其の七、壮絶怒りのかくれんぼ
はあ~スッキリ。
「だから、私は隠れることにした。私を守るために」
何度も言い聞かせて頷く。
私は揺るぎない決意を持ち、震える手で社長室宛へ封筒を投函した。
すると、完全に吹っ切れて、晴れやかな気持ちとなり、振り返るとステップを踏んだ。
(沖縄に逃避行っ!)
もう私は悩まない、心を砕かない・・・だって、命より大事なものなんてありはしないのだから。
・・・・・・。
・・・・・・。
「何度言ったら分かるの」
課長が今日も朝礼後、早速、私の所へやってきた。
これから15分の小言・・・いや、パワハラが続く。
あさイチから心を折りに来なくてもいいじゃないか・・・しかも人前で吊るしあげなくても・・・。
まあ、私が力足らずなのは認めるけど・・・。
「これ、前も言ったよね」
同じ事、よく飽きずに何度も言うけど・・・多分、私は初見です。
部長に分かりませんと言ったら、大丈夫応用だから、何かあったら責任持つといいましたよね。
「すいません」
なんて、反論する度胸もない私は、ペコペコ頭をさげる。
「どんな育て方されたの。親の顔が見てみたいわ」
親は関係ないでしょ、ふざけんな!私を大事に育ててくれた父や母を馬鹿にすることだけは許さない。
なんて、言えたらいいよね~。
「・・・分かったの」
何を。
「はい」
「反省したの」
だから何を。
「はい」
「じゃ、チャンスをやるわ」
いえ、いえ、ノーヒントのノーチャンスなんていりません。
「ありがとうございます」
「明日までに、これやって」
「わかりました」
「私に聞くことは」
「ありません」
聞いたとて、答えは返ってこない、むしろ謎の深みへとハマるのだから。
深夜2時、私は自宅に持ち帰った仕事を済ませる。
眠れない・・・いつものようにYouTube動画を観て、出社までの時間を過ごす・・・今日も眠れなかった。
だいぶ、どうでも良くなっている自分がいる。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げるな、逃げるな。
朝7時、早目の出社で課長のデスクの上に、依頼された仕事の資料を置く。
朝礼後、つかつかとヤツがやって来た。
「なんなのこれ」
バタンと私のデスクに投げ置かれる資料。
「はい?」
思わず、尋ねる。
不備はないはずだ・・・だが、あることにされたんだろう。
私は心の中で溜息をつく。
「ここっ!数値が違う・・・変更したって言ったよね」
ああ、言ってません、言ってませんよ~。
「はい、スイマセン」
機械的に言葉がでる。
「それに、効率っ!効率はどうしたの!」
あなた安全第一って言っていましたよね・・・リスクをとるのですか?
「お言葉ですが、課長、そこは課長が自ら効率よりも安全といいましたよね」
「・・・あなたは極端なのよっ!こんな臆病なことでどうするの?」
あーもう・・・言葉がでない。
私はそれから30分、課長のマシンガン、パワモラハラをくらった。
もういいや。
私の何かが弾けた。
バンと机を叩き、課長をショルダーチャージ気味に押し倒す。
「何するの!」
「私、辞めます」
「あなたみたいな!社会人はどこに行っても通用しないわよ」
「その言葉、そっくりあなたにお返しします。あなたこそ、他の会社じゃ通用しませんよ」
「・・・ふざけないで!」
「ふざけてはいません!労基に行ってやろうか!」
自分でも信じられないくらいの大きな声がでた。
知るかっ!知るもんか!
私は会社を飛びだした。
後悔?後悔はない、だって、このまま仕事を続けても先はない。
辞表は沖縄で書くつもりだ。
社長が私の告発を読んだら、何か変わるだろうか・・・いや、変わらないだろう・・・いや変わって欲しい。
今まで同じように辞めた人も大勢いる・・・その人たちの無念も・・・いや偽善だな。
はは、まだ吹っ切れてないな。
私は機上の人となった。
さあ、もう忘れて、かくれんぼを満喫しよう。
沖縄の青い海と透きとおる空のもと、私の心を洗い流すのだ。
ある種のホラーですね。




