60話 俺たちは浦長の屋形を目指して帆を張った
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
決まってからは、早かった。
それぞれが自分の道具を手際よく運び込む。
源さんは釣ったばかりの魚を手早くさばき、舟に刺身の桶を積む。
俺は水の入ったひょうたんを載せ、六さんは大事な投網を小さく巻いて丁寧に置いた。
ハヤテは急に浜に戻り、神様の鳥居のそばへ流木や板を丁寧に積み上げた。
「……戻ってきたら、その時はよろしくお頼みします!!」
大きな声で叫んだ。
九郎がそれを見て爽やかに笑った。
全員がそろうと、舟を一斉に押し出す。
砂をきしませ、波を切り、舟はゆっくりと浮かび上がった。
「もやい!」
ハヤテがもやいを手に、岩場の一本道を行く。舟を引き寄せて安定させたら、俺たちは一人ずつ乗り込んだ。
舟が揺れないようにバランスをとる。最後に、ハヤテが軽やかに飛び乗った。
ぱん、と音を立てて帆が膨らむ。
風を受け、船首は西へ向いた。
午後の太陽が西の空に傾いている。
俺たちはその光を追うように走り出す。
――太陽が沈むのが先か。俺たちが彦島に着くのが先か。
九郎が空を見て海を見て、嬉しそうにつぶやいた。
「いい風だ!」
ああ、浦長の屋形に帰るんだ。
歓迎されるかどうか、わからないが美味い魚汁とおにぎりがある。
お花ちゃんお鈴ちゃんは元気でいるだろうか。
源氏の落人狩りはどうなっているのだろうか。
――心配はつきないけれど、彦島に帰りたい
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