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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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嘘で頭は下げられぬ

「確かにお二人とも戦闘向きな能力をお持ちですがね」

「面倒がお嫌いなら、力を尽くしなさい。君になら、それは可能だと私は思いますよ」


 二人はどうあっても引く気はないようだ。あおいはあきらめて腹をくくった。


「わかりました。鷹司たかつかさ一尉は私と一緒に立塚に来てください。御神楽みかぐら二尉は霧島きりしまに同行して頂きます」

「それでええのか」

「あくまで能力で決めました。妙な感傷ははさんでおりませんのでご安心を」


 葵が言い切ると、和泉いずみは納得したように頷いた。霧島と一緒にせかせかと該当メンバーのところへ駆けて行く。


 葵のそばには、妙ににこにこしている隼人はやとだけが残された。なんとなくやりにくさを感じながら、葵は残りのメンバーを集めてミーティングを始めた。


 日はすでに落ちかけている。ぐずぐずしていると、相手が指定してきた時刻をすぎてしまうため、全員立ったままで短いミーティングを行った。突入口の確認、人質誘導の手順、室内で戦闘になった場合の制圧手段の打ち合わせ。さすがに全員戦闘慣れしているため、十五分ほどで情報がくまなく行き渡った。


「さて。こちらはこれでいいとして、一般部隊の振り分けがやっかいだな」


 葵はいつもの話し方に戻ってつぶやいた。敬語は肩がこるから、私も崩していいかなと隼人が言う。


「どうぞ。振り分けについて何かご意見は?」

「ありがとう。……そうだな、問題は士気だね」


 隼人はまるで怜香れいかのようにごく自然に話す。葵は黙って頭を縦に振った。


 マスコミによって、すでに情報はばらまかれた後だった。多くの一般家庭出身の兵士や警察隊員たちが、葵の会見ひとつでどれだけこちらを信用してくれたかは分からない。しかし、懇切丁寧こんせつていねいに事情を説明している時間の余裕はすでになかった。


「どうするの」

「いざとなったらあんたの名前を出す」

「おやおや」


 葵は本気で言ったのだが、隼人はそれを聞いて笑った。そして葵を置いていきなり歩き出す。しゃなりしゃなりと優雅に歩くくせにそのスピードは速い。怜香をいつも追い越してしまう葵と並び、同じペースで歩いている。


「立ってるものは犬でも使う。呪うなら、こんな殺伐とした部隊に飛び込んできた自分を呪え」

「ははは、面白いことを言う」


 葵の返答が面白かったのか、隼人は歩きながら笑った。


「三千院一尉。この扉の先にみなさんお待ちのようだ」


 隼人が大きなシャッターをぱちぱち叩いた。開閉を担当しているらしい若い兵が露骨に嫌そうな顔をしたが、彼は鼻にもひっかけなかった。


 葵の記憶では、この先は外の修練場につながっている。ずらりと並んだ隊員たちがじっとりとこちらを睨んでいる絵を想像して、葵は大きく呼吸した。


 怖くはない。なにを言われようが受け止めてやる。これからずっと、歩む道なのだから。


「肩に力が入っているよ。君、感情がないわけじゃないんだね」


 葵の姿を見て、傍らの隼人が笑う。後からぱたぱたと足音がする。葵と隼人以外のデバイス使い全員がシャッターの前にそろった。確認した若い兵がボタンを押すと、がらがらとやかましい音をたてて鋼鉄の帯が巻きあがっていった。


 葵は外の暗がりに目をこらす。本部内から漏れてくる光が、ずらりと整列している隊員たちの横顔を照らし出した。


 怯えも不信もない。ただ任務に対する静かな情熱を秘めたように、どの隊員も引き締まった顔をしていた。思ったより、落ち着いていると一同を観察した葵は思った。


「おおい、みんな。三千院一尉のご到着だよ」


 葵がどう話しかけたものかと首をひねっていると、隼人が突然大きな声で部下たちに向かって呼びかけた。俳優のような伸びのある声は、屋外にでても不思議なくらいよく通った。その声につられ、直立していた一同がずらりとこちらを向く。


 逆光になっているから、葵の姿はよく見えていないはずだ。それでも全員、びしりとこちらを向いて敬礼をしていた。


 葵はわずかに口をあけた。まだ状況がよくわからないまま、近くで横一列に並んでいる各班の班長たちのもとへ近づいていく。


「一尉」

「待たせてすまん」


 自分も敬礼をしながら葵は班長たちに挨拶をした。ここに整列している班長たちの位は最高でも准尉だが、歴戦のベテランが並んでいるおかげで体格は葵とは比べものにならないほどよかった。警察の特殊部隊のものたちも、負けず劣らずで、防弾チョッキの横から太い腕がぞろぞろ生えている。


「……迷惑かけたな」

「いえ、一尉」


 そこで胸がつまったように、班長たちは言葉を打ちきった。しばし迷ったように沈黙した後、葵の目をまっすぐ見つめ、礼をする。 


「ありがとうございました」


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