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決闘

「おい! ブスりょうこ!」

 ジローは正面で自分を睨む涼子に向かって吠えた。

「何よ、ゴリラジロー!」

 涼子は対抗して叫ぶ。単純なジローは、それに反応して「なんだと、このやろう!」と叫んだ。

 ジローの手勢は、意外なことにジローを入れても三人だった。決闘なんて大げさなことをするのだから、派手に目立ちたいために、ギャラリーを大勢連れてくるのだと思っていたが、何と三人しかいないとは。タツヤと、ひょうたんみたいな顔をした、ヨシヒロという男の子だ。ふたりはジローの左右に立って、黙ったままこちらを見ている。

「決闘だ!」

 そして今、決戦の火蓋が切って落とされた。



 涼子は……結局決闘することになってしまった……。と、後悔していた。この十分くらい前に、すでに公園で待っていたジローの前にやってきて、「いい加減に喧嘩はやめよう」と提案したところだ。しかし、「オトコとオトコのタイケツは――ケットウなんだ!」などと、訳のわからないこと言って、まるで聞く耳を持たない。

「私は女なんだけど!」

 涼子が言うも、もちろん聞いていない。

 結局は問答無用で、喧嘩になってしまうのだった。

「ジローくん、喧嘩はだめだよ。仲良くしようよ」

 と、悟も間に入って言ってくれるが、当然だが聞いてはくれない。むしろ、「オマエ、ブスのミカタすんのか!」と悟に掴みかかろうとする始末だ。


 涼子とジローの体格差は歴然で、しかもジローは気も強い。取り巻きのように、叩かれた程度で泣いてしまうような弱虫ではない。どう考えても勝ち目はない。不敵な笑みでゆっくりと近づいてくるジローは、「たたきのめしてやるぜ」などと涼子を威嚇してくる。

 そんな中、ふと以前……前の世界で、同じようなことがあったのを思い出した。あの時もジローはふたりの子分を連れて、この公園にやってきた。そして、涼子――いや、この時は涼太だ——と決闘して、完膚なきにまでやられてしまった。そのあと、泥だらけで家に帰ってきて、驚いた母に「転んだだけ」と嘘を言ったことを思い出した。

 また、もうひとつ思い出したが、その時は自分ひとりで公園に来たことを思い出した。その日は、誰も遊びには来なかった。この世界では、どうして悟が遊びにきたのだろう? やはり未来が、少しづつおかしくなってきているのだろうか。

 何がどうなのか、涼子にはわからない。とりあえず目の前の問題を解決しなくてはならない。しかしジローとまともに喧嘩すると、間違いなく痛い目にあってしまう。前の世界ではそうだったのしても、やっぱりそれは嫌だ。いつもみたいに、幼稚園と違って先生がすぐ間に入ってくれることはない。

 ――こうなったら、大人の手を借りるしかないか……。

 そう思った矢先、悟がひとつ提案した。

「お母さんを呼んでくるね」

「うん、お願い!」

 空気を読んだみたいに、そういう提案ができる悟は大したものだ、と感心し、すぐに頼んだ。それを聞いた悟は、すぐに公園を飛び出した。

「あ、こら! ママをよぶのかよ、ヒキョーモノ!」

 ジローが叫ぶが御構い無しに悟は走っていった。



 ヨシキとヒデオは、涼子の家のすぐ近くまでやってきた。ヒデオがふと前を見ると、事前に確認していた涼子の家が見えた。

「ヨシキ、あれがそうだぜ」

 ヨシキはヒデオが指差す家を見て、ちらりと相棒の方を見た。

「……まだか?」

「うん? あれは……おい、ヨシキ。多分あの車だ」

 ヒデオは藤崎家の近くの物陰に隠れて様子を伺っていた。どうやら彼らのターゲットである、知世たちはすでに涼子の家に到着したようである。

「やっぱりか。――こっちの車はもう準備できているな?」

「ああ、そのはずだぜ。この時間ならもう待っているはずだ」

「――よし、やるぞ」



「いやあ、久しぶりだね。義姉さん」

 涼子の叔父である哲也は、玄関に出てきた真知子に声をかけた。

「あらまあ、みんなどうもお久しぶり。ともちゃん、こんにちは」

「まちこおばちゃん、こんにちは!」

 知世はとびきりの笑顔で伯母の真知子に挨拶した。真知子は「ともちゃんはいつも元気でお利口さんねえ」と褒めた。

「そうそう、今、涼子がお友達と外で遊んでいたでしょ」

 真知子がそういうと、

「そうなのかい? 外では見かけなかったけど」

 哲也は、玄関の外を振り返って言った。

「もしかしたら公園に行ってるのかしら」

「ともよ、こうえんにいってみる!」

 知世は伯母の言葉を聞くと、家に上がらずに、そのまま玄関を飛び出した。

「こら、ともちゃん。ちょっと待ちなさい」

 知世の母である弘美が知世を呼び止めようとしたが、それよりも早く知世は外に出て行った。

「まったくもう、知世ったらだんだん活発になってしまって、そのうち手がつけられなくなりそうだわ」

「うふふ、弘美さん。その頃にはもう、ともちゃんも分別のわかるいい子になってるわよ」

「だといいんだけどねえ」



「——おい、出てきた。あれが藤崎知世じゃないのか?」

 ヨシキは家から出てきた知世を見つけて言った。

「本当だ。声をかけるか?」

「ああ、オレがやろう。他所に連れていくぞ。お前は予定通り、向こうで待て。連れてくる」

「わかった」

 ヒデオはすぐに駆けて行った。

 ヨシキは、知世が出てきたところをすかさず近づいていった。そして笑顔で声をかける。

「ねえ、君。涼子ちゃんの友達?」

「ううん、いとこなの。りょうこちゃんとはなかよしだよ」

「そうか、涼子ちゃんは?」

「公園にいるって言ってたよ。ともよね、りょうこちゃんといっしょにあそぶんだあ」

 知世は無邪気に笑う。

「ふぅん、ああそうだ。その涼子ちゃんね。実は公園じゃないんだよ」

「そうなの?」

「そう。連れて行ってあげるよ」

「うん!」

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