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動き始める

「みっちゃん、一緒にやろ!」

「うん」

 加藤早苗と奥田美香はとても仲がいい。これは幼稚園の時からだそうだ。家も割合近いところに住んでおり、今も登下校は一緒だ。

「さなとみっちゃんはなかいいわねえ」

 奈々子は、早苗と美香が手を繋いで教室を出ていったのを見ていった。涼子たちと仲のよい、太田裕美と横山佳代もそれに同意した。

「そうだね。いつも一緒だし」

 早苗は明るい性格だが、美香はおとなしい性格だ。特に美香は早苗以外で、特に親しいと呼べる友達がいない。

 実は、早苗の方もそれほど友達は多くない。教室では、このふたりが何処となく孤立しているようにも見える。


 昼休み前の掃除の時間。

「あれ? 男子が……金子くんや及川くんは?」

 富岡絵美子は教室の中を見回して、そばにいた中村孝子に聞いた。

「及川くんは、さっきゴミをすてにいったよ。金子くんはしらないけど」

「もう、金子くんってすぐそうじサボるよね」

「だよね。いっつもムスッとしてさ」

「そうそう、それにちょっとこわいし」

 女子数人が掃除そっちのけで、芳樹が不在なのをいいことに批判し始めた。女子はこの種の話は大好きで、今に限らずよくやっている。涼子が雑巾掛け用のバケツの水を捨てて教室に戻ってくると、すかさず中村孝子が近づいてきて、話に加わるよう促した。

「ねえ、涼子も思うでしょ。金子くんってさあ」

「うぅん、まあねぇ。っていうか、その金子くんは?」

「そうそれ、そうなのよ。サボってるのよ、ぜったい!」

 長田澄子が言った。彼女は去年B組だった子で、今年はA組になり涼子の同級生になった。話好きな性格もあって友達が多く、スーミンと呼ばれている。

 そんなことを言っていると、担任の森田が教室に姿を表し、「そろそろ時間だから、早くしなさい」と言った。みんな私語を控えてすぐに片付けに取り掛かっている。


 昼休みに入ったあと、涼子はトイレから出てきたところで、向こうから悟が駆け寄ってきた。

「涼子ちゃん、今日一緒に遊べる?」

「うん。大丈夫だよ」

「この前に言ったこと覚えてる? 仲間を紹介するよ。それから、もう少ししたら起こる、今回の「因果」についてもね」

 数日前に言っていた、「因果」のことと仲間のことだ。いよいよ紹介してくれるらしい。

「因果、か……うん、わかった。それじゃあ、どこでするの?」

「射越のグラウンドはどう?」

「いいよ。じゃあ、帰ってから射越のグラウンドで」

 学校が終わった後の約束をして別れた。悟は昇降口の方へ向かったので、外で遊ぶのかもしれない。



 悟のいう「因果」のことは、すでに世界再生会議の方でも検討されていた。これを邪魔するためだ。

 彼らは前の世界で、この因果を邪魔する作戦を行ってはいない。それは、この「因果」は、涼子が男の子では関係ない出来事らしく、要するに必要なかったということのようだ。

 金子芳樹の自宅アパートの裏手に、とび職の会社の所有する道具置き場がある。建築足場材などの部材が所狭しとおかれている。この当時、建設用足場には、減ってきているものの、まだ足場丸太(10センチ前後くらいの直径の木材)も使われている。こういった丸太が敷地の片隅にたくさん立て掛けてあって、その内側は空間があって、屋根と壁のある小屋にも見えた。なので、子供達には格好の遊び場だった。いわゆる秘密基地と言うやつだ。もちろん見つかったら怒られるが、ここはただの置き場で、人のいる事務所は少し離れた場所にあった。要するにここには、頻繁には人は来ない訳である。そんなこともあり、そこが最近の芳樹たちの集合場所だった。

 板野明子が金子芳樹と田中秀夫に向かって話している。彼らは本部とは別れて行動している。そのため本部との連絡役が必要だが、それを板野章子が担当していた。

「奥田美香を私たちの陣営に迎える」

 それが今回の因果を邪魔する方法だった。

「前の時とは違うな。まあそれはいい。奥田を仲間にしてどうなるんだ?」

 芳樹は、神妙な表情で言った。

「仲間が増える。しかもそれで因果を邪魔することができる。一石二鳥だわ」

「……」

「どうしたのよ?」

「奥田か――奥田は使い物になるのか?」

「何が?」

「あいつは大人しいぞ。まともに使えるとは思えんが」

 奥田美香は得意な絵で褒められても、照れるだけで大喜びするわけでもない、控えめな性格だった。

「別に、文字通りに仲間に加える必要はないわよ」

「どういうことだ」

「彼女が大人しい子だということは重々承知だわ。要は使いようね。私たち再生会議の存在を意識させない、もしくは正義の味方と思い込ませて都合のいいように使えばいいだけのこと」

「要するに、必要な時にうまく誘導して使えってか」

「そうよ」

「はっ、簡単に言ってくれるじゃねえか。んな器用な真似できんのかよ」

「宮田さんが言ってるし、そもそもどう使うかは巫女が導いてくれるでしょ。それに門脇も了解しているし」

 結局は、何もかも「巫女」――シミュレーターの導き出した予測だから、そういうことなのだ。再生会議のリーダーである宮田は、特にこの「巫女」の予測結果を重視する。

「まったく、また巫女か。……まあいい。それで、細かくはどう動きゃいいんだ?」



 西大寺地区の、吉井川東岸側には堤防の下に野球やサッカーのグラウンドがある。ちょうど学校の北方面にある新開団地の向こう側だ。余談だが、この住宅地の中には、岡山県の地元企業「メルヘンパン」の本社工場がある。由高小では三年生の時に、遠足でこの工場を見学する。いずれ詳しい紹介をするだろうから今回は触れないことにする。

 涼子はこの射越グラウンドで悟と待ち合わせしている。

 家に帰ってくると、早速ランドセルを置いて、制服を着替えて出発をした。真知子と翔太は不在で、おそらく真知子は工場の方に、翔太は、最近仲良くなった同年代の子と外で遊んでいるんだろう。翔太は今年から幼稚園に通っている。それもあって、ごく近所以外にも友達を増やしているようだ。

 ちなみに、この「射越グラウンド」は、吉井川の東岸側、西大寺射越地区に作られた河川敷の運動場だ。野球やサッカーだけでなく、バスケットコートや、テニスコートもあった。どれも簡易なもので、大げさな施設ではないが、誰でも気軽に利用できた。

 射越グラウンドまではそんなに距離はなく、学校までと大して変わらない。自転車ですぐにやってきて、悟の姿を探したが、特に見当たらない。

 まだ来ていないのかと思っていると、ふと知った顔があった。

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