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中学生って

 隼人は友達と別れると涼子を探した。周辺を見回すと、友達一緒に歩いているのを見つけた。楽しそうに喋りながら歩いている。

「おい、涼子。どこに行くんだ?」

「え、何が? 裕美の家で遊ぶんだけど」

 さも当たり前のように答えた。帰路の途中にそういう話になったらしい。

「お前、昼前に買い物に行くんじゃなかったのか? 昼飯は天満屋で食べるとかって、来る途中言ってただろ」

「あっ、そうだった――でもまだ朝早いから大丈夫だよ。十時くらいに行くって言ってたし」

「てか、一度帰らなくていいのかよ。小母さん怒るんじゃねえか? まあ一応言ったからな」

「うん、じゃあね」

 隼人はそのまま帰って行った。それを見送った後、裕美が少し心配そうな顔で言った。

「ねえ、やっぱりお母さんに遊びに行くこと、言っておかないでいいの?」

「うぅん、大丈夫だと思うんだけどなあ」

 一日中遊ぶわけではないし、ちょっとくらい問題ないだろうと思ったが、前に行き先を言わずに遊びに行って、怒られたことを思い出した。

「ひと言言った方がいいよ。うちのお母さんだったら絶対に怒るし」

「そうだね……うん、やっぱりそうする。じゃあ、すぐ行くからね」

「うん、待ってる」

 一旦、裕美と別れて家に戻ることにした。


「隼人ぉ、待ってぇ!」

 涼子は走って、先に帰っていた隼人に追いついた。声をかけられて振り向く隼人。

「なんだ? 遊びに行ったんじゃないのかよ」

「やっぱりお母さんに言っておく」

「ほらみろ。絶対怒るぜ。まあ、夏休みだからって調子に乗って浮かれてるからだ」

「何よ、随分お兄さんぶって」

「ふん、俺も来年は中学生だからな。もうお前のようなチビとは違う」

「偉そうに。中学生になるくらいで」

 涼子は口を尖らせて抗議した。

「小学生とは違うんだよ。中学生というのはな」

 ――中学生か。自分が中学生になるのは、まだ当分先の話だけど……それでも五年もすれば中学か。それにしても、中学校入学と言えば確か昭和六十三年。これは、中一の三学期から昭和六十四年になる。平成元年でもあった。

 ――私にとって、中学一年生は、昭和の終わりと平成の始まりの時だった。この世界にて、その頃には一体どんな自分になっているだろうか?

「そういえば、洋子お姉ちゃんと一緒だね。いいじゃん。仲良く一緒に学校に行ったら」

「それはお断りだ。ま、俺はサッカー部に入るつもりだから、朝練で一緒は無理だろうがな」

「ふぅん、それじゃお姉ちゃん残念だろうね」

「残念なもんか。姉ちゃんも一緒になんか行きたくないだろ」

 隼人はそう言っているが、実は洋子は隼人と一緒に通学するのも悪くないと思っていた。ただ隼人は部活動をやるだろうし、自転車通学だし難しいかもしれないとも思った。

「そうかなあ。まあ、私も翔太とはあんまり一緒には行きたくないかも」

 しかし、二年後の四年生になったとき、翔太は小学一年生だ。多分というか、絶対に母から「翔太を連れて行きなさい」と言いつけられるのは間違いない。

「そうだろ。そういうもんだ」


 家に帰って真知子に、裕美と遊ぶ約束したから遊びに行くと伝えた。十時くらいには戻るとも言った。

「十一時にお買い物に行くんだから、ちゃんと帰ってくるのよ」

「うん!」

 涼子はすぐに裕美の家に向かった。


「わたしは来週、おじさんの家にとまりにいくのよ」

 裕美は嬉しそうに話した。二日後の土曜日は海水浴に行くとも言っていたし、裕美の夏休みはイベントが目白押しで忙しいようだ。

「ふぅん、叔父さんかぁ。そういえば、私は叔父さんの家には行ってないなあ」

 涼子は、盆と正月には必ず祖父母の家に行っているが、親戚の家には意外と行っていない。敏行の弟、藤崎哲也宅はそれほど遠くではないようにみえて、車で行くと三、四十分以上はかかる。真知子の兄、内村政志宅は、岡山県西部の倉敷市水島にある。こちらはさらに遠く、一時間以上はかかるのだ。年に一、二回程度しか尋ねていないが、今では敏行の仕事が忙しくて連れて行ってくれないというのもある。

「それでね、おじさんの家って三重なの。水ぞくかんにもつれて行ってくれるのよ」

 裕美が連れて行ってくれる水族館は、「鳥羽水族館」だ。昭和三十年に開館し、多くの人が訪れ全国第二位の来館者数だという。涼子も聞いたことがある水族館だ。しかし、前の世界においてすら行ったことはない。正直羨ましい。

「えぇ、いいなあ。私も水族館行きたいな」

「涼子もつれて行ってもらいなよ」

「私は渋川の水族館しか行ったことないからなあ。でも難しいかなあ」

 敏行の仕事が忙しいかどうかがまず問題だが、先週からずっと残業をしているので、おそらく難しいことが予想された。

「土曜日だったら、わたし海水よくにいくから、水ぞくかんも行くのよ。涼子も行けたらいいのにね」

「そうだね。だったらいいんだけど……」

 それからふたりは、最近の流行などについて楽しく雑談をした。裕美は最近、サンリオの「ゴロピカドン 」が特にお気に入りなようで、いくつかのグッズを見せてもらったりもした。

 「ゴロピカドン 」は、去年、昭和五十七年に登場したキャラクターで、数多くあるサンリオキャラクターのひとつだ。当時、高い人気を誇ったようだが、流石に現在も人気を維持するキティちゃんなどの看板キャラクターには及ばず、現在はグッズ展開を行っていない。サンリオはこういうキャラクターを数多く作りだしたが、いまでも人気と知名度を持ったキャラクターは、その一部のみである。

 話が弾みすぎて、十一時が近くなってようやく時間に気づいて慌てて帰る羽目になった。

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