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作戦開始

 当日。涼子は朝からずっと、どうしたものかと思案していた。あれから場所は涼子の家の近所にある公園で、時間は午後二時からだということが判明した。しかし多分午後の早い時間に、知世たち叔父さん一家はやってくるだろう。しかし、ジローのいう勝手極まる決闘には困ったものだ、と頬杖をついて苦い顔をしていた。

 午前十時に、翔太と一緒におやつを食べていると、来客があった。

「はぁい」

 真知子が玄関に向かっていった。少しして、「涼子ちゃん、お友達よ」という真知子の声がした。

「友達?」

 涼子は、食べていたクッキーをそのまま口に頬張ると、すぐに玄関に向かった。姉が玄関に向かったのを見て、翔太は姉の残したクッキーをひとつだけ、こっそりとくすねて口に放り込んだ。


 玄関には、悟がいた。悟の隣には母親もいる。どうしたんだろう? と思った。

「涼子ちゃん、こんにちは!」

 悟は涼子の顔を見るなり、嬉しそうに声をかけた。

「悟くん? どうしたの?」

「遊びにきたんだよ」

 悟は答えた。続いて真知子が涼子に話した。

「涼子、よかったわねえ。悟くんが遊びにきてくれたのよ」

「う、うん!」

 そう返事をしたあと、悟の母親が、少し申し訳なさそうに口を開いた。

「突然ごめんなさいね、悟がどうしても涼子ちゃんと遊びたいって、言うものだから」

 そう言って、息子の頭を優しく撫でた。悟は嬉しそうに母親を見上げた。

「あらまあ、いいのよ。涼子も嬉しいわねえ。さあさあ、及川さん。上がってくださいな」

 真知子は、ニコニコしながら悟と母親を家にあげた。


「涼子ちゃん、今日いとこが遊びにくるって本当?」

 悟は、涼子とお絵かきしながら、ふと思いついたように聞いた。

「うん。藤崎知世ちゃんっていうの。来たら紹介するね」

「うん、楽しみだなあ!」

 悟はとても嬉しそうだった。涼子は、まあ悟は温厚だし、友達になりやすいから、知世に紹介するのも悪くないか、と思った。

 それからしばらく、悟の母親が持ってきたお菓子をみんなで食べたり、初めは悟にやたら警戒していた翔太が、一緒に遊んでいるうちに次第に悟になついてきたこともあって、いろいろと楽しく時間を過ごした。

 十一時半ごろに、悟の母親が「そろそろ帰らなきゃ」と言い出して悟に帰ることを促したが、悟はまだ帰りたくないと言った。悟の母は、昼から用があるから帰らなくてはならないらしいが、悟がしばらくゴネた後、母親だけ帰って、夕方にまた迎えにくる話でまとまった。

 そして悟は藤崎家で昼食を食べて、午後も涼子と一緒に遊ぶことになった。




 藤崎家から少し離れた住宅地の中。少年がふたり、真剣な顔をしている。ひとりは顎に傷跡のある少年、ヨシキだ。

 ヨシキは隣にいる少年に言った。

「おいヒデオ、時間は?」

「十三時だ。……宮田さんの言うには十三時四十分だから、もう少しだぜ」

 ヒデオと呼ばれた少年は、ずいぶんくたびれた印象の腕時計を見て言った。メーカーは不明だが、傷だらけで中古品かと思われる。

「やっぱり、緊張するな……」

 ヨシキはあまり口にしない言葉をふと漏らした。

 今回の作戦は、藤崎知世とジローを会わせないことだった。今回は二段構えの作戦で、少し前に、国道二号線で知世の父親である哲也の運転する車を妨害する試みをしているはずだが、ヨシキの予想では、これは失敗すると思っていた。二、三の方法が宮田から指示され、ふたりがそちらに回された。やはり、『神託』だそうだ。これに失敗した場合、今度は知世を公園に行かせないための作戦を実行に移すことになる。

 ジローが公園に行くのを妨害する作戦は、なぜか選ばれなかった。意味はわからないが、ジローは公園に行って涼子と対決して、涼子をうち負かさなくてはならないようだ。

 それにしても、どうしてそこまでして『神託』にこだわるのか? 大まかではあるが、これらのやり方や時期なども、『神託』で決まっている。それを無視すると、うまくいかないか、こちらに不味い結果に終わるというからそのように行動するが、それでも失敗はある。

 例の藤崎知世を、一年ほど前に事故死に見せかけて亡き者にするのも、あの時、あのタイミング以外はうまくいかないらしい。もう藤崎知世を亡き者にすることはできないという。

 ――まったく、意味がわからん。と、ヨシキは渋い顔をした。

「二号線の妨害は……厳しいかな」

 ヒデオは不安そうな顔つきでつぶやいた。

「厳しいだろ。オレにゃ、とても成功するとは思えん」

 二号線での妨害は、途中にあるドライブインに入ったところで、妨害に取り掛かるというが、そもそも知世の一家がドライブインに寄り道するか不明だという。『神託』があやふやすぎて、はっきりしないというのだから、それを根拠にことを起こしたって無理だ。ヨシキはそう考えていた。

「だから俺たちがこっちにくるわけか」

「そういうこった。多分、もともと二号線は失敗ありきで、こっちで成功っていう流れかもしれねえ」

「なるほど……で、どうする?」

 真剣な表情でヒデオが言った。ヨシキはヒデオの方を見ることなく、口を開いた。

「片山次郎が決闘の場――公園にやってくるのは午後二時前だったな。藤崎知世がここにくるのを妨害する」




 昼過ぎて一時ごろ、近所に住む翔太より一歳上の男の子が遊びにきた。翔太はその子と一緒におもちゃで遊び始めたので、涼子と悟は外に遊びに行った。真知子の「あんまり遠くに行ったらだめよ」と言う言葉に返事して外に出ると、悟は「そういえば、ジローくんと何かあったの?」と言った。

「それがねえ、決闘だとかなんとか……迷惑なんだよね。しかも今日だし」

「今日?」

「うん。もう少ししたら、ともちゃんも来るかもしれないし、どうしたものかなあって」

「ジローくんらしいなあ」

 悟は苦笑いした。

「笑い事じゃないって。しかも女の子に決闘だなんて」

 涼子は悟に抗議した。涼子が相手をしてしまうから、ジローも調子に乗ってけしかけてくるのだろうことは、わかっているつもりだ。しかし、仮にもか弱い女の子を相手に決闘だなんて、幼稚園児の考えることはわからない、と呆れた。

「そうだね。じゃあ、知らんぷりするの?」

「ううん。そうしたら絶対に「逃げた」だとか幼稚園で言いふらすに決まってる。聞くとは思えないけど、とりあえず話し合いする。……それでね、これからちょっと行ってみようかと思うんだけど。――悟くん、あの、一緒についてきてほしいんだけど」

 涼子は、ひとりで行くのが少し怖かったこともあり、悟に同行をお願いすることにした。正直な話、ジローが話し合いの応じるとは思えない。どうせジローは子分をたくさん連れてきているのだろうし。さすがに集団で襲いかかってくることはないだろうが、どのみちジローには敵わない。

「うん、いいよ」

 悟は、無邪気な笑顔で答えた。

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