表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/268

翌日は雨

 昼食の後、さらに食料品などを回って買い物を済ませると、駐車場の車のところまで戻った。

「さあて帰るか……あれ?」

 みんな乗り込んで、敏行がキーをひねってエンジンを掛けようとしたところ、どうも掛かりが悪い。

「どうしたの?」

「いや、最近どうも調子悪いな。エンジンが掛かりにくい」

「大丈夫なの?」

「まあ――この間もだったが、バッテリーは問題ないし、セルかな?……また修理屋に見せんといかんな」

「修理って、またお金がかかるの?」

「そりゃあな、古い車に乗ってりゃしょうがない話だ。やっぱりそろそろ買い替えだな」

「買い替えって、もっとお金がかかるんじゃないの?」

「そうだが、運転中に故障して事故になったら大変だろう。仕事も安定して儲かってきたし、来年の車検はやっぱりやめて車を買い換えよう」

「うぅん、でもねえ……」

 真知子はやっぱり煮え切らない。ただ、「事故」という言葉を聞いて、買い替えの方向に傾きつつあるようだ。

「お父さん、車買うの?」後部座席の涼子が言った。

「うん? ああ、そうだな。来年の春頃には……なあ、母さん」

 敏行は、助手席の妻の顔をチラリと覗いて表情が緩んだ。

「ま、まあそうね。お父さんがそう言うなら――」

「わあ、楽しみ! どんな車にするの?」

「ははは、それはこれから考えることだ」

 と言いつつ、敏行の考えは決まっている。

「まあ、ともかく帰ってからじっくり考えようか」

 藤崎家のちょっと調子の悪い軽自動車は、家族を乗せてのんびり帰路についていく。



「セキシャ! うちゅうけいじ、シャリバン!」

 翔太はシャリバンの真似をして得意になっている。そんな翔太の背後にそっと近づく涼子。

「それ、シャリバンクラッシュ!」

 涼子はそんな翔太に向かって、孫の手で軽く頭を叩いた。

「もうっ! ぼくがシャリバンなのに、お姉ちゃんがやったらだめ!」

「いいじゃん、私だってシャリバンやりたいし」

「お姉ちゃんはギャバンにして!」

 翔太は涼子に、シャリバンは自分がするから、ギャバンにしろという。勝手なもんだ、と涼子は呆れる。

 宇宙刑事シャリバンは、この昭和五十八年の三月から放送している、前作「宇宙刑事ギャバン」の「メタルヒーローシリーズ」の第二弾の特撮番組。

 基本的なスタイルはギャバンを周到しており、必殺の武器も同じレーザーブレードである。ギャバンの「蒸着」が「赤射」になるなど名前を変えているものの、根本的には似たようなものも多い。

 翔太はこのシャリバンが特にお気に入りだった。ギャバンはメタルといいつつ光沢のないマットな質感のスーツだったが、このシャリバンはキラキラと輝く赤い光沢のある派手なスーツの出で立ちだ。

 翔太はアニメのヒーローも見るが、やはりこういう特撮ヒーローが大好きなようである。

「――涼子、翔太、ご飯よ」

 部屋の外から真知子の声が聞こえた。

「はぁい。翔太、ご飯だよ。行こ」

「うん――モトシャリアン! トォ!」

 翔太は、モトシャリアンに跨るシャリバンの真似をしたまま部屋を出ると、姉の横を追い越して居間の方に走っていった。

「待ちなさいよ、翔太!」

 涼子も後を追って走った。

「こらっ、走らないの!」

 すぐ後に、母の叱る声が家に響いた。



 翌日、涼子はラジオ体操に行くために早起きする。起きると、隣の翔太はまだ寝ていて、翔太の向こう側で敏行もまだ寝ていた。反対に寝ていた真知子はすでに起きていて、台所からかすかな朝の音が聞こえていた。朝食を作っているのだろう。

 どうやら雨が降っているようで、ザアザアという大きな音が部屋の中にも聞こえてくる。かなり降っているようだ。

 涼子は窓の側に行くと外の様子を確かめた。土砂降りとまではいかないものの、結構降っている。しばらく眺めてみるが収まる様子はない。寝室を出て台所にやってくると、涼子用の小さな茶碗に白いご飯をよそいでいる。

「お母さん、おはよう」

「おはよう。涼子、ご飯を居間に持っていって。こぼさないように気をつけてね」

「うん。……お母さん、雨降っているよ。ラジオ体操どうするんだろう?」

「どうするも、これだけ降ったら中止でしょ。外なんだからできないわよ」

「えぇ、でも裕美に帽子見せるつもりなのに」

 昨日、買ってもらうことを喋っており、裕美は羨ましそうにしていたのだ。今日のラジオ体操に被っていって、見せるという話をしていた。

「別に今日でなくてもいいでしょ。明日、雨が降ってなかったら裕美ちゃんに見せてあげたらいいでしょ」

「でも、裕美は明日から叔父さんの家に遊びに行くっていってたんだよ。一週間くらい会えないんだから」

 一週間も経ったら忘れてしまうかもしれない。せっかく自慢できたのに、なんというタイミングの悪さだ、と嘆いた。

「しょうがないでしょ。みんな事情があるんだから、我慢しなさい」

「もしかしたら、雨でもラジオ体操やるかもしれないよ」

「馬鹿なこと言わないの。こんな雨の中でやるもんですか。風邪を引いたらどうするの」

「でも屋根のあるところで……」

「去年も中止だった時があったじゃないの。いいから、ご飯持っていきなさい!」

「……はぁい」

 真知子のカミナリが落ちた。やむなく涼子と翔太の茶碗を持って居間に持っていく。

 居間に行くとテレビがついており、朝のニュースが流れている。ニュースは山陰地方の豪雨を報道していた。二、三日前から梅雨前線が南下し山陰地方で大雨が降った。この二日後の七月二十三日には激しい大雨で、特に島根県などで河川が氾濫、土砂崩れまで発生して大勢の死者が出ている。近県である、涼子の住む岡山県は「晴れの国」などと言われたりするが、結局降るときは降る。今日も一日止みそうにない。

「はぁ、どうして雨降るかなあ。間が悪いんだから」

 涼子はご飯をテーブルに置いて窓の外を眺めた。

「――ま、しょうがないか」

 ちなみに翌日は雨が止んで晴れたため、どうして昨日だけ! と朝起きて憤慨する涼子だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ