63話 俺たちは浦長に質問した
「ねえ、浦長さん、捕虜囲い、最近どうなってるの?」
俺が切り出すと、浦長は湯呑を置いて大きくうなずいた。
「おお。やっと屋根がつけられたぞ。亀山様の役所に炊き出しがあってな。二日に一度はトラたちが魚を持って行ってる。隣が捕虜囲いだから、捕虜にも雑炊を配ってるんだ」
「へえ……屋根があるだけで、だいぶマシだな」
俺がつぶやくと、トラがで強くうなずいた。
「そうなんだよ。雨風しのげると捕虜の顔が変わったんだ。人間らしくなったっていうか……むち打ちで捕虜が死んだことがあった。……その後、源氏の役人の舟が2隻続けて海で遭難した。あれは、きっと平家の落人の恨みだって噂が流れて、屋根がついたし、むち打ちも減った」
そのとき九郎がずいっと身を乗り出した。
「じい様、生きてるか?」
場の空気が一瞬だけ張り詰める。
浦長は腕を組んで、ゆっくり答えた。
「傷だらけだったが……治ってきた。しぶといぞ、あのお方は。あれこそ海の男じゃ」
九郎の目に光が宿る。
「……よかった」
爽やかなその言葉。
心の底から安心した表情だ。
俺も気になっていたことを聞いてみる。
「そういや、秀通様つまり、親父さまの消息は?」
「ああ」浦長が顎をさすった。
「一日おきに、トラたちが亀山様に顔を出している」
トラが口を挟む。
「毎月1日に亀山様に来いという話だったろう?
10月1日、一日中待ってたけど、帰ってこなかった。それからちょくちょく出向いて、役人とも話してるけどな……まだ戻ってこないんだ」
「……」
「でもよ、秀通様は源氏の功労者だ。役人連中も一目置いてる。だから乱暴にはされねえさ。次の機会は11月1日。明後日だ。一緒に行く者はついて来い」
皆は黙ってうなずいた。
俺は胸をなで下ろすと同時に、妙な不安も覚えた。
それから――ずっと喉に引っかかっていた疑問を口にする。
「源氏の落ち武者狩り……あれからどうなった?」
浦長は眉をひそめた。
「……来てる。まだまだ危険だ。山の奥や谷間で、ぽつぽつ見つかっては捕らえられてる。捕虜囲いに新入りが入るってことだ」
「まだ続いてるのかよ……」
「そりゃあ続くさ。褒美が貰えるんだからな」
トラが吐き捨てるように言った。
火鉢の炭がぱちりと弾ける。
俺たちは無意識に背筋を伸ばしていた。
――俺たちはまだ追われている




