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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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怖いのは人か妖か

「いった……」

「ふざけてる場合じゃない」


 今までいつもとろんとしていた響の目が、いつになく真剣な光を帯びている。大和はじっと彼女の目を見返した。響がぐい、と大和の上着を引っ張ってくる。自然とかがむ体勢になった大和の耳に、響が顔を近づけてきた。


「人質、殺された」


 響は外で起こったことを二言で表現した。大和は叫び出したかったが、響が首を横に振るのを見て驚きの声を我慢した。


「何人や」


 あまり顔をつきあわせてこそこそやっていると怪しまれるため、二人は正面を向いて小声で会話を続ける。


「まだ数が不明。それくらい多い」

「くっそ、俺が同じ敷地内におりながら」

「死んだのはここじゃない」


 大和は首を軽く曲げた。響はそれをみてさらに言葉を続け、立塚がここと同じ状況だったことを大和に伝えた。


「こっちはどないや」

「鈴華はまだ一人も死んでない。それが問題。軍は金持ちは生き、貧乏人は死ねと言っている。奴らは多くの人にそう思わせたいの」


 周りの生徒たちが起きだしてきたため、ホール内がざわつく。それにまぎれて響がぼそぼそとことの次第を説明する。事態の深刻さに大和はせわしなく貧乏ゆすりをした。響もそれに合わせ、手の指をくんだりほどいたりしている。


「せやかて、人間側が奴らが言うほど露骨なことをやったとは思われへんけどな」


 今の首相はあかんたれやからなあ、と言いながら、大和は彼の顔を思い浮かべた。垂れ下がった目尻や眉毛の印象通り、現首相はばりばりの鳩派である。とても、人質のいる状況で誘拐犯の要求を蹴るようには見えない。


「そう。私も、やってないと思う。嘘をついてるのは妖怪の方。でも、こういう場合は真実はさほど関係ない」

「え?」


 本当のことを言えば、大和は事態はすぐ解決するだろうと思っていた。大和は驚いて思わず響の顔をまじまじと見つめた。


「心の準備はしておいた方がいい。どういう結果になるか、わからない」


 響はそう言って、くあ、と大きなあくびを一つする。そのまま、また死んだように動かなくなった。大和は話し続けたかったが、彼女はこれ以上なにもする気はないようだった。





「総理はこの事態をうけ『現在情報が十分でないため、詳しい発言は差し控える』とコメントしています」


 予想通りの対応に、葵の背後から一斉にため息がもれた。深夜の唐突な発表からすでに五時間が経過していたが、今までやったことと言えば、偵察用にヘリを飛ばしたくらい。肝心な決断は、なに一つされぬまま朝を迎えるという最悪の事態になっていた。


「いつまでこれで引っ張る気でしょうね」

「さあな」


「これでいいと思ってるんでしょうか」

「いいとは思ってないさ。ただ、ほかのやり方を知らんのだろ」


 テレビの画面は、立塚の光景を延々写している。ヘリがさっきよりも高度を下げていたが、真っ黒に焦げた木や、積み木のように崩されたブロック塀、あとは校舎がうつるばかりだった。


「死体が写りませんね」

「そりゃ無理だろ」


 ぼやく部下に向かって、葵はぽいと手元にあった写真を放り投げる。


「偵察に出たヘリがとってきた画像だがな」


 葵がしまいまで言わないうちに、死体を見慣れているはずの部下の顔が青くなった。


「……これは、とてもじゃないけど放送は無理ですね」

「奴らにしたら大々的に放送してほしかったかもしれんがな。さすがのマスコミもこれは流さんだろ。ただ、ネットはどうだろな」


 葵はそう言いながら、せわしなくサイトを見回っている数人の男たちに目をやった。


「一尉。さっきの画像に匹敵するくらい、えげつない画像がネットに大量に流れてます」


 男たちは、複数のウィンドウで開かれたサイトを順番に表示していく。サイトはいずれも黒ベースの背景に、白いドクロや赤文字が大きく踊る不気味なつくりになっていた。


 そのいずれにも、写真の展示コーナーがもうけられている。今までの更新は大概が犬猫の虐待画像だったが、今日更新された内容はいずれも、複数の人間が焼け焦げたり、内蔵をぶちまけたりといった、普通の状況では素人には撮影不可能なしろものだった。


「なんだこりゃ……」

「これは今朝の立塚の犠牲者たちだな。ほら、このスカートの白ライン三本と、杉の校章は立塚の制服」


 部下にまぎれて、葵も画面をのぞき込みながら解説する。


「素人が入り込んで撮ってきたってのか。そんなバカな」

「最近は誰でもカメラを携帯してる。そして、ネットの世界じゃ少しでも目立ちたくてうずうずしてる人間なんて掃いて捨てるほどいるぞ」


 一時の閲覧数と人気ほしさに、自分の事故画像まであげる人間がいるくらいだ。他人の不幸くらい、彼らにとってはどうということもないのだろう。


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