其の十、簗河
これにて完結。
「これは珍しいお客さんだ。ようこそ簗河へ」
船頭そう言うと、どんこ舟を出発させる。
長さ5mくらいの竹竿を自在に操り、川を抜け水門橋と入る。
「お客さん、今日はねぇ、ちょっと風が強いから、橋の壁に当たっちゃうかも、ちょっと気をつけてね・・・って大丈夫か」
舟は外堀へ入ると、いっそ狭い古い家の裏を進む。
「色褪せている?そうさねぇ、セピア色っていうんですかねえ」
内堀へ入ると、鬱蒼とした木々が生い茂る。
「この辺りはねぇ、とても落ち着く場所でしてねぇ、木陰の中に木漏れ日が差し込みますと、とても心地の良いところでして・・・とくに色がつくとねぇ」
船頭は溜息をついた。
「そろそろ・・・いや、一曲歌いますか、白秋先生の歌で「この道」」
この道は いつかきた道
ああ そうだよ アカシアの花が咲いている
「どうですか、橋の下じゃ、エコーが効いてそれなりに聞えるんですよ」
船頭はにかっと笑う。
「そろそろなんだけどなあ、ここっ一番狭い橋ね・・・その先はくもで網・・・なあ、覚えている?」
・・・・・・。
「その先にまちぼうけ像・・・かくれんぼ・・・そろそろやめよっか」
船頭ははっきりそう言った。
・・・・・・。
「君がでてきてくれたら、色がつくんだよ、この世界の」
・・・・・・。
「ほんのちょっぴり、勇気をだししてくれないかなあ」
・・・・・・。
「みんなまっている」
・・・・・・。
「きっと」
・・・・・・。
「ほんとうだよ」
!
清濁合わせ持つ川とお堀の水が色持つ。
水岸に咲くカンナの花が真っ赤に色づく。
蝉が盛夏を歌う。
空が澄み渡る。
陽が燃える。
船頭は破顔しぺこり頭をさげる。
「ありがとう」
読んでいただき感謝です。




