第八話 交渉とは、別の形。
「…い、いま、ですか……?」
驚きを含んだ声でイングザイディ様がつぶやく。
なにかあったのだろうか?
「……ええ、そうですけど……。なにか受け入れられない事情が?
それならば出直そうと思いますが……。」
「姉さま……。」
え? なんでアマイラまでそんな顔で見るの?
アマイラならこうするだろうな、と思って先回りしただけなのに。
「……ごほっ……失礼。
アマイラ様はとある商家、と表されましたが、どこの商家なのでしょうか。」
少し咳き込みながら質問を問いかけてくる。
「……グッド商会、タレント商会、オフィシェン商会……。
現在お集まりいただいているのはここでしょうか。」
私は商会連合に話を持ち込み、エンダー公爵領での商売の利点などを告知しただけである。
主な利点としては、エンダー公爵領の独特な文化や、エンダー公爵領にある現在の商会の様子などである。
ちょっと調べれば出てくるような情報でも、己に関係ないと悟ったら人間、案外見逃しがちなものである。
「グッド商会にタレント商会、オフィシェン商会まで!?」
……イングザイディ様はとても驚かれているようですが、なぜでしょう?
そこまで驚くところではいないように思われますが。
「お姉さま、しばらく見ないうちに、化け物っぷりが加速してますわ……」
アマイラ、お願いだからそんなふうにお姉ちゃんのことを見ないで!!
私、化け物じゃないから!!
あ、あと、忘れるとこだった。
「……あと、今回お集まりいただいた商会の皆様から、諸々の書類です。
今回売る商品の種類と成分表、価格設定など。
そちらの資料に目を通していただいてから、どこの商会と、どのような契約を結ぶのか。
考えてくだされば、と。」
「………っ! すぐに「伝言札」を飛ばします!! ありがとうございますっ……!」
なぜお礼を言われるのかはわかりませんが、単純にお礼を言われるのは嬉しいですね。
ちなみに、伝言札は一種の魔道具(道具に魔物から出る魔石をはめこみ、そこに魔法陣をいれたもの)で、札にはめ込まれた小さな魔石に血判を押すと、鳥の形となって指定の人に届く魔道具だ。
「……いえ。アマイラならこうするだろうな、と考えてやったまでですから。」
……よし、計画完了。
今回の私の計画は、まず、アマイラが支援をしたいというのを折り込み済みで―――まぁ、言わなくても支援はするつもりだったが。せっかく商家を集めたのに解散じゃあ、商家を集めるために使った労働力がもったいないというものよ―――支援のため、商会連合にエンダー公爵領の情報を持ち込み、エンダー公爵領に商人たちを入れる。
そして、首都と公爵領との間を行き来させ、噂を流させる。
噂の内容としては、「エンダー公爵家がアマイラの派閥に入った」や、「エンダー公爵領を救うためにアマイラ様が行動を起こした」、といったところか。
とにかく、アマイラの評判が上がるような噂が流れるであろう。
そして、王位継承候補者たちに明確な「敵」として認識させ、アマイラを王位継承争いに踏み出させる……
という筋書きだ。
まぁ、筋書き通りに行くかは商人たちの行い次第だな。
部屋から出る際、小声でつぶやき、私の「力」を使う。
「オースティング・ガーバナーのなにおいて命ず 理の一端に 【森羅万象】」
そして、ちょちょいっとイングザイディ様の疲労や心労などを癒やしていく。
気休めにしかならないかもしれないが、ないよりはマシだろう。
そして、エンダー公爵家をさろうとした、その時。
最悪の事態が起こったのであった。
「アマイラねぇ様!!」
シスコン第五王子、ヘイダーが運悪く帰ってきてしまったのだった。




