第三十話 どうしたら、救えるの……?
マーヴィリーからイネッセに視点が変わります。
少なめです。すいません。
「……苦しいよね、悲しいよね……。」
そんな私の声に同調するかのように、球体からボコン、ボコンと音がする。
瘴気は、人の感情によって生まれるとされている。
いや、もっと正確に言えば―――激しい悪感情に含まれる微量な魔力、といったほうが良いだろうか。
瘴気だまりは、人の悪感情が多く生まれるところに発生しやすい。
また、瘴気になる悪感情には、「怖い」や「恐ろしい」、「痛い」や「助けて」といった悪感情を元にした強い思念なども入ってしまうため、このような場所―――奴隷オークション会場や、多くの人を監禁した場所なんかにも瘴気溜まりは発生してしまう。
「マーヴィリー殿下! 早く避難を!!」
騎士が私を呼ぶ。
黒い球体に背を向け、騎士の方へ歩いていく。
「それより、アマイラたちは無事?」
「はい。」
アマイラたちは無事なのね……良かった。
私は一瞬、後ろを振り返る。
「待っててね。」
△▼△▼
「………………………………………ぅ…うう…。」
奇跡的に崩れなかった一部の部屋で、イネッセは目を覚ます。
いつの間にか、もともといた部屋からは吹き飛ばされたようで、見たことがない部屋だった。
「こ…、こは…。」
そう言って、あたりを見回す。
ほぼ崩れている壁に、骨組みが見えている天井。
壁の役割を果たしていない壁は、その奥にいるものをイネッセの瞳に映した。
空中に浮かぶ、黒い、黒い、どす黒い球体。
その下には、ひしめき合う魔物に、ひび割れた大地。
空には厚い雲がかかり、光を通さない。
「ひっ……!」
ひしめき合う魔物たちのうちの一人が、イネッセに気づき、こちらに向かってこようとする。
どこなのかは、わからないけど。
ここは、「怖い」「いやだ」「苦しい」、そんな感情が、伝わってくるようで、嫌だ。
…………あ、れ…?
…?
………これは、「悲しい」「寂しい」「疲れた」?
«あ゛、ああ゛………»
さっきから聞こえる、この声が、「悲し」くて、「寂し」くて、「疲れた」、と言っているように、イネッセには聞こえた。
「どう、したら。……どうしたら…あなたを、救えるの……?」
「悲しみ」に。
「寂しさ」に。
「疲れ」に。
囚われたままのあなたを、どうやったら、救えるの……?




