第二十三話 イネッセ奪還作戦 最終段階②
「……声は出さず、聞いてください。」
程なくして、部屋からガラの悪い男が出ていく。
その後。誰も来ないことを確認して私は口を開いた。
周りの人の目が、一斉にこちらへ向く。
誰だ、何をしようとしている、というような目。
「私は、ジークレット商会のマイと申します。
皆様はここがどういうところかご存知でしょうか?」
身分は偽りのまま。貴族もいるので丁寧な言葉づかいで。
そんなことを心がけて話しかける。
「……知らないわ。」
「そんなこと知っているわけがなかろう。」
町娘風の衣装を着ている女性と、身なりの良い商人風の衣装を着ている青年が答える。
……。どこかでこの二人を見かけた気がする。
しばらく考え込み、あ、と思い至る。
レジスタンス侯爵家の長男、アドヴァンス・レジスタンス様と、その婚約者でプロームト侯爵家の長女、チェンジ・プロームト様であろう。
なぜかふたりとも教員免許を取っていることで有名なカップルである。
というか、ああ。
教員免許を取っているから、公爵家の嫡子の世話でも任されたんじゃないだろうか。
そんな事を考えていると、横から声がかかる。
「マイ、マイさん。」
アレンジが私を心配して声をかけてくる。
「え、ああ。……ごめんなさい。
少し考え込んでいて。」
うーん、この状況だと、この場のことを説明すると荒れそうだな……。
でも、ちゃんと説明しないとここから動いてもらえないかもだし。
私が難しい顔をしたのを見て、アレンジが口を開く。
「今からここについて説明する。
騒ぐなよ…? 騒いだら……わかってるな?」
アレンジの言葉に集まっていた人たちは顔を青くする。
「……はぁ……。しょうがないか。」
私はアイじゃないから、これが限界。
「……此処は、オークション―――奴隷オークション会場です。」
私のその言葉に、周りが騒然とする。
「うそ、でしょう……?」
「そんな……」
「あああああああ!」
アレンジの睨みが効いたのか、そこまで大きな声を出すことはない。
が、絶望したような弱々しい叫びがあちこちから聞こえる。
「――なぜ、なぜ、そんなことを知っている。
……どうせお前ら、あいつらの仲間なんだろう。」
一人の身なりのいい男が噛み付いてくる。
貴族か。
「……私が、新規の商会、ジークレットの商会長だからです。」
「それがどうした。」
未だに睨みつけてくる子息にため息を吐き、続ける。
「…この誘拐は、いくつかの商会―――、オリゴ商会、カバップ商会……以下傘下の商会、今はもう加担していませんが、インジャスティス商会、それに何人かの貴族が加担しています。」
「……え……?」
驚いたような声がチェンジ様から発せられる。
それは無視する。
「私は新規の商会としてオリゴ商会に挨拶に来たときに睡眠薬でも盛られたたのでしょう、目がさめたら此処に。」
「そして、オークション当日―――というか、もう今日ですね。
今日、私の妹がオークション会場にくるでしょう。」
オークションにねじ込むことは叶わずとも、アイを奴隷にするために。
オークションをするためのこの建物なら、その道具もあるでしょうしね。
「!!」
「挨拶に行く商会が怪しいことはわかっていましたので。
対策くらいはしています。」
ということで、と続ける。
「悪い人をぶっ飛ばすために協力してくださいますか? 皆様。」
待っててね、イネッセ。
「……あ、あ……お、ねぇ……さ…ま…」
捕らえられた少女の耳にも、その声は届き。
その宝石のような相貌に光が宿った。
投稿頻度が落ちるかもしれません。すいません。




