第七話 交渉の失敗
「―――……っこほっ……
すいません。それで、お話、というのは。」
エントランスから場所を変え、エンダー公爵家の館の一室で、イングザイディ様が聞いてきた。
目元にある、大きなくまに少し青白い顔。
化粧で隠しているようですが、私にもアマイラにも、バレバレですよ。
時折、咳もしていますし。
全く、このようなことになる前は、見目麗しいご令嬢たちに引っ張りだこだったのですが。
勉学、体術、剣術、人柄、家柄、容姿、全てにおいて優れた人物と言われていて、ついたあだ名が「白馬の貴公子」。
……夢見がちな貴族の令嬢がつけるにふさわしい名前と言えましょう。
話がそれましたね。
少し雑談をして、その自然な流れで交渉の話を取り入れる予定だったのですが、見透かされていたようですね。
「簡潔に申し上げてもよろしいでしょうか?」
すぐにアマイラが申しだてをします。
「ええ、もちろん。」
よし、了承を得られました。
これでアマイラの真っ直ぐさ、決断の速さも伝わるのではないでしょうか。
「では。
……私の派閥につく気はありませんか?
もちろん、相応の―――」
「申し訳ありません。お断りさせていただきます。」
これには、私も驚きを見せます。
と、いっても表情筋が死んでいるので、無表情にしか見えないでしょうが。
ここまで明確な切り返しをしてくるとは。
「申し訳ありません。不敬だとは存じ上げております。
ですが、我々はどうしても、アマイラ様や、他の方々。王位継承争いに、割って入ろうという気はないのです。」
こうなるとはわかっていました。
―――そしてアマイラが、これだけで諦めないことも。
「……そうですか。
ですが、一つだけお願いがあるのです。聞いてはいただけないでしょうか。」
……自身の派閥に入ってもらえずとも、自国の、北都の問題を解決しようとすることを。
「了承するかは、お願いの内容によりますが。
どうか、お聞かせ願えますか?」
……なにか、解決策につながるかもしれないと、エンダー公爵家側はこの「願い」を聞こうとすることを。
「どうか、エンダー公爵領に、とある商家の馬車を入れては、もらえないでしょうか。」
「商家の、馬車を……? ……っど、どうして……いえ。
その、商家の馬車を入れることによる、我々の見返りは。」
食いついた。
「北都への、支援機材の搬入ですね。
……私達からは、ほかは何も。
この国の一つの都が壊れるところは、見たくないもので。」
アマイラの、その返答に、イングザイディ様は驚きを隠せない表情で、こちらを見つめる。
が、やがて破顔し、すぐに顔を切り替える。
「その馬車は、いつ頃。」
乗り気になってくれているな。
……ここからは、私の出番だ。
「……今。今、ですわ。」
「……え。」
ここまでの流れは読んでいました。
なので、信頼を高めるためにも、用意をしておくのは当然でしょう?
……だから、アマイラ、あなたも驚いた顔はしないでちょうだい。
あなたが一応トップなのよ……?




