41話 見ろ! あれが蛇島だ!
ブラック企業で過労死寸前だった俺(赤星勇馬)は猫を助けようとして死んだ。神様からはスマホが見られるチートを授かり、壇ノ浦で入水する前の安徳天皇に転生する。そこは、平安貴族の優雅な生活を味わいつつも、悲惨な当時の庶民の暮らしを知る。
2度目の死は避けたい俺は、ブラック企業よりはましな今を全力で生き抜く。
~あれ?いつの間にか牛若丸から理想の君主と崇められているんだが~
太陰暦で8月、今の暦で10月に入っている。
陸では稲刈りが行われ、積み上げられた稲の束が嬉しい。
――飢饉は免れた。
潮風は時に冷たく、櫓を握る手がかじかむ。
俺たちは一晩中、帆を張って舟を進めた。交代で仮眠した。
西から源氏の落人狩りが追ってこないとも限らない。
あれだけ暴れたんだから、きっと、俺たちはお尋ね者だ。
この船に乗っているのは、
――俺、安徳天皇、今は安介と呼ばれている7歳になった男児。
体は子ども、心は大人の名探偵君状態だ。
ハヤテ、おそらく9歳。とにかく、機転の利くいい奴。
何でもすぐに覚える。俺の親友。
雁丸、10代後半。体は高校生くらい、心は25歳くらいのイケメンだ。
幕末の新選組・沖田総司の転生者。剣の腕が凄すぎる。俺の用心棒。
夜明け前の海は墨色で、息をするたびに冷気が胸に入る。
――みんなが目覚めた。
「ねえ、みんな。これから一緒に暮らすんだよね。
何と呼べばいいか教えてください」
名探偵君のように、可愛く言った。
男たちは顔を見合わせた。
「じゃあ、まずは俺から。 六さんと呼んでくれ。27歳だ。
そうだな、網打ちが得意だ。漁に出たら弟子にしてやるぞ。
大型魚の一本釣りも得意だ。海中での槍突き漁もできるぞ。
……この槍が俺の相棒よ」
長い槍を舟底から出した。
ハヤテが目を輝かせる。
「へー。平家の一門といっても、立派な漁師さんなんだね。おいらも見ての通り、生まれてからずっと漁師だ。 六さん、弟子入りさせてくれ!」
「ああ、ハヤテ。もちろんだ」
「おい、島が見えるぞ!」
雁丸の声は低く、しかし力強い。
前方に小さな島影が見えた。
「……蛇島か?」
俺は袂を叩いた。
舟底の袋の中からニャ~と鳴き声がする。
黒猫クロエが警戒した表情で歩き出した。
「おお! 猫を飼っているのか? 可愛いなあ。こっちへおいで」
六さんが抱こうとする。
クロエは六さんの手をチラ見して、迷った挙句俺の膝に乗る。
「おいおい、安介がいいのか?……残念だな」
「安介、……解説するニャ。
蛇島は、壇ノ浦から東へ80キロメートル。
秋穂の沖に浮かぶ島。
北側に突き出た砂浜が二つある。
東浜と西浜と呼ぼう。
対岸の秋穂まででも3キロだ。
いざとなったら秋穂の村に避難もできるし、そこで真水も汲める。
この蛇島、現代では竹島と呼ばれている。
無人島で、潮の流れも穏やかな、隠れ家にはうってつけの島だニャ」
ーーなるほど、ありがとうクロエ。
俺はクロエの頭を撫でた。
クロエの言葉は、俺にしか聞き取れない。
俺はハヤテに言った。
「あれが蛇島じゃない?」
「うーん、そうかも。上がって見ないとわからないな」
「じゃあ、自己紹介は、また後でのお楽しみだね。
雁丸が上陸に向けて舵を切った。
まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。★やリアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!




