第二十八話 イネッセの混乱と恐怖
今回はイネッセと???視点です。
注意⚠ ホラー表現があります。ご了承ください。
―――リン、ガシャン、ガシャン、リン……
少し時は戻り、マーヴィリーたちが【ディソール騎士団】と合流した頃のこと。
「――何事だ?」
【ディソール騎士団】の足音はイネッセとジャスティス商会商会長、モットーのいる部屋まで聞こえてきていた。
(…お姉、さま……?)
イネッセは王族ということもあり、主人となる貴族に歯向かわないよう、モットーから教育されていた。
普通の王族なら少し教育されただけで折れてしまっていたのだろうが、あいにくとイネッセはマーヴィリーとほぼ同じ環境で育ったため、鋼の精神を持っていた。
さらに、マーヴィリーお姉さまならば必ず来てくれる、という確信があったため、そう簡単に折れることはなかった。
「っち、しくじったのか?
しょうがない、私が直々にみてくるしかないか。」
そうぶつぶつと呟きながら部屋から出ていくモットー。
扉の前にいた護衛もモットーを護るために離れていった。
――ジャスティス商会商会長、モットー。
彼は、常に優秀な兄と比べられ、蔑まれていた。
がゆえに兄への嫉妬心を燃やし、その嫉妬心は野心となり、ついには彼自身が兄に成り代わり、商会長になっていた。
そこからの彼の堕落はすざまじいものだった。
「兄への復讐」という名の目的を達したことにより、彼はすべてのものに対してのチェックが甘くなっていた。
……いや、警戒心が薄くなった、というべきか。
そのせいで彼は、「無能」とよぶにふさわしい人間となっていった。
そして、類は友を呼ぶ、とはよく言ったもので、そんな彼の周りにもまた、「無能」な人間ばかりが集まっていった。
「無能」ばかりが集まったせいで、誰もがその間違いを指摘しない。
そのような経緯があり今現在、イネッセが脱走可能な状況が作り上げられていた。
(…手錠は、鍵があれば、外せる……。)
ずり、ずりと教育によりうまく歩けなくなってしまっている足を引きずり、モットーたちがテーブルにおいていった鍵に向かって進んでいく。
テーブルに近づくと、ドンッとぶつかり、鍵を落とす。
後ろを向き、震える手で鍵を拾い、鍵穴に差し込む。
――カチャリ
金属音がして鍵が外れる。
手の戒めが解かれてホッと一安心しているイネッセの頭の中に、強い怨嗟の声が響く。
【ゆ、ル゛サナ゛イ……ユルサ゛、ナイ】
イネッセは、人の心の中を無差別に読むことができる。
が、マーヴィリーとの研究の末、人の心を「読まない」事もできるようになった。
日常的に読まないようにしているが、副作用のように、強い思念などは確実と言っていいほどくっきり聞こえるようになってしまった。
「あ、あ、いや、いや!」
【ユ゛ルサ゛ナイ、ユル゛サナイ゛、ユル゛サナ゛イ、ユ゛ルサ゛ナイ、ユル゛サナイ゛、ユル゛サナ゛イ、ユ゛ルサ゛ナイ、ユル゛サナイ゛、ユル゛サナ゛イ、ユ゛ルサ゛ナイ、ユル゛サナイ゛、ユル゛サナ゛イ】
「いや、いや、いやあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
△▼△▼
………………………………………。
……………………………………………………。
…………………………………………………………………。
こ、コは、どコ…?
«キミハダァレ?»
わ、からナい………。
«オンナジ?»
ド、ういうコと……?
«オンナジダネ»
«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»«オンナジ»
ェ?
«ナカマダァ»
―――ユル、サ゛ナ゛イ………ユ、るさナイ゛…
…………………醜く歪な、黒い悪意が牙を向いた。




