第二十一話 イネッセ奪還作戦 第三段階②
今回はアマイラ視点となります。
また、この話を読んでも読まなくても大丈夫なように物語は進めていきます。
この2つの点をご了承の上読んでいただければ嬉しいです。
………ん…。
心地の良いまどろみの中から覚醒する。
光は感じない。ただ、振動だけが伝わってくる。
「……。」
馬車の中?
それも、舗装のされていない、ガタゴトとした道を通っている。
「ぐふ、まだ起きませんか……。
もう少しでオークション会場につくというのに…。
ついたときにはちゃんと目を覚ましていてほしいものですなぁ。ぐふ、ぐふふふふ!」
眠る前のことを思い出す。
「アイ」としてマーヴィリー姉さまと別れ、イエガル商会長についていった。
通されたのは個室。
見るからに趣味が悪く、ジャラジャラとした金の置物に、吐き気がするほど香る男物の香水。
思わずついてきてくれた護衛のナナリーがむせたほどだった。
と、そんな商会長さんの部屋のことは置いときまして、通された後のことだっけ。
部屋に通された直後、イエガル商会長から不気味な言葉が聞こえた。
「っち……。効きが悪いか……?」
姉さまに言われた睡眠薬のことだろう。
座ってから少し、世間話を交えながら予定を確認している時。
私はいきなり眠気に襲われたふりをした。
「ぐふ、どうされましたか?」
「……いえ……急に、眠気…が……。」
その言葉とともに脱力する。
脱力したことにより、横に座っていたナナリーの肩に頭をあずける形になってしまった。
ゆっくり、深く呼吸する。
私の両隣に座っていたナナリーとホープさんが眠るふりをし始めたのがわかった。
「…ぐふ、やっと効き始めましたか……。
今のうちに運び出してしまいましょう……。
目がさめたときには……。ぐふ、ぐふふふふ!」
私達が寝るふりをした後、そんな声が聞こえた気がした。
……作戦のためとはいえ、長時間寝たふりをするのはやはり難しく、途中意識がはっきりないところもあった。
でも、姉さまに言われたとおり、情報収集のほうがつつがなく完了できたと言えよう。
……多分ナナリーやホープさんのほうが絶対に完璧だけど。
暗い気持ちになったのを強く目をつむることにより振り切って、集中する。
私達双子は、生まれつき五感が鋭い。
こうやって静かにして集中すれば、半径1キロ程度は聞こえるようになる。
正直、異能のたぐいの可能性が高いと思う。
風のざわめく音、木々の葉の擦れる音、衣擦れまでもが鮮明に聞こえるようになる。
脳が処理できなくなるので私は半径1キロ程度だが、姉さまは化け物かと思うほど脳の処理が早いので、半径五キロほどの音が聞こえるという。
お父様が私達双子にこの件を任せたのもこの能力があってこそであると思う。
というか、お父様は私達のこの能力を乱用し過ぎだと思う。
私達が普段城の外にほぼ出れないのも、お父様がこの能力で城の中を調査させているからだもの。
それに加えて城の中でも教育の一環とか言って、私はお母様の補佐を、姉さまは司書長をやらされているのだから溜まったもんじゃない。
姉さまは大好きな本に触れられて楽しそうだけれども、私は主にお母様の仕事である外交の話し合いに連れ出されているから、心労も倍である。
もう少し仕事を減らしてもらいたいわ。
そんな時、何やら声が聞こえてきた。
『―――ここ、どこ?』
!!
それは、聞き慣れた姉さまの声だった。
嫌だわ、姉さまの最悪な予想が当たってしまった。
姉さまが、オークション会場に連れて行かれてしまった……!
感想など、お待ちしております(_ _)




