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ナルシスト公爵と引きこもり令嬢の不本意なロマンス  作者: はるさんた


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第十八話:孤独の共同研究と昇降機の新たな役割

ユリウスの忠告を受けた夜、カエサルは鏡を見ながら深く考え込んでいた。「私が、アメリアに支配されるだと? 馬鹿な。私の愛はコレクションであり、支配だ。だが、ユリウスの言う通り、私は彼女の静寂を尊重し始めている…」


カエサルは、彼女の幸福を気にするのは、彼女の価値を完全に維持するためだと、ナルシスト的な理屈で自己を納得させた。


翌日、カエサルは中央書庫へ向かったが、いつものように扉から入らなかった。代わりに、彼はユリウスに命じて、昇降機を使って大量の書籍を運び込ませた。


キィィィィィン……


昇降機が降りてくる音は、やはりアメリアの注意を引いた。扉が開くと、中にはカエサルの等身大の彫像と大量の古文書がぎっしり詰まっていた。カエサルの姿はない。


アメリアは、昇降機の中に立ちすくむユリウスに尋ねた。「ユリウス様。これは何でしょう?」


ユリウスは疲れ切った顔で答えた。「カエサル様からの**『愛の贈り物』でございます。公爵は、『君の知性を満たすことが、私の美学の維持に必要不可欠だ』と仰せで。私の助言の結果、公爵は直接的な干渉**を控え、間接的な支配に移行された模様です」


アメリアは、運ばれてきた書籍を検分した。それは、彼女の研究テーマに深く関連する、非常に専門的で高価な資料ばかりだった。カエサルは、もはや彼女の**「知的な逃避」を破るのではなく、それを完全にコントロール**しようとしているのだ。


「そして、公爵様からの伝言がございます」ユリウスは声を潜めた。「『昇降機は、今後、君の静寂を守るための**物資輸送ライン としてのみ使用する。そして、君が私に会いたいと願った時だけ、私を迎えに来る **私の召喚装置 となれ。扉は、君の自由のために開けておく **』**と」


アメリアは、カエサルの新しい戦略に静かに感嘆した。彼は、彼女の**「自由」を尊重する振りをして、彼女の「承認」を待つという、最も高度な精神的な支配を仕掛けてきたのだ。これは、彼女の研究意欲と彼への好奇心**を最大限に利用する戦術だった。


「承知いたしました。ユリウス様。彼のこの行動は、私の**『孤独の共鳴』という仮説を裏付ける、重要なデータ**となります。感謝いたします」


アメリアは、ユリウスの苦労を労うことなく、すぐに書籍の整理に取り掛かった。


その夜、カエサルは自室で、いつもの鏡磨きもせず、アメリアからの**「召喚」**を待っていた。しかし、待てど暮らせど、昇降機は動かない。


「ユリウス。なぜ、アメリアは私を召喚しないのだ? 彼女は、私の新しい支配形態に感嘆しているはずだ」


ユリウスは静かにワインを注ぎながら言った。「公爵様。アメリア様は、貴方様からの新たな物資の整理に忙殺されております。特に、貴方が無理やり運び込ませたナルキッソスの彫像の周囲に、彼女の最も大切なパピルス文書を配置するため、慎重に環境を整えているご様子で」


「ナルキッソスの彫像の周りに、彼女の最も大切なものを置いているだと!?」カエサルは目を輝かせた。


「はい。そして、彼女の作業を観察したところ、彼女は貴方の彫像を**『美の基準点』**として利用し、その光沢で部屋の湿度を測っているようです」ユリウスは淡々と報告した。


カエサルの顔は、喜びと憤慨の間で揺れた。彼の愛の象徴が、湿度計として利用されている!


「侮辱だ! しかし、私の彫像が、彼女の最も重要な研究に不可欠な役割を果たしている。フフフ。これほどまでに高尚な愛の支配があるだろうか!」


カエサルは、憤慨しながらも、究極のナルシスト的な解釈で、再び自己満足に浸った。


しかし、ユリウスは言葉を続けた。「ですが、公爵様。アメリア様は、貴方様への直接的な関心が薄いため、自発的に召喚する可能性は低いと予測されます。彼女の研究は、貴方様への興味よりも、知的好奇心が勝っている」


ユリウスの言葉は、カエサルの心に突き刺さった。彼は、アメリアの**「自発的な愛情」**が欲しいのだと、初めて自覚した。


カエサルは、立ち上がると、自室の戸棚から、小さな木製の箱を取り出した。中には、アメリアが王都の図書館で探していたが、結局見つけられなかった幻の薬草図鑑のスケッチが収められていた。


「ユリウス。この本を、今すぐ昇降機でアメリアの元へ届けろ。これは、彼女が長年探し求めていたものだ」


「公爵様。それは、昨日の贈り物とテーマが同じです。『飽和攻撃』は、かえって彼女の関心を失わせる可能性がございます」ユリウスは進言した。


カエサルは、そのスケッチを手に取り、微かに微笑んだ。それは、ナルシストの仮面の下から覗く、本気の男の笑顔だった。


「違う。これは、実験だ。ユリウス。私が、彼女の静寂を破らずに、彼女の心を動かすことができるか。そして、彼女が、私という存在への感謝から、自発的に私を召喚するか。これは、愛の証明であり、私の孤独を埋めるための、最後の賭けだ」


カエサルは、ユリウスにスケッチを渡し、命じた。「そして、伝えろ。『これを届けるのが、昇降機の最後の仕事だ』と。あとは、君の意志で私に会いに来い、と」


ユリウスは、カエサルの行動に、もはや公務を超えた純粋な恋心が乗っていることを悟った。彼は、疲労を感じながらも、その危険な恋の行方を見守るため、再び昇降機へと向かった。彼の共犯者としての役割は、ますます重くなっていくのだった。

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