貴人の助っ人
重大機密の保管庫にふさわしく、軽く見積もって数センチはある鋼鉄の扉は、指紋認証や暗証番号など数々のロックを解除した後でないと開かない。しかも、開閉に成功したとしても上部に設置されたカメラが人相を記録するのでどっちみち入ったことはわかってしまう。
いったいどうやって、とまだつぶやき続ける部下を後目に、葵は室内へ踏み込んだ。前回作戦をともにした霧島・瀬島はじめ、男女入り乱れた集団が、指紋認証をすませて自分のデバイスを着用しているところだった。
「霧島」
「はい」
葵が呼ぶと、ベテランらしく、素早く身支度を整えた霧島がすたすたとこちらに歩いてきた。
「俺は立塚に行く。おまえに鈴華の指揮を任せる」
「はい。人員はどうなさいます」
「瀬島と大石と長谷川をつれていってもらおうかと思っている」
霧島に指示をしていると、ふと葵の目に、二人の青年の姿が飛び込んできた。二人とも一番奥の壁付近にたたずんでいる。
一人はすらりと背が高く、銀縁の眼鏡の奥からじっと周りの様子を観察している。年は瀬島より少し上、大学生くらいだろうか。全員がフル装備の中、彼だけ左腕のプロテクターを外していた。
もう一人は、小柄な男だった。すでに全身に装備を着け、準備万端な様子だ。一重で切れ長の目が、にこにこと笑っていた。
皆があぐらをかいたり、壁によりかかって話をしている中、二人は上から吊られたようにすっきりと立っているのでひどく目立っている。背筋は伸びているのに緊張感はみじんもないところから、小さいときからきちんと躾られたのだろうなと葵は思った。
「なんでも、京都と大阪の方から視察にこられていた方らしいのです。事態を聞きつけて、自分から参加したいと申し出てくださったとか」
二人に見入っている葵を見て、霧島が言う。
「ほう」
基本軍隊でも警察でも縄張り意識というものはあり、他支部の管轄事件には首をつっこみたがらないのがふつうである。変わった奴もいるものだ、と思いながら葵は男たちに近づく。
「このたびは参加を申し出てくださったようで。ご協力ありがとうございます」
「いえ。非戦闘員が人質にとられていると聞いて黙ってはおれません」
小柄な男はさわやかな声でそう言った。声だけでも霧島がうっとりしている。さぞかしモテることだろう。大和が会ったらきっと発狂するだろうと葵は意地悪く考えた。
「申し訳ありませんが、貴方がたのデータを拝見いたします」
「ああ、責任者の方が来たら見せるよう言われていましたね。三千院一尉、こちらをどうぞ」
青年はそういいながら、首もとのドッグタグを外して葵に差し出す。彼の背後に立っていた眼鏡の青年も、無言でタグを差し出した。葵は部下から小型端末を受け取り、タグの裏に刻まれた小型のバーコードを読みとった。
「……鷹司隼人、御神楽和泉」
「驚かれましたか。あまり大きな声を出さないよう願いますよ」
小型端末が表示してきた二人の名を読みとり、葵がしばし対応に困っていると、隼人の方から声をかけてきた。
「通常でしたら、あまり差し出がましいことはしないのですがね。あなたがテレビカメラの前で、あまりにも大きな見栄を切りなさるものだから、ちょっとこれはお助けせねばと思ったわけです。私にも多少は野次馬根性というのはあるのですよ」
「高くつくかもしれませんよ」
葵が言うと、隼人はけらけらと笑った。
「戦場に立つ以上、それは覚悟の上です。それは和泉も同じでしょう」
「しかし、やんごとなきお出の方だ。周りの方々をよく説得なさいましたね」
「本家ではありませんから。それに、もうこういう性分だとあきらめてくれているようです。この境地に至るまで十数年かかりましたが」
隼人はしれっと言うが、周りの従者はさぞや苦労していることだろうと葵は思った。
「結構です。ではお二人とも鈴華に」
「余計な配慮はしないでいただきたいものですね」
葵の申し出を、隼人は今までとうってかわった厳しい口調でぴしりとはねつけた。
「私の生まれで安全な方に押しやられては困ります。和泉、君もそうでしょう」
「せやな」
和泉がぽつりと口を開く。葵は内心を見透かされたようでいやな気持ちになった。実際、政治的にもめるのが面倒で二人を鈴華担当にしていたからだ。




