第四十一話 変質
とても不定期な更新になってしまい申し訳有りません…。
「―――前に進めって、言ってるのよ!!!!」
それは正しく、叫び。
心の吐露。
その叫びは、大地に染み渡るようにして反響し、増幅された。
それは、つまり神が世界に願ったということ。
吐き出されたその感情は、彼女の力を強めていった。
光が集まり、少女を起点としてまるで極星のように光り輝く。
禍々しい淀みも、障りもすべてが光の前に消え去り、清浄な空気が流れる。
ぱあん、と。
大きな音を立てて極星は破裂し、光が飛び散る。
幻想は剥がれ落ち、光の中心で縛り付けられていた少女の拘束が光のなかに溶ける。
そして、少女は優しい風に包み込まれ、ゆっくりと地に堕ちる。
「………っは、あ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ、は、ぁ…はぁ…。」
荒くなる息を整えながら、私は少女に駆け寄る。
否―――疲労からか、駆け寄るというより歩み寄る、といったほうが正しいか。
視界には白いモノがいくつも浮かび、ゆらゆらとうごめいている。
身体の限界を超えて放出した力のせいで、壊れた体が、休息を促しているのだ。
(ま、って。まだ、まだ、まだ―――)
その意志とは裏腹に、瞼が落ちそうになる。
「大丈夫ですか、我が主!」
意識をつなぎとめてくれる声がした。
淡い緑色の髪に栗色の瞳。そして清らかさを主張するように真っ白な肌を包む純白の法衣。法衣の裾を創造神、オースティング・ガーバナーを象徴する蔓の文様が縁取っている。
―――ギヴ・ホープだ。
こちらに駆け寄ってきたホープは、見慣れた者の姿を見たせいか、そのまま崩れ落ちそうになるセージャーの体を支えてくれる。
「ホー……プ………は、は、ぁ、っは……」
「我が主!」
懐かしい、神時代の呼び名を口にするホープ。
そして、早口で詠唱を口ずさみ、治癒魔法を施す。
肌についた傷は癒えてき、わずかながら力を作る器官も動いている。最たる変化は、回路の治癒であろう。過剰に力を回したせいでズタボロになっていた力の回路が、ホープによってみるみる内に修復されていくのがわかる。
じわじわと侵食され、蒙昧になっていた意識がクリアになり、体も動くようになっていく。
普通の治癒魔法ではこのようなことはできない。
せいぜい、体にある傷を治すくらいである。
それだけでも十分すぎるほどの性能を持っているが、ホープは私が直々に作り出した眷属のようなものであり、その身に“希望を与える”という言霊を宿すもの。
ホープの治癒は、身体の治癒のみにとどまらない。
通常の効果である身体の治癒に、精神の治癒。人間の知覚範囲外に存在する器官である力の回路の治癒。呪い、呪いの解呪や祝福の正常化など。
これ以外にもたくさんある。
そんなホープの治癒魔術の驚異的と言って良い回復で、セージャーは少しよろめきながらも立ち上がり、歩いていく。
近づいたことで影が差し、私に気がついたのか、こちらを見上げてくる少女。
「ぁ…。」
呆然。
まさにその様な様子でこちらを見る少女。
明るい橙色の髪や、ひょこりと生えている同色の耳はくすみ、汚れている。だが、その瞳は確かな光をたたえており、彼女が前に進んでくれたのだ、とわかる。
だが、異常が一つ。
―――少女の小さなその背中には、純白の羽生えていた。




