を上げた。やっとといった感じでだるそうにヘルメットを外し、葵の顔を見る。


 茶色がかった髪をばっさりとショートカットにしていたが、前髪の中から覗く二重の目が大きく、まつ毛も長いので男性らしい感じはない。運動部が似合いそうなさわやかな見た目をしていた。


「こ、交代かな?」

「だいぶ消耗させたな。しばらく休め。所属と階級は?」

「七班所属の、小兎こと三尉だよ、いえ、です」


 同じくらいの年の葵を見て、小兎の口から素の言葉が漏れた。慌てて訂正するが、彼女はしばらくばつが悪そうにしていた。葵は話をそらすように、無線で司令部に呼びかける。


「七、八班残り何人だ」

『七班残り二名、八班残り三名未だ交戦中。当該エリアまで至急移動せよ。なお、飛行装置の使用は実戦まで控えるように』


 最近、より自由に戦闘を行うため、個人の足に取り付ける小型飛行装置が実装されていた。しかしまだ完成品とはほど遠く、浮いていられるのは最大三時間ほど。少しでもバッテリーの消耗を避けるために、航空機での移動を指示された。


 葵たちは前方にとまっていた戦闘用ヘリにばたばたと乗り込み、飛び立った。ヘリはあっと言う間に海上を進み、まもなく眼下に三体の巨大な黒い物体を認める。牛鬼か、と葵が目をこらした時、ひゅうん、とヘリの外を何かがかすめる音がする。


「ヴァルキリー、行ってきなさい」


 音を聞きつけた怜香が、すかさずデバイスを作動させた。銀色の乙女が窓の外にふわりと長い髪を揺らして現れたのが見える。彼女の長槍に、早速小型の妖怪がひっかかった。七、八歳くらいの黒髪の少女が、腹を銀槍で貫かれて苦悶の声をあげている。


「お、女の子やんけ」


 怜香の槍に刺さった妖怪の姿を見て、大和が動揺する。葵は大和の足を踏んで落ちつかせた。


「良く見ろ、モー・ショボーだ。天逆毎あまのざこが連れてきたんだろうが、遠い所からご苦労なことで」


 ヴァルキリーがぐいと槍をひねると、美しかった少女の顔が豹変した。顔の中央にみるみる大きな鳥のくちばしが現れ、人間らしかった風貌が一気に鳥の頭へ変貌する。グロテスクなその姿のまま、死骸は海へ落ちて行った。


「お前みたいに油断して男が近づいてきたら、あの嘴で脳をすするんだそうだ」

「げえ」


 大和が顔を青くして吐くしぐさをしてみせた。もう騙されへん、と言いながらきつく昆を握りしめている。


「昆の射程内に入ったら俺の出番やで。男の純情をもて遊ぶ奴は俺が相手したる」


 大和が屈伸をしながら、モー・ショボーたちをねめつける。支給品のブーツにはまった飛行装置のスイッチをいじり回すので、葵は叱ってやめさせた。


「噴射部が壊れたらどうする。いじくり回すな」

「壊れへんて。俺、運ええから」

「この場でお前をブッ壊してやりたい気分になった。……指揮官なのが残念だ」


 葵が真顔で銃口を向ける。大和は葵が撃てないと分かっているので、へえ、やれるもんならやってみと軽口をたたいた。


「……一尉、敵集団の後ろに回り込みますか」


 険悪な雰囲気の中、ヘリの操縦手が声をかけてくる。葵は大和に向かって銃を構えたまま、彼に指示を出す。


「ヘリA号、敵後方に回り込み、デバイス部隊を下ろせ。その後いせまで撤退、指示を待て」

「了解」


 はきはきとした声がした。葵は満足し、無線でデバイス部隊に話しかける。


「第三班飛行装置使用、デバイスを敵の後方へたたき込む。第七班、八班、同行できるものはいるか」

『こちら第七班、残り一名になってしまいました。急ぎそちらに合流します』

『第八班、一人疲労で離脱、一人重傷。僕はいけます』

「了解」


 無線のおかげで、作戦参加の人数はわかった。葵があれこれ考えていると、今度は沖に出ている艦の方から無線が入る。


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