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門脇とは

 及川悟は、最近何かを調べているようだった。それを感じとって、仲間の佐藤信正が尋ねてみるが、気のせいだと言う。

「なあ、悟は何をやっているんだ?」

 佐藤信正は仲間の岡崎謙一郎と喋っていた時に、このことを持ち出してみた。

「なんだろうね? 確かに最近コソコソと何か調べているみたいだけど……」

 岡崎もよくわからないようだ。

「うぅむ……」

 佐藤は、難しい表情のまま黙り込んだ。



 悟は以前から感じていた疑問について考えていた。

 自分たちの行動が世界再生会議に漏れているのでは、ということだった。

 悟たちは、加納慎也から事実を知らされ、未来を元に戻すために行動している。加納は、世界再生会議のメンバーである門脇という人物から知らされた。

 門脇は何か目的があるらしく、それで本来の記憶を戻したようだ。しかし、加納は再生会議の支配する未来から本当の未来へ戻すために朝倉に話を持ちかけた。当然、再生会議のメンバーである門脇には黙ってだ。結局、加納は門脇を裏切ったことになる。

 なので、門脇を通じて世界再生会議にこちらの計画が漏れてはいないはずだった。

 しかしこれまで何度も邪魔され、厳しいこともあった。もちろん過去を改変する計画は、世界再生会議が始めたことだ。だから自分たちの計画が予想できてしまうのは無理もない。

 だがそれでも、こうまで邪魔されようとは。そもそも、宮田たち世界再生会議の一部だけが悟たちの計画に合わせて、同時に意識を過去に遡行させていること自体がおかしいのだ。

 なんとか本来の未来への筋道は辿れているが、いつ阻まれるかわからない。

 これは単純に考えて、内通者……スパイがいる、仲間の誰かがスパイなのではないか、それを疑っていたこともあった。しかし、結局のところ疑わしい人物はいない。

 結局、疑惑を感じるだけで、うやむやになっていた。こういうことは、うかつに人に話せない。

 一度、金子芳樹に話してみたことがある。敵側の内部を知る人物から何かわからないかと思った。が、「正直な話、お前の期待に答えられるような情報はない」とはっきり言われた。また、「俺は組織の中枢にいた訳じゃない。そして奴らは情報を隠すのが上手い」と言った。

「ひとつだけアドバイスしてやる。門脇を調べろ。所詮は根拠のねえ俺の勘だが――門脇は何もかもがわからねえが、奴がすべてを知っている。奴がすべての黒幕じゃねえのかとな」

 最後にそれを言って、さっさと行ってしまった。

 ――やはり門脇か。彼は一体何者だろうか?

 門脇については、ある程度情報を得ている。

 姿は不明。誰も見たことがない。とは言え、おそらく側近たちには姿を見せているのだろうが、どちらにせよ悟たちは見たことがない。

 世界再生会議の主要な幹部は、どの人物もある程度素性がわかっている。未来の公安がちゃんと調べてあるのだ。

 しかし門脇が何者か、それを知ることはできなかった。いくら調べ上げても、下の名前すらわからなかった。いつの頃からか組織の中に存在し、参謀として裏で暗躍していた。ここまで謎に包まれているのは、組織の中でも素性を完全に隠している証拠でもある。


 悟は自宅の学習机の上に広げているノートを睨んでいた。悟はそういった世界再生会議のことをノートに書いてまとめているのだ。後で読み返して復習できるようにとのことである。マメな性格だ。

 門脇についてのことを書いたページ……そこには、


 門脇……これが本名なのか不明。下の名前も不明。

 再生会議への参加時期……不明。

 宮田の側近として活動している模様。

 我々が本来の未来を知るきっかけを作った人物。

 組織に不満があるという。


 この五行だけだった。宮田が死んでから、世界再生会議は離脱者が目立つ。どれも宮田に近い人物ばかりだ。もちろん彼らは門脇とは距離のあった者たちで、門脇に関する情報も持っていない。


「はぁ……結局はさっぱり進まず、か……」

 椅子にもたれて天井を仰いだ。そしてしばらくそのまま天井を眺めていた。

 ふとこういう時は、また別のことを考えてみるのもいいかな、と思った。そうして閃いたのは、自分のことだった。

 悟は自身の記憶から、自分のこれまでの経緯を思い出してみた。


 及川悟は、世界再生会議によって世界が変えられた後、女の子として生まれた。聡美と名付けられた。

 その後、大学生の頃に杉本健太郎と言う男性と知り合い、交際を始めた。彼は大手企業の社員であり、まだ若いが将来を嘱望されているエリートだった。

 数年経って聡美は当時働いていた研究所から、別の研究所を紹介され、そちらに転職することになる。そこは杉本の働く企業がスポンサーとして関わっていた研究所だった。

 それからまもなく、聡美と杉本は結婚し、この研究所で意識を過去に送る技術……いわゆるタイムマシンの技術を開発した。それを使い、実際にタイムマシンを作り上げた。本来は涼子が開発するはずなのだが、なんとこの時は聡美が開発することになる。

 夫の勤めるその企業は、「世界再生会議」という組織が作った企業で、その世界再生会議の悪事に使われた。

 もちろん聡美はそんなことは知らない。それを知らされたのは、もっと後の二〇一五年頃に、古い友人の朝倉隆之からだった。


 この辺が、世界再生会議によって変えられた「前の世界」の出来事だ。

 この後、朝倉から加納慎也を紹介され、彼が用意したという装置を使い、本来の記憶を知らされた。ちなみにその装置は門脇が開発したという。そして仲間を集め、未来を元に戻すための計画を発動させた。

 ふと思った。

 ——加納くんは過去の記憶を門脇から知らされることになったと言っていた。加納くんはその時、門脇と何を話したのだろう?

 ——門脇は組織に不満を抱いていたという。しかし、組織を壊そうというのではなく、自分の都合のいい組織に変えたいのだろう。だからこれまで散々邪魔をしてきた。しかし、今回は……。

 様々な考えが浮かんできては疑問符がついてくる。

 しかし門脇のこともさることながら、加納慎也のことも改めて考えると疑問が湧く。

 ——加納くんはどういう経緯で門脇と接点を持ったのだろう?

 悟は加納を調べてみる必要があるのでは、と考えて、もたれた椅子を前後に揺らしながら考えを巡らせているうちに、「悟、ご飯よ」という母親の声が聞こえた。



 数日後、悟は加納に声をかけた。

「加納くん、放課後ちょっといい? 相談したいことがあるんだ」

「ええ、いいですよ」

 悟と加納は、放課後に体育館裏で会うことにした。


「——門脇と僕がですか?」

 加納は悟からの質問に、特に表情も変えることなく答えた。

「うん、そうなんだ。君は門脇から事実を知らされたと言ってたね。門脇が何を考えているのか、何か聞かなかったかなって思ってね」

「そうですね……正直、詳しい経緯は話してくれませんでした。ただ以前話しましが、その時の世界再生会議には強い不満を抱いているようでしたね」

「確かに不満があれば、都合のいい体制に変えたくなるだろうね。しかし他には何もないだろうか。例えば金子くんみたいに」

「そういう可能性もありますが、組織内で主導権を握ることが主目的であることは明白です。現に、今ではそうなったようですから。もしかしたら、最初からそのように宮田を誘導していたかもしれません」

「そうだね、確かにそれもあるだろうね。こうなると、再生会議はどうなっていくだろうか」

「宮田派の面々が組織を抜けていると情報があります。この間の家庭訪問の際も、朝倉くんと横山さんが、板野さんとばったり会っていますが、彼女も厳しいでしょうね。門脇に恨みを抱いているようですが、どうすることもできないでしょう」

「まあ、そうだろうね」

 悟は同意した。

「一層、門脇のための組織化していくでしょう。彼が宮田を排除しようと考えていたとしても、味方とは思わない方がいいでしょうね。やはり門脇は危険は存在だと思います。宮田は私利私欲に走りすぎて消されました」

「そうか……確かにそうだよね」

 悟は加納の言葉に一応の納得をしたようだ。

「僕もいろいろ調べてはいるのですが……」

「うん、とはいえ諦めるわけにはいかないよね。僕も地道にやるよ。それじゃ、また明日」

 悟は加納と別れた後、先ほどのことを思い出して加納に対して疑問を抱いた。

 ——どうも引っかかる。まるで彼は門脇を代弁したかのようだ。消された……表向きは、あくまで事故だったはずだが。

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