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加納と遭遇

 涼子は驚いた。まさか加納本人がいるとは思わなかった。どうやってやってきたのかは知らないが、それはどうでもいい。何の目的でやって来たのかが重要だ。

「彼はここで何かをやるつもりだろうと思う。それが何かはわからないが、ようやく見つけた。僕は彼を監視するつもりだ。涼子ちゃんはどうする?」

「私もやる」

「でもさっきのいとこのお姉さんとか、一緒に来てる人を放っておいて大丈夫?」

「うぅん、それを言われると厳しいかも。でもこれを見逃すわけにはいかないわよ」

 涼子の鼻息は荒い。それに、ちょっとくらい親たちの目から離れても、問題ないだろう。

「わかった。もうちょっと近づいてみよう」

 悟と涼子は、人ごみに隠れるようにしながら、少しづつ距離を縮めていった。



 大勢の人が加納の姿を隠している。来た頃はここまで多くはなかったが、いつの間にか結構な数の人で賑わっている。涼子の視線から見えたり隠れたり、これではそのうち見失ってしまいそうだった。

 が、加納より先に悟の姿を見失ってしまった。

「あれ? さ、悟くぅん!」

 涼子は呼びかけたが返事はない。祭りの喧騒がそれをかき消していた。しかも、やはりというか加納の姿も見当たらない。涼子はがっくりと肩を落とした。

 結局見逃してしまうとは。運がよければまた姿を見つけられるかもしれないが、こんな田舎の夏祭りにも関わらず結構な人が集まっている。灯りが煌々と会場を照らしているが、それでも夜の暗さを完全に退けることなどできない。結局は薄暗いのだ。

 ――これじゃもう無理か……。

 残念ながら、諦めるしかなかった。やむなく、親たちのいた辺りに向かって歩き出した。


 しかし、そこには知った人はいなかった。これは、みんなどこかに移動しただろうか? と考えて、ちょっと周辺をウロウロしてみた。そんなに広くはないので、すぐに見つかるだろうと思ったが、これがまた一向に見当たらない。当然、向こうから涼子のもとに表れもしない。

 これは完全にはぐれてしまったか、とちょっと困ってしまった。祖父母の家はわかるし、闇夜でもひとりで帰ることはできるが、後で母に怒られるのは間違いない。

 涼子は憂鬱な気分になった。どうせだから何か美味しそうなものでも買って食べようと思うものの、財布は持って来ていなかったのでそれもできない。

 ――はぁ……だめだこりゃ。

 涼子は俯いたまま、とぼとぼと歩き出した。そして誰かにぶつかった。

「あ、すいません――」

 涼子は慌てて謝ったが、その人物を見て驚愕してしまった。

 ――さ、さな!

 加藤早苗がいた。涼子の友達であり、未来から遡行してきた世界再生会議のメンバーであり、加納慎也の腹心である少女だ。

 加納がいるのだから、その仲間がいてもおかしくないのだが、まさか早苗がいるとは。早苗も小学生だ。高校生くらいならまだしも、そう簡単にこんなところまで来れるわけない。

「涼子――」

 早苗はそれだけ言って黙り込んでしまった。明らかに雰囲気が違う。涼子の「友達」としての早苗ではない。

 黙ったまま、ふたりは見つめあっていた。涼子は言葉が出てこない。なんて言ったらいいのだろう。だがとりあえず、どうして備前にいるのか聞いてみようと思った。

が、それよりも先に早苗が口を開いた。

「――涼子、その浴衣可愛いね。それにその髪飾りも」

「え、ああ。ありがと。この浴衣ね、いとこのお姉ちゃんのお下がりなんだ」

「ふぅん、よかったね。すごく似合ってると思うよ――」

 ただ他愛ない会話がしばらく続いた。同時に涼子はこんなことをしている場合じゃないと思っていた。さらに早苗がどうしてここにいるのかより、加納について何か早苗から聞き出さねば、と考えていた。


 が、その時、思わぬ人が目の前に現れた。加納慎也だった。

「おや、これは藤崎さんじゃないですか。奇遇ですね」

「加納くん……どうしてこんなとこに?」

 涼子は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに気を落ち着けて加納を見据えた。また、なぜか加納については自然に言葉が出てしまった。

「僕の高校生のいとこが連れてきてくれたんですよ。オートバイにのせてもらいました。そのいとこの家が、ここより西の香登にあるんです。僕は昨日から、そのいとこの家に泊まりに来ています」

「そうなんだ。……でも、加納くんは何かをしようとしているんじゃないのかな?」

 もっともらしい理由だが、多分それは建前でしかないと思った。だからズバリ言ってみた。

「ふふふ、さあどうでしょう? 僕は夏祭りを楽しみに来たんですが、藤崎さんはそれを信じてもらえますかね」

 加納はからかうように言った。それにカチンときた涼子は、それに対抗するように露骨な疑惑の目で言った。

「どうだろうね。私は信じられないな。こんな田舎の祭りに、わざわざ連れて来てもらうかな? 何かあるんじゃないの」

「ふふふ、これは手厳しい。まあ、どうぞご自由に……」

 加納はそう言って、あっさりとどこかへ行ってしまった。涼子はその姿を見送りながら、「きっと何か企んでいる」と疑いを強くしていた。

 ふと早苗のことを思い出して姿を探したが、いつの間にか見当たらない。先ほど加納と話しているどさくさで立ち去ってしまったのだろう。彼女は加納の腹心だ。きっと加納の補助で動いているに違いない。狡猾な加納よりも早苗をどうにかした方が簡単な気がした。

 涼子は早苗の姿を探した。



 そんなに広い場所ではないが、なかなか早苗は見つからない。夜なので、灯りがあるものの、基本的に暗いのも大きいだろう。もしかして祭り会場の外に行ってしまったとか――と考えたりもした。

 どうしたものかと途方に暮れていると、悟と再び再会した。

「あ、涼子ちゃん。どこに行ってたの?」

「それはこっちのセリフだよ。加納くんに見つかったのよ。それにさなとも会ったし」

「加納くんと? それに加藤さんとも……やっぱり何かしらで動いているね」

「私もそう思う。でも……何をしようとしてるんだろう」

「そうだね。こういう場で何かがあるとしたら……いろいろ考えられるけど、果たしてどれか……」

 涼子と悟は一緒に頭を捻るが、これだという答えは見つからない。どうしたものか……祭りの喧騒の中、時間だけが過ぎていく。

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