第三十二話 浄化
«ぅ……う゛……»
苦しげなうめき声が私の耳に届く。
―――シャン…
私のまとう衣の鈴が揺れ、軽やかな音が響く。
「いってらっしゃいませ。」
「…ええ。」
私の準備を終えたアレンジに送り出され、私は歩みだす。
今の私は、自堕落な王女、「マーヴィリー・フォレスト」ではない。
今の私は、神聖なる神の御子、「セイント・セージャー」。
アレンジによって整えられた私の姿は、神であった時の本来の姿形に戻っている。
聖書に描かれている神とほぼ同じ格好をし、ゆっくりと歩を進める私の踏みしめた地面は、ひび割れていたところが修復され、元の大地を取り戻しつつある。
これが、今の私が自然に行う事のできる〈自然浄化〉というモノ。
「マーヴィリー・フォレスト」のときにはできない芸当である。
この、神の御子モードの時以外は封印している。
〈自然浄化〉は、物を浄化するより制御が難しい。
ただの人間では、制御しきれなくて脳がショートし、最悪の場合、死に至ることがある。
そのため、神の御子モードの時以外は封印しているのだ。
神の御子は、〈自然浄化〉や、それより高度な〈死者回帰〉などをする時、脳がショートするなんてことが起こらないように私が作った神の依代のようなものだ。
通常の人間の十五倍ほどの身体能力、思考力等を持っている。
それでも神の依代なので、神の体よりは劣るけどね。
今、神の体は神世―――神の世界。世界のすべてを見通すことができる大きな泉と、神と神官の住居以外はなにもない、白い世界―――においてある。
神世は、私が望めばすぐに帰れる場所なので、安心できるのである。
«……が…………ァ………ぁ………………ぁあぁ゛…»
「っ……。」
時間がないね。
早く浄化しないと、被害が広がる。
―――Gyuuuuuuuu!!
「でも、まずはこの魔物の浄化か……。」
私は、眼前に広がる魔物の群れを見渡し、ため息をついた。
「はぁ…。多いわ。」
千はいるんじゃない? と、口では愚痴を言いつつも、自分の中にある魔力を練り始める。
「【聖なるもの 魔なるもの すべてのものに救いを 怒りを鎮めよ 我が名はセイント・セージャー】!」
ぶわり、と体から光が出ていき、魔物を包み込む。
その光を受けると、魔物はサラサラ、砂のようになって消えていった。
魔物の元の姿って瘴気に飲まれたただの動物なんだけど、浄化をすると、砂のようになって消えていってしまい、何も残らないのだ。
ちょっとかわいそうにも思えるけど、それ以外対処法がなにもないんだよね。
時折、瘴気に飲み込まれるのを回避している動物とかもいるんだけど……。
大体、そういうのは瘴気を逆に支配したりしてる、その動物の頂点とかだから、めったにいない。
ああぁ〜、それにしても、疲れた…。
これ終わったら有給申請しよ……。
ここからストックが切れますので、しばらく更新がなくなると思います。
申し訳ありません。




