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バス酔い

 山の学校へ向かうバスの中は賑やかで、みんな楽しそうである。

 「山の学校」はいわゆる校外学習のひとつで、いわゆる「林間学校」と言った方がわかりやすいだろう。期間は二泊三日だ。場所は現在の岡山市北区の山の中にある「岡山市少年自然の家」という施設だ。この頃にはまだ存在しないが、現在では岡山空港(愛称・岡山桃太郎空港)が近くにある。この岡山空港が開港するのは昭和六十三年で、この時から二年後のことである。

 涼子は友達の太田裕美と隣同士の席だ。前の席には同じく友達の奥田美香と横山佳代がいる。

 結構距離があり、バスで一時間くらいでは着かない。二時間くらいかかるのだ。しかしバスの中では終始楽しい雰囲気で、みんなで歌を歌ったり、なぞなぞ大会なんてやったりして、いつの間にか到着していたという感じだった。

 が、楽しいと感じられない子もいた。どうしてなのか? それはバス酔いである。涼子の前の座席に座っていた奥田美香が、道中半ばくらいから、ずっと俯き加減で黙っているのに、隣の佳代が気がついた。

「ねえ、みっちゃん……大丈夫?」

「うん……」

 いかにも弱々しい返事には、どうみても大丈夫そうには思えない。涼子と裕美も、心配そうにしている。しかしどうにもよくなりそうとは思えないので、涼子は担任の斎藤を呼んだ。

「みっちゃん、大丈夫? どうしても辛かったらバスを止めてもらうから言うのよ。それからこの袋を持っておきなさい。すぐに我慢できなくなったらその袋に出すのよ。佳代ちゃん、それに涼子ちゃんも見てあげて――」

 そんなことをしていると、後ろの方から別の女子がやってきて、「奥田さんも酔ったの? 先生、後ろで内田くんもバス酔いしてます」と報告した。

「まあ、うっちゃんも?」

 斎藤は、今度は後ろの方の座席にいる内田のもとへ向かう。

 涼子はふと後方を見た。斎藤を中心に数人が集まっているのが見える。しかし、その少し前の座席に座る佐藤の様子が目に入った。あまり周囲のことを気にする様子もなく、ただ深刻そうな顔をしてじっとしていた。これから行われる作戦のために緊張しているのかもしれない。悟の姿も見えるが、こちらは特に緊迫した様子は見られなかった。



 なんだかんだと色々ありつつも、いつの間にかバスは山の学校に到着した。前の席に座っていた生徒から順番にバスを降りていく。

 しかし、座席でじっとしている子がいる。バス酔いで気分が悪くなった奥田美香だった。彼女は結局吐くことなく耐えきった。が、気分の悪さもピークに達しており、動けなくなっていた。

「ねえ、みっちゃん大丈夫?」

 横山佳代は尋ねるが、やはり返事はない。相当辛そうだ。

「大丈夫そうにないね。でも、バスの中じゃよくならないんじゃない? とりあえず降りようよ」

 涼子はそう言うと、佳代や裕美と協力して、美香をゆっくりバスから降ろした。


「みっちゃん、大分具合悪そうね」

 斎藤は青い顔をする美香の様子に、深刻そうな顔をしている。

「涼子ちゃん。とりあえず、みっちゃんをそこの風通しのいいところに座らせて休ませるわよ。ちょっと手伝って」

「はい」

 斎藤と涼子は、美香を他の生徒から少し離れたところに移動させた。他の生徒たちはとりあえず整列させられ、一旦その場に体育座りした。

 そんな中、関口が少年自然の家の職員と何か話をしている。

「すいません、ちょっと問題がありまして――」

「どうされたんですか?」

「いえ……泉田小から、出発が遅れたと連絡がありました。まだすぐには到着しそうにない……というか、結構時間かかりそうなので、由高小の皆さんは先に集会場の方へ集まっていてください」

「そうなんですか。道が混んでいたとか、何かあったんですかね?」

「いえ、出発時間を間違いていたそうで、予想時間からするとあと一時間以上は遅れるかもしれないとか」

「そうですか、ではどうしましょうか?」

「先に集会場へ入って待っていてください。泉田小との対面はそれからということで」

「わかりました。――よし、これから集会場へ入る。職員の方が案内してくれるから、ちゃんと整列して入ること!」

 関口が言うと、生徒たちは立ち上がって、移動を開始する。その時、斎藤は――あれ、飯田小じゃなかったっけ? 聞き違っちゃったわね……まあいいか、すぐ判明することだし――と、これまでずっと、泉田小を飯田小と間違えていた……勘違いしていたことに気がついた。が、もう今更なので黙っておくことにした。


 涼子はみんなが立ち上がって、ゾロゾロと移動始めるのを見て、どうしたものかと美香と同級生たちとを交互に見た。すると、斎藤がやってきた。

「みっちゃん、気分はどう?」

 斎藤が尋ねると、意外にも「大丈夫です。よくなりました」と言った。そして、ゆっくり立ち上がる。それが意外だったので、涼子は少し驚いた。

「本当に大丈夫なの?」

「うん、もうそんなに気分悪くないよ」

「よかった。でも無理しないでね。みっちゃんのリュック持ってあげる」

 涼子は背負っている自分のリュックと、美香のリュックを手に持って、一緒に集会場へ向かう。斎藤も一緒だ。

 その時涼子は、自分のリュックに付けていた、小さな金属のバッジを落としていった。涼子たちが最後だったので、それに気がつく人はいなかった。



 朝倉は、少し前の方を歩く加納の姿をずっと睨んでいた。何をしでかすのか、本当に佐藤へ伝えた通りのことをやるのか。朝倉はこれがフェイクで、本当の作戦は別にあるんじゃないか、とも疑っていた。

 ――奴の行動は絶対に目が離せん。一筋縄ではいかないのはわかっている。必ず何かやるはずだ。


 朝倉と同じく、加納の動向に注意を向けている生徒がいた。金子芳樹だ。いろんな情報筋から、この山の学校で何かするのを知っていた。何かムカつくようなことをするようなら、邪魔してやろうと考えていた。

 最近、芳樹は悪ガキ仲間をさらに増やしていた。この悪ガキたちは、世界再生会議の元メンバーだけでなく、それとは関係ない同級生もいた。「金子組」と内輪で呼ぶくらいに規模が膨れていた。

 ――俺たちゃ、誰の味方でもねえ。気に入らねえものは全部ぶち壊す。へへへ、一体何をしでかすやら。

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