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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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作戦、開始!!

「やあ、お疲れお疲れ」


 隼人はやとはそんなあおいとは正反対にやたら元気である。大和やまととは違うが、この人も自分が苦手なタイプだと葵は顔をしかめた。


「本当に疲れましたよ」

「でもイヤじゃないだろう」

「……」


「君、自分に都合が悪くなると黙るのはよしたまえ」

「クセでつい」


 サトリのような隼人に舌打ちをしつつ、葵は鍛錬場に降り立つ。トラックに乗り込んでいく隊員たちを見守った。みな葵の姿を認めると、にっこり笑いながら敬礼をしてくる。葵も笑顔は返せなかったが、一人一人に敬礼をした。葵たちが最後にのりこむと、車両は一斉に動き始める。


「しかし、こんなに大がかりに車両を移動させて相手に気づかれないのかな」


 葵と一緒の車両に乗っていた、若い機動隊員がぽつりとそうつぶやく。


「もうバレてるだろうな」


 葵が返事をしてやると、彼は飛び上がって背筋を伸ばした。


「だろうね。本部の上空に、飛べる種族を数体張り付けておけば観察なんてたやすいから。ヘリと違って目立たなくてうらやましい」


 隼人が腕組みをしながらつぶやいた。


「現場に着いてからの早さがものを言うな。なんだかんだ言っても、奴らは壁の中にいるから最初は安心してるだろう。その隙を生かしきれるかが鍵だな。……最悪のパターンは、天逆毎とはち合わせることだが」

「一瞬で百里を駆け、大岩も軽々と投げ飛ばす怪力の持ち主。できたら戦いたくないのう」


「賢いやつだから、全体の勢いが負けに傾いてきたら撤退するだろうがな。そもそも気まぐれで、ずっと闘う気でいるかどうかも分からん」

「さあ、どう出るかなあ」


 うーん、と一行が考えこんだところで髭面ひげづらの班長がやおら立ち上がり、ぼんと目の前に置いてあったコンテナに手をかけて揺さぶった。


「な、なにをする」

「おかしいと思ってたが、さっきの会話ではっきりした。やっぱりこの中何かいるぞ!」


 確かに彼の言う通り、鋼鉄のコンテナの中から老人の声がする。


「横暴ー! 殿、ご乱心ー」

「開けろー、工具持ってこい」


 戦闘が始まっていないのに、車内がにわかに騒がしくなった。葵だけがのんびりとあぐらをかきながら、コンテナを指ではじいている。


「じじい。もう出てきていいぞ」

「なんだ」


 がっかりした声がコンテナの内部から響き、ぱかりと蓋が開いた。中からのそりと現れた老人の顔を、軍隊経験者はぽかんと口をあけて見つめる。


「わ、わ」

「いつの間に」

「じじい一匹涌いたくらいでうろたえるな」


 パニックになりそうな車内をじろりとひと睨みして黙らせてから、葵は自分の祖父の肩を叩いた。いわおは大きく伸びをしてから、自分を発見した班長ににじり寄る。


「ね、これうちの孫。ひどくない? 人をボーフラみたいに言うの」

「な、なんで。編成にはいらっしゃいませんでしたよね?」


 しどろもどろになりながらも、班長は巌に問いかける。


「孫が心配でこっそり来ちゃった」

「貴方もう退官されてますよ! 無理でしょ」

「だってしょーがないじゃろ。天逆毎がでてきた場合、サシでやれそうなの儂しかいないし」

「それはそうなんですが、一体どうやって」


 首をひねる班長に、葵は資料の束を差し出した。ぶちぶち言いながらも、班長は反射的に紙束を手にする。


「これは、装備の一覧? 拳銃、短機関銃、自動小銃、散弾銃、狙撃銃、ライト、閃光弾……一尉。最後に聞き慣れない単語が」

「最新型攻城兵器IW―Oのことか」


「……ひょっとして、装備として申請しました?」

「人間枠には押しこめないんだから仕方ないだろ。そもそも人類にしとくのがおかしいスペックなんだからそれでよし。ちょっと小さい人型兵器(ガ○ダム)だと思え」


 班長は腕を組んだまま何も言わなくなった。巌はそんな班長の心中を知ってか知らずか、機動隊員用のジェラルミン盾を両手持ちして遊んでいた。


「じじい、こっちで良かったのか。みやこが待ってるぞ」

「……ああ。だが、危ないのはこっちじゃろ? 都ならきっと大丈夫じゃ」

「強がりやがって」


 葵は鼻を鳴らしたが、慰めるように巌の背中をなでた。


「姉貴と怜香れいか一丞いちじょうがいる。秘密兵器もある。帰ってくるさ」

「うん」


 珍しく子供のように巌が頷く。しばらく空を見つめていたが、ばしんと手で己の顔をはたいた。再び顔を上げた時には、もう巌の瞳に迷いはなかった。


「見えたぞ」


 葵は声をあげた。数十メートル先に、立塚たちつかの校門が見える。直接対決を目前に、ぴたりと装甲車が止まった。


「よし、ここで止めろ。じじい、勝手に装備脱ぐな! 手袋しろ、靴!靴!」


 軍服が暑いきついと文句を言い出す老体を、葵がなだめてようやく座らせる。


「作戦開始。全員ぬかるなよ」


 葵が最後の発破をかけると、はいと野太い声が車内に響いた。


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