表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
226/268

諦めの悪い子供

 涼子たちが訪ねて行った悟の家に、悟は不在だった。友達の家に遊びに行っているという。果たしてその友達は誰なのか。

 実は悟は、朝倉のところに行っていた。

 悟は朝倉が未来を戻すための作戦を放棄するような行動をするようになってからも、度々会いに行って一緒に行動しようと誘い続けていた。しかし、朝倉はその一切を拒否していた。

 しかし悟は諦めない。今日も朝倉のところへ説得に行っていた。


 自宅にいた朝倉は、やってきた悟の姿を見て、また来たか……と鬱陶しそうにしつつも家に招き入れた。なんだかんだ言って、朝倉は来るものは拒まない性格で、悟が来ても追い返したことは一度もなかった。

 悟は朝倉の部屋に入ると、いつも通りに朝倉の説得に入る。

「悟、お前も懲りないな」

「僕は諦めの悪い子供でね。きっとなんとかなる、そう信じているんだ」

「ふふ、悟らしいな」

 朝倉は思わず顔を綻ばせた。

「今日は朗報を持ってきた」

「ほう」

「この間、祖父母の家に行ってきたとき、近くで夏祭りをやっていたんだ。ここに加納くんが狙う何かがあると情報があった。ちなみに矢野さんが得た情報だよ」

「それで?」

「そこで加藤さんにも遭遇したんだけど——彼女は僕らにヒントの残していった」

「ヒント? 自分たちが何をしようとしてるのか、それのヒントか?」

「そうだよ。それをどうにかすることはできなかったが、そのヒントは嘘ではないと思う。それを思わせることを後で聞いた」

 悟の淡々とした説明に、朝倉はじっと考え込むように黙っていた。しばらく沈黙が続いて、今度は朝倉が口を開いた。

「——それで、加藤早苗はどうしてヒントを口にしたと思う?」

「そこが問題だね。彼女は僕らを策に嵌めようとしたわけではなかった。何を考えて加納くんを裏切るような行為をしたのか」

「加納の差金かもしれんぞ。悟たちに何か動いて欲しいを考えて、あえてヒントを言ったのかもしれない」

「それも可能性としてはあるかもしれないけど、彼女の雰囲気からは、そうではないと思ってるんだ」

 悟は早苗が嘘を言っていないと確信していた。何か明確な根拠があるわけではない。しかし、あれは嘘を言う雰囲気ではないと考えた。

 朝倉はそれを聞いても、何も反論しなかった。その代わり、いつもと違い、自説を語り出した。

「……加納の狙いは、富岡絵美子だ。彼女と親しくなることを目的として行動している。今年と来年の二年ほどの間に、何かをしようとしているようだ」

「それは確かなのかい?」

 悟は少し驚きつつも冷静に言った。

「ああ。間違いはない。その何かがまだ確証は持てないが、誰かの運命を変えようとしている——と、俺は見ている。」

「変えようとしている……たとえば金子くんの弟のように、死の運命から救おうとか、そういうことだろうか」

「おそらくな。考えられるのは、富岡絵美子だが……まだそのあたりの調査は進んでいない。奴らも相当にガードが硬い」

 それを聞いた悟は、ハッとして尋ねた。

「隆之、君はもしかして……ひとりで調査していたのか?」

「そうだ。加納が……我々が絶望し、計画を放棄したと思わせるためには、俺はひとりでいるしかなかった」

 朝倉も独自に調査をしていたのだ。加納たちは、朝倉が疑心暗鬼に陥って、未来を戻すことを放棄すると思わせるために、あえて悟たちと袂を分かったように見せかけていた。これは実際に効果があり、加納は自分の作戦が上手くいって、仲間割れをおこさせることに成功したと思っている。バラバラになったことで油断することはなかったが、少なくとも、朝倉たちは大した障害ではないと考えるようになった。

「隆之! 君ってやつは——」

 悟は嬉しくなって、朝倉を思わず抱きしめた。突然のことに困惑する朝倉。そして、ゆっくりと口を開く。

「悟、お前だけじゃない。俺も『諦めの悪い子供』だ。こんなことで挫けてたまるか。……それにしても、お前の持ってきた情報は興味深い。この事態を打破する糸口が掴めそうだ」

 ふたりは、自信に満ちた顔で向き合い、固く握手を交わした。



 その頃、涼子と美由紀は、悟を探して悟と仲がよさそうな男子のところを訪ねていた。

「瀬田くんのところにはいなかったし、高島くんは不在だし、岡崎くんも家にいなかった……」

 美由紀はがっくりと肩を落とした。

「やれやれ、どこに行ったのやら」

 涼子はうんざりした顔をして、そばにあったフェンスにもたれた。そして被っていた麦わら帽子を手に取って、それを扇いで団扇替わりにした。しかし、あまり涼しくない。

「ねえ、涼子。どうする? この辺だともうあと誰がいたっけ。浜西か五明の方へ行ったら、まだ何人か男子の家があるけど」

「そうだねぇ……じゃあさ、佐藤くんか朝倉くんのところに行ってみようよ。それでいなかったらそのままミーユの家で遊ぼ」

「わかったわ」

 ふたりはとりあえず、近い方の家、朝倉の家に行くことにした。



 悟と朝倉は、加藤早苗からまず攻略するべきだという考えで一致した。現時点では早苗以外からは難しい。その早苗は、理由は不明だが、早苗には加納の作戦遂行に迷いが生じ始めたと推測する。

 そこに付け入る隙があるとふたりは考えた。

 ふいに部屋の戸をノックする音がした。朝倉が返事をすると、朝倉の母がドアを開けて顔を出した。

「隆くん、お友達が来てるわよ」

「わかった」

 朝倉は返事すると、玄関まで降りていった。一体誰だ、と思ったら、涼子と美由紀だった。

「朝倉くん、久しぶり!」

 涼子は朝倉の顔を見るなり、すぐに声をかけた。しかし朝倉の方は、取り立てて驚いた様子もなく普段通り落ち着いた面持ちである。ちょっと大袈裟めに言ってみたが、まったく以前と変わらず拍子抜けだった。

「ああ、藤崎と矢野か。どうしたんだ。何か用か?」

「ねえ、悟くんが来てるでしょ。そこに悟くんの自転車があったし」

 涼子と美由紀は、朝倉の家に到着した時、前の道に見覚えのある自転車が止まっているのを発見した。それはまさしく悟の自転車だった。ふたりは笑顔で向かい合い、示し合わせたかのように綺麗にハイタッチをした。そして意気揚々と玄関のベルを鳴らしたのである。

「ああ、部屋にいるぞ。悟に用があったのか?」

「うん。でもさ、朝倉くんにもいろいろ言いたいこともあるんだけど」

「いいだろう。さっき、悟ともこれからについて話をしていたところだ。上がってくれ」

 朝倉はふたりにスリッパを出して、そのまま二階へ上がっていった。

「お邪魔しまぁす」

 涼子と美由紀は朝倉の後を追って、階段を登っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ