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そして家庭訪問当日

 涼子の家への家庭訪問の当日。

 普段通り日常が過ぎていき、六時間目が終わった。斎藤は、帰りの会で今日訪問する家を伝え、帰ったら遊びに行かずに自宅で待っているように言った。

 帰りの会が終わって斎藤が教室を出ていくと、教室はガヤガヤと騒がしくなった。生徒たちは下校するためにランドセルを背負い、手提げ袋を持って教室を後にする。

「涼子、一緒に帰ろ」

 裕美が声をかけてきた。一緒に奥田美香ら二、三人がいる。毎日ではないが自宅の方角が一緒で、みんな以前からよく一緒に下校している子たちだ。

「うん」

 涼子もランドセルを背負って裕美たちと一緒に教室をでた。

 教室を出たら今度はA組の教室の前にやってくる。友達の奈々子や典子と一緒に帰ろうと思ってだ。

 A組の前までくると、ふたりはすぐに出てきた。

「涼子。ねえ、みんな帰るの? あたしたちももう帰るからさ、一緒に帰ろ」

 奈々子が言った。もちろん涼子たちもそのつもりなのだ。同意して一緒に帰ることになる。


「ねえ典子。典子は昨日家庭訪問だったんでしょ。関口先生どうだった? ねえどうだった?」

 裕美は典子に尋ねた。裕美にはまだ関口が気になるらしい。

「えぇ、別にふつうだよ。あ、でもお母さんのお化粧がいつもよりこかった」

「えぇ、それホントォ? でもやっぱり関口先生だからかなぁ」

「ぜったいそうだよ。お母さん、いつもよりニコニコしてたもん」

 もちろん典子の母は普段通りで、対応はこれまでと別に変わらないのだが、典子にはそう見えたようだ。

「裕美と涼子は今日なんだよね。斎藤先生かぁ」

 奈々子が言った。

「うん。裕美が三番目だったっけ。それから阿部くんで、最後が私だったよね」

「そうそう。先生、早く来ないかなぁ」

 裕美は、斎藤が家庭訪問にやってくるのが楽しみなようだ。大好きな先生を自宅へ招くのが嬉しいのか。

 裕美の家の近くまでやってきた。裕美は涼子たちに別れを告げて、嬉しそうに自宅の方へ走って行った。涼子たちも手を振って分かれた後歩き出す。涼子も普段より少しニコニコしている。

 涼子も、一年ぶりに斎藤が家にやってくるのが嬉しいようである。

 


 そんな頃。涼子たちが帰路についている最中、朝倉たちはもう行動に移っていた。

 涼子たちよりも先回りして、涼子の家の周辺で見張っているのは悟と岡崎だ。ふたりともまだ自宅に戻っていないのか、制服のままだしランドセルを背負っている。生垣の陰に隠れて様子を伺っていた。

「悟くん、そっちどう?」

 岡崎が悟に声をかけた。

「特に怪しい人は見ないな……あ、涼子ちゃんたちがいる」

「藤崎さんが帰ってきたのか。藤崎さんは最後だからまだだよね」

「うん。時間も予定ではまだ後だよ」

 悟はポケットから腕時計を取り出して見た。まだ時間は早い。

 ふたりはもう一度、周辺を見回してみたが、やはり世界再生会議の人間らしき者はいない。何かの工作をしている様子も見られない。

 悟はどうも不思議に思った。

 ――まさかこの因果に気がついていない、なんてことは……。



 校内で世界再生会議の動向を探っていた佐藤信正と横山佳代、矢野美由紀は一度校内を手分けして回った後、ふたたび集まった。

 佐藤は、何の変哲もない様子を訝しんだ。

「おかしいな……」

「どうしたの?」

「再生会議の動きが見えん。どうなっているんだ?」

「そうよね。私も全然だし」

 佳代も手応えがまったくないことを不思議に思っている。

「やはり校内のメンバーが減ったこともあるのでは」

 美由紀は、生徒である金子芳樹抜けたことや宮田派の板野章子らが、組織内左遷された可能性から、校内ではうまく機能していないことを考えたようだ。

「それもありえるな。校内じゃなくて、外で動いている可能性の方が高い」

「どうする? 朝倉くんに言って、私たちも外を探ってみる?」

「そうだな――このまま校内にいても無駄になりそうだ。俺が朝倉に言ってくる。矢野さんは先に外を回ってくれ。横山さんはちょっと待っていてくれ」

「了解」



 朝倉隆之と加納慎也は、職員室の周囲で警戒していた。

「朝倉くん。やはり動きは見えないですね」

「ああ、いくらなんでも当日なら何かあってもおかしくないが――本当に何もない」

 朝倉もこうまで動きがないと、どう考えても不自然だった。これは明らかに世界再生会議に不利に働く因果だ。妨害しないわけがない。

「我々の知らない別の因果を知っていて、それでこの因果を結果的に妨害できる――なんていうものはないだろうか?」

 朝倉は言った。

「なるほど、それでこの因果をあえて見逃している……あり得なくはないですが、そうなると我々にはどうすることもできません」

 加納は淡々と語った。実際その通りで、そんなものがあればもう打つ手がない。

「やはりそうなるな……しかし、だからと言って諦めるわけにはいかない。とにかくやるしかない」

「そうですね。どちらにせよ、そうするしかありません」

 朝倉と加納がそんなことを話しているうちに、斎藤が職員室から出てきた。バッグなど荷物を所持していることから、家庭訪問に向かうようだ。

「加納、斎藤先生が動き出した。我々も行こう」

「はい。――おや、佐藤くんが」

 加納が指差した方から、佐藤がやってきた。佐藤は朝倉たちの前に来ると、「だめだ。まったく動きがない」と言った。

「やはりか……どういうことなんだ。こんな重要な因果なのに」

「斎藤先生はどうなんだ? それから、俺たちは外を警戒しようと思うがどうだ?」

「ああ、そうしてくれ。先生はさっき家庭訪問に向かった」

「何、そうなのか? よし、じゃあ俺たちも動く」

 佐藤はそう言って、ふたたび来た方へ引き返そうとしたが、加納に止められた。

「佐藤くん。誰かもうひとりと先生を追尾してくれませんか?」

「わかった」

 佐藤は返事して行ってしまった。それに対して朝倉が言った。

「加納、我々の役目を佐藤にやらせてどうするつもりだ?」

「やはり気になります。僕たちは別の方を回って警戒してみた方がいいかもしれません」

「なるほど……確かに。何か考えがあるか?」

「朝倉くん。朝倉くんは西方面から射越グラウンドの方を回ってみてくれますか。僕は東ルートを回ってみましょう。そしてそのまま周辺を探りつつ藤崎さんの家まで向かいます」

「わかった。では藤崎の家で会おう」

 ふたりは別のルートを回って探りつつ涼子の家に向かうことにした。

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