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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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首が飛んでも死にはせぬ

 あおいの目の前で、八本の光が根本からかくんと折れ曲がり、太い一本の柱を形成する。


「読み通りだな」


 葵は息を吐き、胸をなで下ろす。


 光線を通してから内部で結束させれば、威力を増したまま内部を攻撃できる。壁の作り主である地縮じちじみの本体はさして頑丈ではない。地縮を討てれば、強固な壁も崩れるはずだ。


「さて、目標に当たるかな」


 ひびきのカメラ映像から、鈴華で結界を作っている地縮の位置を特定することができた。彼らは壁の近くにどっしりと根を張っていた。地縮は自分たちの体から遠く離れた場所に結界を張ることはできないのだ。


 それならば、立塚たちつかでも地縮たちのいる場所は壁付近のはずだ。葵は固唾かたずをのみ、レーザーが動いていくのを見つめた。


 次の瞬間、今まで不敵な表情をさらしていた漆黒の壁に、ぐんにゃりと小さな穴があいた。葵の横で、いわおが大きく拳を突き上げる。


「いけるぞ。そのまま目標を片っ端から始末しろ!」


 葵が無線で指示を飛ばす。光束はそのまま角度を変え、壁の内部、その一番外側をくまなく焼き払っていく。しかし、爆発もしなければ派手な破壊音もない。それはあまりに静かな開戦の合図だった。


 壁が崩れる。中心部分はまだ健在だが、下部分には車両が十分通れるだけの大穴があいていた。


「一班、全車両あの穴からつっこめ!」


 葵が運転手に向かって指示をとばす。車体がうなり声をあげ、地面をかき乱しながら一直線に壁内部へつき進んでいった。


 壁を抜けた瞬間、目の前に火柱があがる。よける余裕もなく、車体はその灼熱地獄へ飛び込んでいった。防火加工が幸いし、車体にダメージはない。そのままブレーキもかけずに校庭へなだれこみ、くるくるとスピンしながらようやく止まった。


「じじい、鷹司たかつかさの。降りるぞ!」


 葵が先導し、隼人はやとがうなずく。続いて巌が全く年を感じさせない動きで立ち上がった。葵と隼人、続いて巌が車体から飛び降りる。三人に続き、あわてて腰を浮かせようとする一般兵たちに葵は「座ってろ!」と声をかける。


「デバイス持ってない人が飛び出したら死ぬよ。指示があるまでここから出ないで」


 隼人がそういい、ばたんと強引に車のドアを閉めた。それから隼人は黒い装甲車のありとあらゆるところに赤い札がべたべた張り付ける。酩酊したみみずが這ったような字だったが、かろうじて「火気厳禁」と読めた。


 車から出てきた三人を、また火柱が襲う。車に一通り貼り終わった隼人が懐に手を入れ、新たな札を取り出すのを葵は見た。素早い動きだ。


 しかし、それよりも早く葵の横を駆け抜けていく物体があった。


「じじい!」


 葵が叫ぶのとほぼ同時に、巌は飛んできた火の玉を両の手でぐいとつかんだ。実体がないはずの火の玉が、獲物の思わぬ反撃にたじろいだようにじたばたと揺れる。


 飛んできたのは単なる火の玉ではなかった。全身にびっしり生えた毛に、もれなく炎をまとわりつかせた犬ほどの大きさの獣が、こちらに狙いを定めて突進してきていたのだ。


「これは……私もまだ甘い目をしているようです」


 隼人が驚く。さっきと同じ火の術だと思っていたら、全員牙で傷を負わされていただろう。


「はめててよかった安全手袋」

「だから言ったろ」

「うん。偉いぞ孫よ」


 軽口を交わしながら、巌はぼきりと獲物の脊椎をへし折る。それから、動かなくなった火の玉を物陰へ思い切り投げ飛ばした。


「準備運動は済んだか」

「もっと骨があるのを呼んで来い」

「じゃあやるか」


 葵がくんと指先を動かすと、地をぞろぞろ這っていた糸たちが一斉に踊り出す。蛇のようにかま首をもたげ、目標をからめ取った。


「け!」


 奇妙な声をあげながら、物陰からずるりと糸にひっかかった個体が引きずり出される。それは白い着物姿の、若い娘だった。最初から容赦なく首を狙い、さらに引きずったため、何重にも糸が巻き付いた首は本来曲がる角度を大幅に越え、ほぼ直角になっていた。


「人質か?」

「バカ言え」


 葵のその言葉を裏付けるように、首が直角に曲がったまま女はけたけたと笑い出した。葵は糸の拘束を強めるが、女は今度は葵の糸を烈火の炎で包み込む。


 糸はあっという間に焼き尽くされ、炎の中から女が飛び出て来るのが見えた。


「危ない!」


 今度は隼人の札が宙を舞った。瞬く間につむじ風が舞い上がり、火がその方向を変える。その風は鎌鼬となって娘の体を切り刻み、一直線にすぱんと首を落とした。


 しかし、その飛ばされた首がそのまま空中でけたりけたりと笑いだした。血も流れぬまま、女の手が器用にその首をつかみ取る。


「これは少し手こずるかもしれません」


隼人が顔をしかめた。

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